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※五月上旬――アラバマ州バーミングハム国際空港。
商談前後のビジネスマンだろうか。出で立ちは品良く黒のスーツで決めていたが、擦れ違う人々が振り返らずにはいられない程、その者は一際異彩を放っていた。
純正の黒髪は此処では珍しいにしても、長く艶やかに靡くそれは、古き良き日本の風情を見事に体現。
後ろ姿から一瞬、大和撫子――女性と見紛ったが、長身痩躯だが見事に引き締まった体格から、男性で間違いないようだ。
「…………」
彼は無言のまま搭乗口へと急ぐ。
黒いサングラスで表情の程は掴めないが、きつく噛んだ唇からは一種の焦りを感じさせた。
「急がねば……」
誰に聞かせる訳でもなく、低く呟かれた一言。
それは『商談に間に合わない』と云った類いのものとは何処か違う。
もっと“危機的”な何か。
彼が向かう先は――日本。
始まりは何時も緩やかに動き出していく。
終焉への序曲を奏でながら――
…