王城の会議室のひとつ、そこで第一王子と騎士団長は作戦の確認をしていた。
他に誰も入れず、二人だけで。
準備期間をひと月とし、その模擬戦を明日に控えた深夜にというのは、必勝を激励するには遅い。
もしくは、早すぎる。
「あのど腐れ聖女めが! 堂々と調印の場に居ただと? クソが! 今思い出しても腹が立つ! 魔族であるだけではなく、魔王の嫁だ? 馬鹿にしやがって! 誰も彼もあんな偽聖女なんぞに騙されやがって! あまつさえ模擬戦だなどと! ……生ぬるい事を」
灯りは燭台の蝋が三つだけ。
怒りに満ちた王子の顔は、揺れる光のせいか、さらに歪んでいるように見える。
「殿下。すでに準備は整っております。ミサイルランチャーに誘導レーザー、それらを扱うための補助アーマー、その他の銃火器類も全員分揃えました」
対して騎士団長は、いつもの癇癪だからと気にも留めず、淡々と報告している。
同じセリフを、いったい何度聞いただろうかと思いながら。
「勇者はどうだ。使えそうか」
「いえ……。もう聖女には敵対したくないの一点張りです。洗脳もなぜか通じませんので、別の者を用意しました。やつらには劣るものの、それなりの魔法は使える事を確認しております」
この騎士団長もまた、燭台を挟んで互いの顔を近くに、口の端を吊り上げていびつな笑みを浮かべる。
「ほう。ならば、火力も問題なさそうだな。今回は聖女の結界も気にする必要がない……これ以上のチャンスはないぞ」
「はっ。作戦は全て滞りなく。明日の模擬戦を待つばかりです」
「……開幕と同時に全弾斉射だ。狙いを間違えるなよ? 商工会の玩具など無視だ。その向こうに居る魔王ども全員、消し炭にしろ」
彼らが用意したものは、模擬戦には相応しくない、過剰な火力らしかった。
「承知しておりますとも殿下。聖女に直接手を下せずとも、魔王は参加するという情報通りなら……模擬戦で魔王を殺し、そして魔族の国も、その足で全て根絶やしにしてくれましょう」
「フハハハ……。見ていろよ偽りの聖女め。俺の腹を抉った罪を、きっちりと償わせてやるからな……」
「私も、模擬戦後の全軍一万の指揮、必ずご期待に応えてみせます」
「ふっ。最新兵器の飛行戦車を七十機も用意したのだ。どちらも一瞬で方が付くだろう」
それらは国王には秘密裏に、しかしもっともらしい嘘を並べ、誤魔化して準備した。
明らかな挙兵の様子に、誰も気付かない訳がない。
だがそれを、模擬戦の前座として、デモンストレーションを披露するためだと報告していた。
もちろん、動員された兵達も、そのつもりでいる。
ただ、兵の中には、先の戦で死傷した家族を持つ者も多くいる。
だからこそ兵となり、厳しい訓練にも耐えてきた者達が。
その彼らは、数千人を率いる連隊長として隊を率い、そしてその他は、最新兵器の操縦者となっている。
つまり、魔族に恨みを持つ者達には、根回しが済んでいる状態だった。
「魔族どもの蹂躙、殿下は参加なさらなくても良いので?」
「俺は数よりも、たった一人でいい。あのクソ聖女だ。あいつの腹の中を抉り出して、口からもう一度詰め直してやらねば気が済まん」
「おお……恐ろしい」
「何を言う。貴様こそ、その笑みは悪魔のようだぞ。復讐に気を取られて足をすくわれるなよ」
互いに、蝋燭の火にゆらめく冷たい笑みを見て、同志であることを再確認した。
裏切りは許さない。
国王や、魔族である聖女に与するような輩であるなら、今ここで殺しておく必要がある。
その最終確認が、この密会であった。
「無論です。それでは私は、最終調整に向かいます」
「ああ。模擬戦と聖女の始末は任せておけ。勇者もどきと二百人程度の指揮くらいは、俺でも出来る」
「では、明日は手はず通りに」
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