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エピローグ
第一話 初めての朝
翌朝。
小鳥のさえずりで目を覚ます。
窓から柔らかな朝日が差し込んでいた。
しばらくぼんやり天井を見つめる。
胸の奥は静かだった。
穏やかだった。
昨日までとは違う。
何かが確かに変わっている。
ジントはゆっくり起き上がる。
そして窓を開けた。
朝の冷たい風が頬を撫でる。
森が揺れる。
木々が歌う。
平和な朝。
ジントは瘴気を探すように目を閉じる。
いつもの癖で。
けれど、何も感じなかった。
何も。
その時、コンコン、と小さな音が響く。
振り返ると、扉が開き、そこにはミレイアが立っていた。
「起きていたのかい」
優しい声。
ジントは頷く。
ミレイアはジントの傍に歩み寄り、窓の外へ視線を向けた。
しばらく二人で朝の景色を眺める。
やがてミレイアが静かに言った。
「感じないだろう?」
ジントは少し驚き、そして頷いた。
「……うん」
瘴気の気配。
闇のざわめき。
何も感じない。
昨日までずっと共にあったものが綺麗に消えていた。
ミレイアは目を細める。
「闇は、還った」
長い役目を終えた者の声だった。
風が吹く。
朝日が金色の髪を揺らした。
「だから今度は」
ミレイアがジントを見る。
月色の瞳。
優しく。
誇らしげに。
「自分の人生を生きなさい」
ジントは目を見開く。
その言葉が胸の奥へゆっくりと落ちていく。
ーー自分の人生。
今まで考えたこともなかった。
いつか消えると思っていたから。
自分の未来などないと思っていたから。
でも、もう違う。
「……うん」
初めて、本当に自由になれたような気がした。
自然と笑みが零れた。
ミレイアも微笑む。
そして静かに部屋を後にした。
扉が閉まる。
再び静寂が訪れる。
ジントは窓辺へ視線を戻した。
森を渡る風。
鳥の声。
穏やかな朝。
ただぼんやりと眺める。
「んー……」
後ろから寝返りを打つ音が聞こえた。
振り返る。
ダイチだった。
隣のベッドで大きく伸びをしている。
群青色の髪には盛大な寝癖。
思わず笑ってしまう。
青い瞳がゆっくり開く。
眩しそうに瞬きをする。
そして、視線がジントを捉えた。
朝日を受けた金色の髪。
白い肌。
乳白色の瞳。
しばらく見つめる。
まるで夢か現実か確かめるように。
そしてぽつりと呟いた。
「……ジント……おる」
その言葉に。
ジントは優しく笑った。
「うん」
一歩近付く。
「ここにいるよ」
ダイチの瞳が緩む。
ジントはベッドへ腰掛けた。
寝癖だらけの髪が目に入る。
なんだか可愛くて、自然と手が伸びた。
優しく撫でる。
群青色の髪を梳く。
その瞬間だった。
ぐいっと腕を引かれる。
「わっ!」
気付けばダイチの上に覆い被さるような体勢になっていた。
逃がさないと言うように、ダイチの腕が背中へ回る。
ぎゅっと抱き締める。
まるで存在を確かめるように。
失わないように。
しばらく何も言わない。
ただ抱き締めている。
やがて、耳元で小さな声が聞こえた。
「……ジント」
「ん?」
「好きや」
とても小さな声だった。
けれど真っ直ぐだった。
ジントは目を細める。
そしてダイチの髪を優しく撫でた。
「俺も……」
消えそうなくらい小さな声。
「好き」
顔が熱い。
思わずダイチの胸に顔を埋める。
ダイチの腕に少しだけ力が入る。
胸に耳を寄せると鼓動が聞こえた。
少し早い。
力強い鼓動。
生きている音。
心地良かった。
温かかった。
この音が好きだった。
この温もりが好きだった。
この人が、ずっと好きだった。
ーーコンコン。
不意に扉を叩く音が響く。
二人は同時に身体を固くした。
「おはようございます」
扉の向こうから聞こえたのはセレネの声だった。
「朝食の準備ができていますよ」
ジントは慌てて身体を起こす。
「は、はい!」
思わず声が裏返った。
「ふふっ」
扉の向こうで小さな笑い声が聞こえる。
足音が遠ざかっていった。
部屋に静寂が戻る。
ジントとダイチは顔を見合わせた。
「…………」
そして、同時に吹き出した。
「あーーーーっ!!」
突然部屋の隅から大声が響く。
「もうそろそろええよな!?」
シュンタが勢いよく起き上がった。
「見守る側にも限界あるんやけど!!」
「………」
「………」
二人の動きが止まる。
「おはよう」
爽やかな声。
ハヤトだった。
ベッドから身体を起こしながら微笑む。
「良い朝だな」
嫌味なほど爽やかだった。
「……やはり見せつけているのか」
ジュウタロウが仰向けになったまま額に手を当てる。
深いため息。
「お、お、お前らまた起きとったんか!?」
ダイチが飛び上がる。
顔が真っ赤だ。
「そら起きるやろ!」
シュンタが即座に返す。
「朝からごちそうさまですぅ〜!」
ジントまで耳を真っ赤にする。
気まずそうにダイチを睨む。
「ダイチのせいだからな!」
「え!?」
ダイチが固まる。
「なんで俺!?」
「だって、ダイチが……」
言いかけて。
ジントの顔がさらに赤くなる。
「もういい!」
ぷいっと顔を逸らす。
「知らない!」
「えぇぇ!?」
情けない声が響く。
「なんでぇ!?」
その様子に笑いが起きた。
「ジンちゃんもダイちゃんもかわえぇなぁ!」
シュンタが腹を抱える。
「やはりダイチは尻に敷かれるのか……」
ジュウタロウが呆れたように呟く。
「まあ」
ハヤトは優しく笑った。
「お似合いの二人だな」
「もうなんなん!?」
ダイチの悲鳴が部屋に響いた。
笑い声が広がる。
穏やかな朝だった。
世界は確かに変わった。
闇は還り、月蝕の子の役目は終わった。
そして魔法の時代も、静かに終わりへ向かおうとしている。
けれど、この部屋の中だけは何も変わらなかった。
5人は笑っていた。
昨日と同じように。
くだらないことで騒いで。
馬鹿みたいに笑って。
それが何よりも心地よかった。
ーーー
5人は笑いながら部屋を出た。
石造りの廊下を歩く。
窓から差し込む朝日。
どこか懐かしい香り。
そして扉を開けた瞬間。
「うわぁ……」
シュンタが思わず声を漏らした。
部屋いっぱいに広がる香ばしい香り。
焼きたてのパン。
温かなスープ。
焼いた肉と卵。
暖炉には火が入り、ぱちぱちと心地良い音を立てている。
外の冷たい空気が嘘のようだった。
すでに席にはミレイア、パスカル、ゼストが座っている。
セレネも最後の料理を運び終え、全員が席に着く。
穏やかな朝食が始まった。
しばらくは料理を楽しむ時間だった。
誰もが昨晩より、ほっとした柔らかい表情を浮かべている。
やがて、我慢できなくなったようにパスカルが身を乗り出した。
「昨日は本当に凄い光景を見せていただきました!」
目がキラキラしている。
「まさかあの、伝説の瞬間を間近で見られるなんて!」
興奮が全く隠せていない。
「月蝕か……」
ゼストが静かに呟く。
炎を見つめながら思い出すように目を細める。
「あの言い伝えが本当だったとはな」
低い声。
「正直、この目で見るまでは信じていなかった」
セレネも頷いた。
「あれほど神秘的なものだとは思いませんでした……」
月色の瞳が少し遠くを見る。
「恐ろしくて……でも、とても美しかったです」
ハヤトが静かに言う。
「世界各地に残る月蝕の子の言い伝えは、あそこから生まれたんですね」
ミレイアは微笑んだ。
どこか懐かしむように。
「そうだね」
暖炉の火が揺れる。
「かつて人々はそれを恐れた」
静かな声。
「不吉なものだとさえ言った」
その瞳に長い年月が映る。
「でも、その真実を知る私達は、一族の役目として受け継ぎ、守り続けてきた」
そしてふっと肩の力を抜く。
穏やかな笑顔。
「……でも、もうそれも必要ない」
誰も言葉を挟まなかった。
ミレイアはジントを見る。
誇らしそうに。
そして優しく。
「本当によくやったね、ジント」
ジントは少し照れたように笑いながら頷いた。
しばらくして、ふとジントが尋ねる。
「おばあちゃん達は、これからどうするの?」
ミレイアは目を細めた。
「そうだねぇ……」
パスカルとセレネ、ゼストを見る。
「もう私達の役目は終わった」
穏やかな声。
「月の一族を知る者も少ない」
「教会による迫害も、もう心配ないでしょう」
パスカルが頷く。
「ですが、私は今更ここを離れるつもりはありませんよ」
そしてミレイアを見る。
「ミレイア様もそうでしょう?」
ミレイアは当然のように頷いた。
「ここが私の家だからね」
優しい声だった。
そしてセレネとゼストを見る。
「でも、お前達は違う」
二人が顔を上げる。
「まだ若い」
「自由に生きていいんだよ」
セレネは目を伏せた。
少し考える。
そして小さく微笑んだ。
「……私は」
月色の瞳が揺れる。
「もう少しミレイア様達と一緒にいたいです」
その答えにミレイアは優しく笑った。
ゼストも頷く。
「俺も同じだ」
短い言葉。
けれど迷いはない。
その時だった。
「なぁセレネちゃん」
シュンタが身を乗り出す。
嫌な予感しかしない。
「俺達と一緒に来ぉへん?」
子犬のような目。
期待に満ちた顔。
食堂が静まる。
セレネは困ったように笑った。
ゼストは無言で睨む。
シュンタは気付いていない。
「俺あきらめへんからな!」
拳を握る。
「いつか絶対、セレネちゃんをここから連れ出したるからな!」
「やめろ」
即座にゼスト。
「なんでや!」
「なんでもだ」
「ひどない!?」
「ひどくない」
やり取りを見ていたダイチが吹き出した。
「まぁ、せいぜい頑張りや〜」
「ダイちゃんは応援してくれると思っとった!」
「せやけど無理そうやし」
「なんでぇ!?」
食堂に笑いが広がる。
暖炉の火が揺れる。
朝日が差し込む。
穏やかで、温かくて、幸せな朝食の時間だった。
𝕔𝕠𝕔𝕠
32
#み!るきーず
ぷりんねこ
28
comi
1,499
#M!LK
はる☻
29,626
コメント
5件
ほんと2人が可愛くて仕方ないですねꉂ🤭 見守っている3人が少しやれやれみたいな雰囲気も大好きです笑 5人の旅が終わってしまったのは少し悲しいですがでもこれからは自由に楽しく過ごして欲しいですね!
なんて素敵な朝なんでしょう😇 可愛い💙💛と、見守る3人をずっと眺めてられるます🫶 やっと5人が平和な朝を迎えられてるんだな、て思うと、旅の終わりでもあるので寂しさもありますが… これからの5人が仲良く過ごしたりするのか、💙💛がどうなるのか楽しみが増えちゃいました💘
おおお…最終回、泣きそうになったよ…😭💕 タイトルの「初めての朝」がもう全てを物語ってるね!! ジントが瘴気を感じなくなって「自分の人生を生きなさい」ってミレイアに言われるところ、心にグッときた…。今までずっと使命に縛られてたから、ようやく自由になれたんだなって思うと感慨深いよ。 そしてダイチが「好きや」って告白するシーン!!!朝から破壊力やばすぎやろ…!!/// 二人の距離がこんなに近くなって、本当に良かったね…。シュンタたちが朝から見守ってたのも笑ったけど、そのあとの朝食の団らんが温かくて、このメンバーの日常がずっと続いてほしいって思えたよ。 完結お疲れ様、comiさん!素敵な物語をありがとうございました🌸💕