テラーノベル
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六年後、国雄と紫野、進とユキの四人は、高瀬にある八木家を訪れていた。
「みんな次々に結婚して子供ができて、あれからもう六年……。月日が経つのって、本当に早いものね」
幸子が感慨深げに言った。
「本当! 気付いたら、私も紫野さんと幸子さんのお仲間に加えていただいて……本当に感謝しかないです」
ユキの言葉に、夫の進が笑顔で言った。
「ユキは、最初この町へ来た時、田舎過ぎるって怒ってたんですよ。それが今では、町の婦人部を取り仕切る大役を任されてるんですから……」
「社交性のあるユキさんは、この町の若い女性たちにとってお姉さん的存在ですもの。だから、居てくれないと困るの!」
紫野の言葉を聞いて、ユキは照れながら言った。
「紫野さんたら、あんまりおだてないで!」
そこで、皆が笑い声を上げる。
「ところで紫野さん、会社の方は順調そうですね」
幸子の夫・健一が尋ねると、紫野は笑顔で答えた。
「はい。国雄さんが力を貸してくださるので……。それにユキさんにも手伝ってもらって、本当に助かっています」
「それは良かった」
蘭子の父・源太が大瀬崎蚕糸株式会社の社長を解任された後、紫野が社長の座に就いていた。彼女の父が大切にしていた会社は、現在、村上グループの傘下にある。
女性の職業進出が目覚ましい昨今、多くの地元女性たちに支えられながら、会社は堅実経営を続けていた。
「それにしても、紫野ちゃんが社長になった時は驚いたわ」
幸子の言葉を聞いた紫野が、こう返す。
「ふふっ、本人が一番驚いているわよ」
そこで、ユキが言った。
「幸子さん! 今度、紫野さんと私で、赤ちゃん服のブランドを立ち上げることになったんですよ!」
「えーっ、本当に? すごいじゃない!」
驚く妻を横目に見ながら、健一は国雄に尋ねた。
「そうなんですか?」
「はい。いやあ、女性の発想は素晴らしいですよ。我々男には到底思いつかないようなアイディアが次々と湧いてくるんですから……」
続いて進も言った。
「ユキもとてもやりがいを感じているみたいです。紫野さん、よろしくお願いしますね」
「はい! と、言いたいところですが……」
紫野はそう言いながら、国雄の方をチラリと見た。
そこで、国雄が口を開いた。
「実は、紫野のお腹に二人目がいまして……」
その言葉に、四人は一斉に喜びの表情を浮かべた。
「わぁ、紫野ちゃん、おめでとう!」
「おめでとうございます! 全然、気付かなかったわ!」
「「おめでとう!」」
次々にお祝いの言葉が溢れる中、ユキが張り切って言った。
「じゃあ、紫野ちゃんに負担をかけないように、私がしっかり頑張らなくちゃ!」
それを受けて、国雄が笑顔で言った。
「ユキさん、よろしくお願いしますね」
「お任せください!」
そこで再び、楽しそうな笑い声が響く。
八木家の応接間では、いつまでも楽しい団らんが続いていた。
その頃、棚田では、子供たちがおたまじゃくしを捕まえようと夢中になっていた。
幸子の長男・健太を中心に、妹の夏子(なつこ)、紫野の息子・岳雄(たけお)、そしてユキの娘・文子(ふみこ)の四人が集まっていた。
「おたまじゃくしを捕まえたら、どうやってお家に持って帰ればいいの?」
「あ、そうか! ちょっと待ってろ!」
健太はそう言い残して、八木家に向かって走り出した。
「健太お兄ちゃん、何しに行ったんだろう?」
「きっと、おたまじゃくしを入れる容器を取りに行ったんだよ」
「じゃあさ、僕たちでもう捕まえちゃおうよ! 一人10匹ずつくらい?」
「よし、捕るか!」
棚田に残った三人は、キャッキャと声を上げながら手を泥だらけにして、おたまじゃくしを捕まえ始めた。
一方、八木家の玄関に駆け込んだ健太は、応接間にいる母の幸子に向かって大きな声で叫んだ。
「お母さーん! ドロップの空き缶あったでしょ? あれ、もらってもいい?」
埼玉県西部にある自然豊かな町に、夕日が見事な棚田の丘があった。
空が茜色に染まると、棚田の水面も茜色に輝き、まるで絵画のように美しい景色を織り成す。
棚田を吹き抜ける風は、あぜ道に咲く薄紫色のアザミをそっと揺らし、その間を小鳥たちが軽やかに横切る。
丘の前方には大きな山が鎮座し、山肌には白い石灰石が露わになっていた。
山の麓には、大きなセメント工場もあった。
そんな茜さす丘で、二人は初めて出逢った。
その後、運命の再会を果たした二人は、この地で結ばれた。
再びこの棚田には、新たな思い出が紡がれようとしている。
そこには、子供たちの楽しそうな笑い声が、いつまでも響いていた。
<了>
本日完結いたしました。
初めてチャレンジした大正浪漫モノで、至らない点も多々あったかとは思いますが、
最後までお付き合いいただき心から感謝です。
本当にありがとうございましたm(__)m✨ 瑠璃マリコ🍬
コメント
162件
瑠璃マリコ先生🩷🩷🩷 完結おめでとうございます🥹💗 ちょっとバタバタとしており、遅れながら、素敵な作品&皆様のコメントを楽しみながら読ませていただきました😆🩷 毎日毎日暑い日が続いております🥵🥵 瑠璃マリコ先生🩷 皆様🩷 くれぐれも御自愛くださいませ🍀🩷🩷🩷
紫野ちゃん、国雄さんと幸せいっぱいの時を過ごせてて本当に良かった☺ これから先も、ずっと幸せなんだろうなぁ、と、想像できちゃいます。 素敵なお話、ありがとうございました!
マリコ様 完了おめでとうございます 今回は特に棚田での自然描写が素晴らしくまた秩父で有名なセメントと絹織物をお話に入れていただいて それにシュークリームが大正時代からあったと教えていただく盛りだくさんの内容でしたね 最後のオタマジャクシの所は人生回っているねと感じるのと同時にやっぱりカエルだけに帰ってきたのね と思いました 素敵なお話ありがとうございました