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※今回は第3話〜第9話までのストーリーが権兵衛目線です
最初は、本当に些細な違和感だった。
会話の途中で、話題が途切れる。
さっきまで誰かと話していたはずなのに、内容がごっそり抜け落ちる。
「……今の、誰と話してた?」
口に出してから、ぞっとする。
そんなことが、何度も続いた。
ある日、屋敷で光子郎と話している時だった。
「最近さ、俺……記憶、飛ぶんだよ」
なるべく軽く言ったつもりだった。
光子郎は一瞬だけ眉をひそめたが、すぐにいつもの調子に戻る。
「疲労か、睡眠不足だろ。
ついに阿呆から間抜けへと進歩したな下僕?」
「……そう、かな」
でも、違う。
“何を忘れたか”すら分からない。
それが一番、気持ち悪かった。
俺は、その夜こっそり光子郎を呼び止めた。
「なぁ、もしさ……
周りの人間が、少しずつ誰かを忘れていく病気があったらどう思う?」
光子郎の動きが、止まった。
「……具体的だな」
「仮定だよ。仮定」
嘘だった。
光子郎は少し黙ってから、淡々と言った。
「理論上はあり得る。
脳の認識異常か、量子レベルの干渉か……
ただし、前例はほぼゼロだ」
「治る?」
「…この世に100%というものはない」
その言葉が、やけに重かった。
俺は聞けなかった。
“それ、純のことなんだ”とは。
⸻
数日後。
屋敷で権兵衛と光子郎が話していると、背後から声がした。
「やっほ〜。何話してるの?」
一瞬、反応が遅れた。
「あ、……わ!
八重、いたのか!」
言った瞬間、胸の奥がひどく軋んだ。
純の表情が、ほんの一瞬だけ揺れる。
でも、すぐにいつもの顔に戻った。
「ひどいな〜」
その笑顔が、やけに薄っぺらく見えて――
嫌な予感が、確信に変わった。
その日から、俺は意識して純を見るようになった。
声をかける前に、
名前を呼ぶ前に、
「今ここにいる」と確認するみたいに
それでも、忘れる。
気づいた時には、もう遅い。
⸻
ある日、純が急に立ち止まった。
俯いたまま、動かない。
「……?」
足元に、水滴が落ちる。
涙だと分かるまで、少し時間がかかった。
「……じゃ」
短く言って、純は走り出した。
「待て!」
反射で追いかける。
背中を見ているのに、
名前が、出てこない。
喉の奥が詰まる。
角を曲がったところで、ようやく言葉が落ちてきた。
「……八重!」
振り返った顔は、驚きと、諦めが混じっていた。
そこで、全部が腑に落ちた。
忘れてたんだ。
何度も、何度も。
「……もう、限界だろ」
俺が言うと、純はしばらく黙ってから、ぽつりと答えた。
「……存在消散病だって」
治らないこと。
忘れられていくこと。
残り時間。
全部、静かに話された。
俺は、その場で何も言えなかった。
⸻
後で、光子郎に全部話した。
珍しく、光子郎はすぐに口を開かなかった。
そして、はっきり言った。
「下僕……いや、純!
俺がお前を治す!」
自信があるのか、
意地なのか、
それでも、救いのある声だった。
俺はその横で、拳を握りしめる。
――絶対に、忘れてやるもんか
それでも病気の進行は止まらない
俺はその事実を、目の当たりにした。
「残り一ヶ月なんだ…」
そう言われた時
俺は瞬時に判断できなかった。
体のどこかでその事実を拒んでいた 受け止めたくなかった
俺は数字しか理解していなかった。
残り一ヶ月
ーーーーーーーー
俺は気晴らしに散歩を誘った
歩いている途中で、スワロウテイルに会った。
全員、俺のことは覚えている。
でも――
踏分が、ちらりと隣を見る。
恵美も、同じ方向を見る。
神柴だけが、慎重に言った。
「……隣の方、
どなたか存じ上げている気がしたのですが……」
そして、
「……ご兄弟、でしょうか?」
俺は、息が詰まった。
“見えかけている”。
それが、逆に分かってしまった。
去っていった後、俺は聞いた。
「……いつも、あんな感じなのか」
「まぁ、最近はね」
純は、軽く言った。
軽すぎる声だった。
俺は、その背中を見ながら思った。
こいつは、 どれだけ一人で耐えてきたんだ?
忘れられ続ける恐怖を、
全部、笑って誤魔化しながら…
続き⇨♡600
コメント
7件
純君… まぁ確かに知らない病気の話されたら皆困惑しますわな
純〜…ッ!
今回も最高すぎます❗️続き、楽しみにしていますね☺️