テラーノベル
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ところが、今日は、いつもと違っていた。
どうしたことか、グソンは執拗にドンレを求めた。
(……ああ、香西の妃が、宮を開けているからか。)
女官長は、後宮のありとあらゆる事に通じている。
誰と誰が親密であるか、ドンレが知らぬはずがない。
官きっての美貌の持ち主グソンと、側室の内でも一、二を争う才女、香西の妃。
二人が惹かれあうのは当然のことで、グソンはかなり本気で入れ込んでいると聞いていた。
妃の父君がみまかって、宿下がりを果たしている今、男の身を、もてあましているのだろう。
(……あの求めようは、そうに違いない。)
「お前、しばらくここに通うのだろう?」
「ええ。私は、あなた様のしもべ……」
しもべなどと、ぬけぬけと言い張る寵妾の姿は、ことのほか滑稽に見えた。
だが、互いにここから抜け出すこともかなわず、骨を埋める運命。
細かなことで、目くじらをたててどうする。
甘美な時をすごせられるなら、多少のことは……。
くつくつと笑いながら、ドンレはグソンを見送った。
グソンは、ドンレの部屋で朝を迎えることはなかった。
一夜の幻想ほど心地いいものはないなどと、見え透いた言い訳をして、早々に役目から逃げおおしていたのだ。
男を亡くした宦官だけに、義理で女を抱くことは、苦痛以外なにものでもない……。
すっかりと夜は更けて、ぼそぼそと燃えるたいまつが、後宮の廊下を照らしている。
歩むグソンの顔は歪んでいた。
明日も通わなければ、ご機嫌を損ねるだろう。
「そういえば、明日は、南の将様からお声がかかっていたはずだ。これはまた、体が一つでは足りないな……」
色の道は人それぞれで、特に都の南に住む、さる武人は、ことのほか宦官をひいきにしている。
しかし、この道は決して大きな声で言えるものではなく、あえて、南の将とぼかすのが嗜みというもの――。
「まあ、いいだろう。今から、先のことを考えても仕方ない……」
グソンの呟きは闇に消えた。
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