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遊牧民だったハンの家が、奪い取った土地を統治したのは、つい余年前。
ジオンを即位させ、国としての体裁を整えた。
続き、統治王にふさわしい正妃をと、縁組を選り好みしたのが、裏目に出てしまったようで、三十を越えようとしているにもかかわらず、王には、いまだ子どころか、正妃もおらず――。
これではと、大臣たちが、慌てふためき適当な側室を用意はしたが、子ができる様子はない。
そうだろう。
王が通いつめるのは、後宮ではないのだから。
しかし、来月、正妃を迎える。
これで、やっと国として認められる。
さて。
だからこそ。
あの小娘から、王を引き離さなければ――。
「本当に、あの小娘のことがお気に入りのようですね。若いというだけで、そう取りえなどないように思えますが。ドンレ様はいかがお思いです?」
邪念にふけるドンレの耳を、若人の声が突いた。
女官長の私室だと言いたげに、グソンの身のこなしは、儀礼ぶり、先ほどとはうって変わって、よそよそしかった。
ドンレは、ゆっくりと身をおこし、床に垂れる帳越しに愛妾を見る。
「だが、それこそ最大の武器であろう?男にしてみれば、女は若いほどいい。そうだろう?」
意味深なドンレの視線を避けるかのように、グソンは窓辺に身を移し、外の風を通した。
「若い。それだけでしょう?そんなものすぐに飽きます。私はあなた様のように、経験深い女人にそそられますが?さて、今日は、少しばかり汗をかきましたな。風が心地いい」
歯が浮くようなグソンの言葉を受け、ドンレは思わず顔を伏せた。
向けられる、端麗な顔立ちのなかで、白い歯が光っている――。
ただの官にしておくにはもったいないと、側においてみた。
だが、グソンはドンレなど見ていない。彼女の体を通り越し、その力を見つめている。
甘いささやきも、たゆたう吐息も、すべて形だけのもの。
ドンレの体などなくてもかまわないのだ。
――わかっている。
溺れてしまった快楽は、とてつもなく深いことも。
あの肌を手放すことを思えば、受けるおなざりな愛撫にも、がまんできた。
いや、今では、それにさえ、ドンレは酔いしれていた……。