壮馬が玄関を開けると、そこには50代半ばくらいの女性が立っている。
女性は壮馬を見るなり少し驚いた様子だった。
「あの…私、藤野花純の母です。この度は娘が大変お世話になりまして…」
女性はそう言って深々と頭を下げた。
「あっ、花純のお母様ですか?」
その時、壮馬が娘の事を呼び捨てにしたので、母・涼子の眉がピクッと動いた。
しかし壮馬はそんな様子には全く気付かずに言った。
「初めまして、高城と申します。とりあえず中へどうぞ…」
壮馬は来客用のスリッパを出した。
「よろしいんですか?」
「もちろんです」
壮馬はとっておきのキラースマイルで涼子に言った。涼子は途端にその笑顔に魅了される。
(花純ったら、こんなイケメンさんのお宅に…上司っていうからもっと高齢の方かと思っていたわ…)
涼子は心の中でそう呟くと、
「では失礼いたします」
と言って家の中へ入った。
壮馬に案内されてリビングへ行った涼子は、そのあまりにも豪華な室内に驚く。
そしてキッチンにいる娘、そしてその傍にはもう一人、自分よりも少し年上の上品な女性がいる事に気付いた。
キッチンにいた花純は、いきなり入って来た母親を見て驚く。
「お母さん! なんでここにいるの? どうやって上まで上がってこれたの?」
「ちょうど配達の方がエントランスのドアを通るところだったので、一緒にどうぞと言って下さってね。で、コンシェルジュの方にエレベーターの場所を教えていただいたの」
それを聞いた花純は納得した様子だった。
そこで百合子が聞いた。
「花純ちゃんのお母様?」
「そうだよ」
壮馬が答える。
「まぁ、花純ちゃんのお母様ですの? 私、高城壮馬の母の百合子です。お会い出来て嬉しいですわ」
百合子は満面の笑みで涼子を見つめた。
「高城さんのお母様でいらっしゃいますか?」
「ええそうです」
百合子は微笑みながらゆっくりと頷いた。
そこで壮馬がポケットから名刺を取り出し、花純の母に渡した。
「申し遅れました、高城壮馬と申します。今、花純さんとご一緒にお仕事をさせていただいております」
涼子はすぐに名刺を見る。
そこにはテレビCMでよく見かける大手不動産会社の名前が書かれていた。
「あら? 青山園芸の会社の方ではないの?」
そこで花純が慌てて言う。
「お母さん、実はね、今副業でこちらの会社にもお世話になっていて、その関係でこちらに置いていただいているの」
「まあそうだったの…」
涼子はまだ驚いていたが少し納得したようだ。
そこで百合子が嬉しそうに言った。
「まあ、立ち話もなんですから、お母様もご一緒に…ね? 花純ちゃん大丈夫よね?」
「あ、はい。多めに作ってありますので、今追加の餃子を焼きますね」
花純はそう言ってキッチンへ戻った。
花純が追加の料理を作っている間、ダイニングテーブルでは話に花が咲いていた。
「……という訳なんです」
壮馬が一応今までの経緯を二人に説明した。
「火事で焼け出された娘を泊めていただいたり看病までしていただいて、本当にありがとうございました。なんとお礼を申していいのか……」
「いえ、困った時はお互い様ですので…」
すました顔で答える息子を見ながら母の百合子はニヤニヤが止まらない。
そして百合子は涼子に向かって言った。
「まあきっかけはどうであれ、偶然同じ日にここを訪れるなんてきっと何かのご縁ですわ。涼子さん、今後とも息子ともどもどうぞよろしくお願いいたします」
「いえ、こちらこそ今後ともどうぞよろしくお願いいたします。それにしても、百合子様は本当に心優しい息子さんをお持ちで……」
「やだわぁ、百合子様はやめて下さいな。百合子さんでいいわ」
「あ、はい、では百合子さんですね。でも今日お知り合いになれて本当に嬉しいです。私東京にはお友達がいないので……」
二人は同年代の女子トークで盛り上がり始める。
「まぁ、じゃあ今日は宝山歌劇団を観劇されてきたのですか? 素敵ー!」
「今日は月組の公演でしたのよ」
「という事はトップは華月星也さんでしたかしら?」
「そうです! あらー涼子さん良くご存知ー」
すっかり意気投合している二人を横目に見ながら、壮馬はキッチンにいる花純をちらりと見る。
花純は楽しそうに料理をしていた。
その時、壮馬には何とも言えない感情が湧き上がってくる。
(結婚とはこういうものなのだろうか?)
ふとそんな思いに浸っていると、花純が焼きたての餃子と温めたシュウマイをテーブルへ持って来た。
そこで壮馬も立ち上がると、花純を手伝い始める。
(壮馬が家事を手伝ってるわ…)
壮馬の母百合子は信じられないといった顔をして目を見開く。
それから嬉しそうに言った。
「まぁー花純ちゃんどれも美味しそう」
「ありがとうございます。ごく普通の料理ですがお口に合うかどうか」
花純はその後母の涼子に、
「このシュウマイはね、東京一美味しいお店のものなのよ。副社長のお母様が持って来て下さったの」
と説明する。
「まあまあ、そんな有名なシュウマイなんてきっと長野では食べられないわね」
涼子は感動した様子でそう言うと、急にハッとする。
ここへ着いて早々色々な事があり過ぎてすっかりソファーの横に置いたままだった菓子折を取りに行く。
「これ、つまらないものですが…長野のお菓子なのでお口に合いますかどうか…」
それを受け取った百合子は、紙袋に書いてある店の名前を見て言った。
「まぁ、ここのお菓子存じ上げておりますわ。クルミが入っていて美味しいのよね。私大好きですわ」
「お母様がいらしているとわかっていたら二つご用意してきましたのに…一つしかなくて申し訳ないです…」
そこで壮馬が言った。
「折角だから持って帰って父さんといただいたら?」
「えー? いいの?」
「もちろん。いいよな? 花純?」
そこで花純が壮馬を見る。
「ええ、もちろん」
「まあ嬉しい! 花純ちゃんありがとう。パパも喜ぶわぁ」
百合子はニコニコと嬉しそうだった。
それから、四人で賑やかな晩餐が始まった。
話題は、今壮馬と花純が取り組んでいる庭園の事、そして花純のフローリストでの仕事の話、
花の話題がさらに広がり今度は花純の実家のバラ園の話となった。
バラに関しては壮馬の母百合子もバラ好きだったので、そこでまた話が弾む。
花純が実家の祖母が野菜やハーブ作りをしていると話すと、壮馬と百合子は興味深げに聞いていた。
「バラ園なんて素敵! 今度長野に遊びに行っちゃおうかしら?」
「どうぞ、大歓迎ですわ! でもどうせだったらバラの咲いている時期がよろしいかと。ただ、家は質素な普通の家ですので驚かないで下さいね」
「いえいえ、そんな事を仰らないで下さいな。ご主人が亡くなられた後、おばあさまの助けを借りつつこうしてりっぱに娘さんを育て上げられたんですもの…同じ子を持つ親としてとても尊敬しますわ」
壮馬の母百合子は、社長夫人であるのに気取ったところが一切なく花純の母とも普通に接してくれる。
それを見た花純はとても素敵な人だなと思った。
きっと花純の母も同じように思っているに違いない。
植物についての話が一段落すると、今度は壮馬の話へと移った。
「うちの息子は来年で40になりますのよ。それなのにまだ独身で誰かいい人はいないのかしらーなんて思っていたら花純ちゃんと一緒に暮らしていからびっくり! 涼子さんの大切な娘さんを一人暮らしの自分の家に連れ込むなんてね…例え何もなかったとしても常識知らずにもほどがあります。もうね、これは息子にしっかりと責任を取らせますからどうか許して下さいね。それにうちとしてはこのまま娘さんをお預かりしてもいいと思っていますのよ」
「いえいえ、そんなおそれ多いです。うちの娘は庶民の家で育った子なので副社長のお相手など務まる訳がありません。なのでどうぞお気になさらずに…」
「あらー、そんな事気にしないで下さいな。お部屋もきちんと綺麗にしていただいて、お料理もこんなにお上手で、壮馬には勿体ないくらいのお嬢さんですわ」
壮馬がワインを開けて二人に飲ませたせいか、二人はどんどん饒舌になっていく。そしてどんどん話があらぬ方向へと進んでいく。
花純は母親二人が自分を壮馬の嫁にするだのしないだのと話しているのを聞いて、顔を真っ赤にしていた。
それを壮馬は可笑しそうに微笑んで見ている。
全く会話が途切れずにあっという間に時間が過ぎていく。
それからしばらくして四人は漸く食事を終えた。
コメント
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壮馬さん、花純ンを置いて百合子ママは花純ンを迎える気持ちいっぱい🥰 両家ママ意気投合で盛り上がりも嬉しい光景よね?壮馬さん? あとは壮馬さんが花純ン射止めるのよ‼️ 多分…少しずつ花純ンの気持ちも壮馬さんに向いてきてるように感じる💝
壮馬ママに続き、花純ママも突然の訪問(○_○)!! いきなりお見合いをしているかのような展開に早変わり....⁉️😮❗️ 壮馬さんに「両家ご家族」という、頼もしい味方が出来ちゃいましたね~😆👍️❤️ 壮馬ママは花純ちゃんがお気に入りだし、ママ同士もすっかり仲良し😃🍒😃💕 本人達の意思さえ固まれば、 直ぐにでも結婚できそうな勢い....💖😁w あとは 花純ちゃんを射止めるだけだね~😍💘 壮馬さん、しっかり頑張って~✊‼️♥️♥️♥️🤭
百合子ママも涼子ママもとても素敵なお母さんでお二人とも意気投合して最終的に花純ンと壮馬さんをくっつけようとしてるのがとても嬉しい😊❤️ 壮馬さんは2人のママの援護射撃に大満足そうだし、花純ンも少しは壮馬さんを男性として意識し出したかな⁉️🤭💓 このまま壮馬パパ兼社長に話が流れてさっさと婚約の運びになったら本当にいいなぁ😊👩❤️💋👩❣️