テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
明花永(あかな)
12
#普通
野々さくら
202
ドラゴン店長
30
「はっ!!!!!」
信愛は気づけば、その場に膝をついていた。
頬を伝う涙を止めることができない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
荒く乱れた呼吸を必死に整えながら、小さく呟く。
「そんな・・・そんなのって・・・辛過ぎる」
信愛は呆然と立ち尽くした。
幼い佳苗が、母を待ち続けたあの記憶。
あまりにも残酷で、あまりにも切ない光景が脳裏に焼き付いて離れない。
「信愛!?」銚子が慌てて駆け寄る。
「大丈夫?意識ハッキリしてる?」
その声で、信愛の意識はゆっくりと現実へ引き戻された。
「お、お母さん・・・」
「バカね! 無闇に霊が近づくんじゃないの」
銚子は少し叱るような口調で言う。
「精神の共有をしてしまったら
信愛の体が蝕まれるかもしれないのよ?」
信愛はゆっくりと顔を上げた。
「佳苗の・・・記憶を見た」
銚子は目を丸くする。
「え? 記憶?」
「多分、魂に刻まれた佳苗の記憶だと思う
勝手に頭の中に入り込んできたの」
銚子は静かに頷いた。
「なるほどね・・・」
信愛は唇を噛み締める。
「佳苗・・・ぐすっ」
銚子は優しく微笑み、信愛をそっと抱き寄せ、頭を撫でながら、穏やかな声で語りかける。
「随分と辛いものを見たのね」
信愛は震える声で言う。
「う、うん、でも」
銚子はその言葉を遮るように微笑んだ。
「そんな佳苗ちゃんを救えるのは信愛よ!」
信愛は迷いを浮かべたまま銚子を見つめる。
「言ったでしょ?」
銚子の瞳には揺るぎない信頼が宿っていた。
「申し訳ないって気持ちが信愛にあるなら
誠心誠意、彼女を祓ってあげるの」
信愛はゆっくりと頷く。
「わ、わかった・・・」
静かに立ち上がると、佳苗の前へ歩み寄った。
「佳苗・・ごめんね・・・」
信愛は申し訳なさそうに、真っ直ぐ佳苗を見つめる。
「今からアナタを祓う」
佳苗は何も言わず、その場に立ち尽くしている。
「アナタの居場所はここじゃないから」
信愛は悲しげに微笑んだ。
「さようなら・・・佳苗」
そっと佳苗の頭へ手を添える。
目を閉じ、静かに祈りを捧げた。
「霊堂霊冥霊界遊鬼──
霊障消滅安寧祈願──
浄化清明合掌礼拝──
安らかに還れ──
鎮魂を願いて──
霊魂成仏」
最後の一節を唱え終えた瞬間だった。
さくらの体は何かに解放されたかのように、その場に崩れ落ちた。
「さくら! 大丈夫?」
信愛は慌てて駆け寄る。
しかし、さくらはまだ意識が朦朧としているようで、呼びかけに応えることはなかった。
「除霊してすぐだから、まだ目覚めないわ」
銚子は倒れたさくらの様子を確かめながら静かに言った。
「しばらく安静にしときましょう」
信愛はまだ不安そうな表情を浮かべたまま、小さく頷く。
「そ、そうだね」
その時だった。
さくらの体から、一筋の淡い光がふわりと浮かび上がる。
まるで彗星が夜空を駆け抜けるように、その光はゆっくりと天へ舞い上がり、やがて空へ溶けるように消えていった。
茜は思わず空を見上げる。
「何!?あの光!?」
銚子は穏やかな笑みを浮かべる。
「信愛が祓った佳苗ちゃんよ」
茜は目を丸くした。
「あ、あれが・・・」
消えていく光を、どこか物珍しそうに見つめ続ける。
そして、小さく呟いた。
「天国に行けたのかな?佳苗ちゃん」
鋭子は少しだけ目を伏せる。
「さぁ・・・どうでしょうね」
静かな沈黙が流れる。
やがて銚子は空を見上げ、優しく微笑んだ。
「でもきっと天国行ってるわよ」
信愛もまた、天へ消えていった光の軌跡を見つめる。
(佳苗・・・)
心の中でそっと名前を呼びながら、信愛は静かに両手を合わせた。
二度と悲しい思いをする子どもが生まれないように。
あの幼い少女の魂が、今度こそ安らかな場所へ辿り着けるように。
そんな願いを胸に、信愛はいつまでも空を見上げていた。
◇ ◇ ◇
それから佳苗はゆっくりと目を開けた。
「ここ・・・どこ?」
見渡す限り、一面に色とりどりの花が咲き誇る花畑。
優しい風が吹き抜け、花びらがふわりと舞う。
現実とは思えないほど穏やかで、美しい景色だった。
佳苗は戸惑いながら辺りを見回す。
「私・・・どうなっちゃったの?」
返事はない。
不安そうに胸元を押さえながら、小さな声で呼びかける。
「信愛・・・どこ?」
少し間を置き、今度はもっと会いたかった人の名を口にした。
「お母さん・・・どこ?」
その時だった。
遠くから、一人の女性がこちらへ向かって駆けてくる。
佳苗は目を凝らす。
「あ、あれは!」
女性は涙を浮かべながら叫んだ。
「佳苗ーーー!!」
その声を聞いた瞬間、佳苗の表情がぱっと明るくなる。
「お母さん!?」
走ってきた女性は、佳苗がずっと会いたくて、ずっと待ち焦がれていた母・美波だった。
「お母さーーん!!」
佳苗は夢中で駆け出す。
「わぁぁぁぁん!」
そして勢いよく美波の胸へ飛び込み、強く抱きつながら、時折嗚咽混じりに大泣きする。
「お母さん! 会いたかったよ〜ぅ!」
美波も佳苗を力いっぱい抱きしめる。
「ごめんね? 佳苗!」
震える声で何度も謝りながら、娘の頭を優しく撫でた。
「ずっとひとりで辛かったわよね?
寂しかったわよね?」
佳苗は涙を流しながらも、笑顔を見せる。
「ううん! 平気だよ?私もう大人だもん!」
その健気な言葉に、美波の瞳から涙が溢れた。
「強がっちゃって」
嗚咽をこらえきれず、美波は再び佳苗を抱きしめる。
「佳苗ったら・・・」
声を詰まらせながら、美波は何度も首を横に振った。
「もう離さない! 離れない!」これからはずっと
お母さんと一緒よ? 佳苗!」
佳苗は満面の笑みで何度も頷く。
「うん!ずっと一緒!」
失われたはずの時間を取り戻すように。
二人は互いの温もりを確かめ合うように、いつまでも強く抱きしめ合っていた。