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白い魔女と小さな魔女

50 - 加奈と真帆のその後語り・ごにんめ

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2024年07月12日

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歳をとるにつれて、一年というものがいかに短いか思い知らされる。

季節はあっという間に巡り、気が付けばもう、桜の咲き乱れる春が訪れていた。

美しい青空の下、桃色の花びらが風に舞い、ひらひらと宙を踊っている。

アリスと真奈は、遊歩道の数メートル先で、楽しそうにそんな桜を見上げていた。

ふたりの足元には、二匹の黒い猫が、何かを達観しているかのように佇んでいる。

私と真帆も、そんなふたりとから少し離れた後ろに立ち、同じように桜を見上げていた。

「綺麗ですねぇ……」

真帆がため息を漏らすように言って、私も、

「……そうだね」

と同意する。

それから私は、真奈を見つめる黒毛の靴下猫・むぅに眼をやった。

むぅ、とは真奈が名付けたあの靴下猫の名前だ。

むぅの正体は、真奈の中に存在していた、夢魔という化け物。

かつて多くの魔法使いから魔力――生命力を貪り、死に至らしめた恐ろしい存在。

私や真帆の両親を殺した、憎むべき怪物。

それが今や、あんな可愛らしい猫の皮を被り、真奈の使い魔のように、そこにいるのが不思議でならなかった。

真帆の使い魔である黒猫のセロともうまくやっているみたいだし、正直、とても複雑な気持ちだ。

何か悪い企みがあるんじゃないのか、再び魔法使いたちを襲い始めるんじゃないのか。

私自身は魔法使いではないのだけれど、それはあくまで『職業』としての話だ。

代々魔女の家系である以上、魔法は使えなくとも、同等の魔力を私も有している。

友人知人、家族が襲われるかもしれないだけでなく、自分もまた同じ立場にあるのだ。

むぅが現れた時、あの日、あの場所にいた全員が強い不安を感じたのは言うまでもない。

私たちは話し合いの末、むぅのことを直ちに魔法協会に報告した。

間もなく魔法協会の老人たちが大挙して我が家に押し寄せ、むぅ――夢魔は老人たちを相手に、真摯な謝罪、自分という存在、真帆と共に生きたこの数十年で学んだ知識、感情、自分が今後どうあるべきかを滾々と語った。

そして老人たちが出した結論、それが『様子見』だっただ。

依頼、この半年の間、夢魔は靴下猫のむぅとして、常に真奈と共にあった。

もしかしたら、このまま真奈の使い魔になるんなじゃないか、というのが真帆の予想だ。

「……本当に大丈夫なの?」

「何がですか?」

改めて訊ねると、真帆はキョトンと首を傾げた。

「夢魔のこと。真奈のそばに置いといて」

すると真帆は、何を今さら、という表情で、

「大丈夫ですよ、心配し過ぎです。今のむぅは、もうあんなことはしませんよ」

「なんでそう言い切れるわけ?」

「だって、あの子はずっと、私の中にいたんですから」

「……だから心配なんだよ」

「え~っ! それどういう意味ですか!」

「あんたは昔っから問題行動起こしっぱなしだったでしょうが。そもそも、おばあちゃんはあんたを魔女になんかする気なかったのに、勝手に店の魔法道具を持ち出してはイタズラばっかりしていたし、学校では要らないもめ事を起こしまくってたし、本当に大変だったんだからね? それもこれも全部、アイツのせいもあるんじゃないの?」

「それとこれとは話が別です」

真帆は言い切る。

「私の言動は、私自身によるものです。それに、むぅも言っていたでしょう? むぅは私の中で、私を介して、この世界や人を理解していったんだって。今のむぅは、もうかつての夢魔ではないんですよ。それは私が一番、よく解っています。幼いころから、ずっと私の中には、あの子がいたんですから」

「そうかもしれないけど……」

「むぅはたぶん、私の影響を強く受けています。そして真奈が私から生まれたように、むぅもまた私から生まれた存在です。それはつまり、あの子たちはどちらも私、ということでしょう?」

「……? え? そうなる?」

「なります、なります」

真帆はうんうん頷いた。

「あの子たちが私ということは、私はあの子たちということです。だから、むぅがもう大丈夫であることを、私は知っているんです」

おわかりですか? と口元をにやりと歪める真帆に、私は若干混乱しながら、

「…‥わかったよ、信じるよ」

何だかもう面倒くさくなって、これ以上考えることを諦めたのだった。

少なくとも、魔法協会の人たちは、あの夢魔の存在を認知している。そのうえで『様子見』と結論を出しているわけだし、夢魔自身もこの半年間、本当に飼い猫のように生活してきた。小難しいことを口にすることを除けば、今はただの黒毛の靴下猫だ。

もう、それでいいじゃないか、当面の間は。

私は改めて、アリスと真奈、そしてむぅとセロに視線を向けた。

そこにあるのは、ただ平穏な日常だった。

それだけで、十分だった。

それから私は、ふと、真帆に、

「ねぇ、真帆、真奈のあの服」

「ん? 何ですか?」

「あ、が抜けてるよ」

「……あ?」

「うん。あ」

画像


真奈は温かい日差しの中、デニムのスカートに白いシンプルな半袖シャツといった格好で、その半袖シャツの胸には『I am Witch』と黒文字でプリントされていた。

真帆が趣味で作っている、ステンシルプリントされた手作りデザインのTシャツだ。

私も昨年、『姉』と大きく胸にプリントされたTシャツを真帆から貰ったが、さすがに外で着るには恥ずかしすぎて、部屋着としてたまに着るくらいだった。

「I am Witchじゃなくて、I am a Witchじゃない? あ、っていうか、аが抜けてる」

すると真帆は納得したように、

「あー」

と口にして、くすりと笑んだ。

「そんな小さいこと、どーでもいいじゃないですか」

「いや、まぁ、あんたがいいって言うんなら、別にいいけど……」

「それに、あの服だって、すぐに着られなくなっちゃうんですから」

私は「え」と漏らし、改めて真奈に目を向けた。

「ホント、子供って、どんどん大きくなっていきますよね」

「……そうだね」

生まれた時は、あんなに小さかったのに。

今、目の前にいる真奈は、あの頃からは考えられないくらいに成長していて。

確かにあの服も、あっという間に着られなくなってしまうことだろう。

そう考えると、確かにaが抜けていることなんて、小さなことだ。

「――ママ! 加奈ちゃん! 行くよ!」

真奈がこちらを振り向き、笑顔で大きく手招きする。

アリスも、あの優しい微笑みを浮かべながら、私と真帆を待っていた。

その足元では、セロとむぅが、大きく口を開いてあくびする。それはどこからどう見ても、どこにでもいる2匹の猫で。

「は~い!」

真帆も笑顔でふたりに手を振り返して、

「ほら、行きましょ!」

と私の手を引く。

私はそんな真帆に引っ張られながら、アリスや真奈に、

「はいはい、今、行きますよー」

笑顔で言って、駆け出した。

……白い魔女と小さな魔女・了

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