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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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夕方頃、赤とピンクが混合したバラの花束を持ち、病院に向かった。

事前に部屋番号を聞いていた為、すんなりと病室に入ることができた。


「葉月、来たよ」

「来てくれたの!!ありがと〜う!嬉しい!」

本当に、いつもの通りの葉月だ。

こんな元気な子が、本当に病気なのか?


「あの日はごめんね。放課後、話せなくて…」

「全然。それより、なんで入院して…」

「やっぱ、気になっちゃうよね。」


そして僕は、病室の窓から見える刻々と橙色に染まる夕日を眺めながら、葉月に問いかけた。


「嫌じゃなければ、病気のこと、教えてほしい」

こんなに元気な子が、無邪気に笑う子が、

病気だなんて信じられなかったから。

葉月は寝転んだまま、答え出した。


「前にさ、私が新聞に出してほしいって言った時があったでしょ。私が急に新聞部の部室に訪れた日。覚えてる?」

「もちろん、覚えてるよ。変な人だなぁって思ったから、よく覚えてる。」

部室で会ったことは今でも鮮明に思い出せる。

綺麗な褐色の瞳が、まるで太陽に反射しているみたいで輝いていたから。

綺麗な人だなって、心の底から思ったから。


「だよね、覚えてると思った。私がその日に冗談で〃重い病気だ〃って言ったのも覚えてる?」

「あぁ、もちろん。」

一瞬、信じた内容だからもちろん覚えている。


「その話、実は本当の話なんだよね。〃重い病気だ〃って話したやつ。」

「…え?」

理解ができず、間抜けな声を出してしまった。

そんな僕の声に気にせず、葉月は話を続ける。

「重い病気って、よくわかんないけど。医者からは難病だって言われた。」


難病…?

ということは、葉月はこの世から消えるのか…?

いなくなるのか…?

もう二度と、会えなくなるのか…?

「難病って…死ぬのか…?」


「私の病気は叶願病(きょうがんびょう)。病名の通り、願うと願いが叶う病気なんだ。奇病らしい。」

「すごい…ね。けどそれなら死なないよね?」

「願わなければ、ね。願うとね、代償として死んじゃうんだ。しかもね、死んじゃえば、みんな私が生きてたことを忘れる。もちろん君もね。これも代償っていうやつなんだ。」

願うと死ぬ…。

つまりは願わなければ死なない訳だ。


「願わなければ死なない訳なんでしょ…?それなら、願わなければ…」

「もう無理だよ。手遅れ。たくさん願っちゃったから。だから私は、新聞に出してって頼んだんだ。新聞に出て、みんなに覚えてほしかったから。」

「わかった…新聞には出す。だから、だからお願い…。もう願わないでくれ…」

「あと一回願うと、私死ぬんだよね。」

笑いながら、葉月は答えた。

「じゃあ、もう願わないでくれよ…!」


必死な声で、叫んだ。

彼女がなんで笑ってるのか、理解できなかった。

彼女は、僕の気持ちなんか、全然わかってないんだ。

僕はもう一度、叫んだ。心の底から気持ちを込めて。


「…わかったよ。もう願わない。その代わり、約束してほしい。」

「約束…?なに…?」

「絶対に。絶対に私のこと、新聞に出してよね。私のこと、みんなに覚えててほしいから…」

今すぐにでも泣きそうな声で葉月は喋った。

いつもの無邪気な笑顔は、そこにはなかった。

「わかってる。絶対に出すから、安心して…」

そんな葉月の声に釣られて、自分も少し泣きそうになった。

切り替えるように、葉月は言葉を発した。


「…はい!この話はもう終わり!」

涙を拭った葉月はいつもの葉月へと戻った。

「葉月…?大丈夫…?」

「大丈夫だよ!ねぇ、ちょっと売店行こうよ!なんか勇気出したらお腹空いてきちゃった!」

「売店?一階だっけ…。いいよ、行こっか。」

一階にある、レジだけが遠く離れている少し変わった売店へと足を進めた。

売店には最近流行り始めたパンやお菓子も売っていた。

流行り始めたパンをかごの中に入れる葉月の姿は綺麗に輝いていた。

まるで、一等星のように。


屋上へ行こうと誘われたので、売店の袋を持ち歩を進めた。

到着するなり、椅子に腰かけた。

すると葉月は先程買ったばかりのパンを山のように足元に出し、一つ袋を開けてはもう一つのパンの袋も開ける。

山のようにあるパンを口の中へと頬張る。

「おいしいーっ!」

と、大満足の笑顔で足をバタバタさせている。

桃色のいちごミルクの飲み物も飲んでいる。

どうやら飲み始めた瞬間に一気飲みをして飲み干したようだ。二本目のいちごミルクをがぶがぶ飲んでいる。

よく飲むなぁ、と思っていると、こちらに顔を向け喋り出す葉月。


「なにー、よく飲む奴だなぁって思ってるでしょー?」

「なんで分かって…」

当てられたことに驚き、まともに言葉が出なかった。

「そんなのわかるよー。顔みたらわかるもん」

顔…?顔に出る方ではないと思うのだけど…。

そう思いながらも話を続けた。

「二本も一気飲みする人は初めて見たもんでね」

「なにそれ。まるで飲みすぎみたいな言い方…。まぁいいや。私さ、行きたい所あるんだよね」

急に話を変えられたから真剣な話なのかと思ったら行きたい所か…

「行きたい所って?どこ?」

「海!私、海行きたいんだよね!」

どうして海を選んだのか、理解ができなかった。


「海…?どうして?」

「死ぬ前に、一回は見たかったんだ。実は、海を見たことがなくてさ…」

「なんで?なんで行ったことないの?」

全部が不思議で、気になることばかりで質問を投げ返してしまった。

「海を見たら透明になる、みたいな子供っぽい言い伝えがあったから、行けなくて。親が行くことを許してくれなかった。」

寂しげな顔で答える葉月を見て、この質問は良くなかったなと心の中で後悔した。

「ごめん、答えたくなかったよね。海、行こっか。」

「えっ、ほんとに!じゃあ、今すぐ行こうよ!」

「今すぐ?仕方ないなぁ…」


自分自身、好きな人と海へ行けるのは嬉しかった。そのせいで口角が上がっていた。

…やっぱり、自分…葉月のこと好きだな。

いつも元気よく笑う、無邪気な笑顔に心を撃たれたんだろうな。

──海で、告白してみよう。

海で告白って、なんか素敵じゃないか。

言い伝えのせいで海に行ったことがないなら、

この日を最初で最後の素敵な日にしよう。

いや、最初で最後なんかじゃない。

終わりなんか、あるはずがないんだから。

初めて、素敵という言葉がぴったりと当てはまった気分だった。


永遠に輝く方法を僕たちだけが知っている

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