その頃、稲取麗子は会社のすぐ傍にあるカフェで時間を潰していた。
今日は突然理不尽な異動になり納得がいかない。麗子は何がなんでもその原因を突き止めるべく待機していた。
壮馬には本当にプロポーズするような相手がいるのだろうか?
せめてそれだけでも突き止められれば異動の理由がわかるはずだ。だから麗子は今日壮馬が退社する際に後をつける事にした。
ちょうどカフェの前にはタクシー乗り場がある。もし壮馬の車が出て来たらタクシーに飛び乗る予定だ。
麗子は腕時計に目をやる。時刻は六時半になろうとしていた。
(副社長はいつも帰るのが遅かったのに最近は帰るのが早いと皆が噂していたわ。だからもうそろそろかも)
麗子はため息をついた後もう一杯コーヒーを買いに行こうと立ち上がった。
その時見覚えのある車がビルの駐車場から出て来る。
出庫を知らせる黄色いランプが点滅し駐車場の入口にいたガードマンがうやうやしく頭を下げている。
(出て来たわ)
麗子は慌ててバッグを掴みカップをダストボックスへ捨てるとカフェを飛び出してタクシーに飛び乗った。
「あの車を追いかけて下さい」
麗子は必死の形相で運転手に告げる。
運転手は一瞬驚いていたが、
「承知しました」
と言って壮馬の車を追い始めた。
麗子は壮馬の自宅住所を知っていた。だからこのままこの通りを真っ直ぐ進めば壮馬のマンションへ着く事はわかっていた。
しかし壮馬の車は大通りの交差点を左折した。
(寄り道?)
麗子は不思議に思いながら壮馬の車を見つめる。
しばらく進むと壮馬の車はハザードランプを灯して道路脇に停車した。
「後ろにピッタリっくっつきますか?」
運転手に聞かれた麗子は、
「いいえ、少し距離を置いて停まって下さい」
と指示を出す。
壮馬の車から7~8メートル離れたタクシーの中から麗子は壮馬の行動を注視した。
すると車を降りた壮馬はパティスリーの店に入って行った。
(ケーキ屋さん?)
麗子はいぶかし気にその店の看板を見る。
しばらくするとケーキの箱を手にした壮馬が店から出て来た。
(ケーキを買ったのね。やっぱり女がいるんだわ)
麗子は直感でそう思った。
「車が動き出したらまた後をつけて下さい」
麗子の指示に従って再びタクシーは壮馬の車を追った。
しばらく走ると壮馬の車はタワーマンションの地下駐車場へ消えて行った。
麗子はタワマンの前でタクシー降りる。
(もしかしてもう同棲しているの?)
どうしても自分の目で確かめたかった麗子は思い切って壮馬の家へ突撃する事にした。
今回の異動でよぼよぼ専務の秘書に成り下がった麗子はもう会社に留まる意義を見出せないでいた。
玉の輿に乗る事を狙って秘書をやっているのだ。
先のない年寄りの秘書をやるくらいなら思い切って転職した方がいい。
だから覚悟は出来ていた。
なんとしても壮馬の家へ行きアタックする。このまま何もしないで引き下がるのだけは嫌だった。
やっと手に入れた副社長の秘書の座を捨てるくらいなら思いを正直に伝えて正式な花嫁候補の一人にしてもらおう。
麗子はそう決心していた。
カツカツとヒールの音を響かせ麗子は颯爽とエントランスを目指す。部屋番号はわかっていたのですぐにインターフォンへ向かった。
するとそこには先客がいた。かなり派手な装いの女だ。
(ま、まさかっ)
麗子はギョッとする。なぜならそこにいたのはあの本条麗華だったからだ。
麗華は胸元が大胆に開いた真っ赤なワンピースに身を包み、同じく真っ赤な口紅をつけている。
その派手ないでたちに麗子は一瞬怯んだが負けてはいられないと強気の姿勢で出た。
「あら、偶然ね。副社長に何か用?」
その声にビクッとした麗華が振り返る。そして麗華もまたギョッとした顔をしていた。
「あーら、また会ったわね。あなたこそ壮馬に何か用?」
「フフッ、用があるから来たに決まってるじゃない? そんな事もわからないの?」
麗子の勝ち誇った様子を見て麗華はイラっとする。
「フンッ! とにかく私の方が先に来たんだからお先に失礼するわ」
麗華はインターフォンを押した。
しばらく沈黙が続いた後、若い女性の声が聞こえた。
「はーい、どちら様でしょうか?」
その声に二人の美女がギョッとした。そして一瞬顔を見合わせる。
そこで麗華が余所行きの声で愛想よく言った。
「わたくし高城建設様とお取引をさせていただいている者ですが、以前高城壮馬様から頼まれていた書類が出来上がりましたのでお届けに参りました」
キッチンにいた花純は一瞬考える。
壮馬は今バスルームにいて対応ができない。そして相手は女性だ。書類を受け取るだけだったら代理でも構わないだろう。
そう思った花純は返事をする。
「それはわざわざすみません。お手数ですが上までお願いできますでしょうか?」
その時エントランスのロックが解除されたので麗華が颯爽と中へ入った。
麗子も慌てて後へ続いた。
二人は満面の笑みでコンシェルジュの前を通り抜けると、同時にエレベーターに乗った。
すると麗華が言った。
「あの女誰なのよっ」
「知らないわっ」
「壮馬は自宅に女は入れない主義なのよ」
「フンッ、だったらお手伝いとか親戚じゃないの?」
麗子の言葉を聞き麗華は「ああそうか」と納得する。
その時エレベーターが最上階に着いたので二人は競い合うように壮馬の部屋へ向かった。
コメント
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怖っ💦
うわぁ~~!!!😱 この女豹達、身元を偽り 騙して侵入とか....🐆🐆 信じられない‼️💢😡 でも花純ちゃんもちょっと無防備すぎ...😓💦 壮馬さんのような立場の人だと 不法侵入もありうるから、 ちゃんと本人に確認してから 開けないとね~🤔 花純ちゃんが心配😰💧 壮馬さん、ちゃんと守ってあげてね....🙏🍀
せっかく壮ちやんが仕事終わって🍰買って帰宅するタイミングで女豹2人とも乗り込んできたー💦 麗子は退職覚悟で乗り込んできてるから何するかわからない恐怖🙀アワワ! なのに壮ちゃんはシャワー🚿だし花純ンは話信じて鍵🔑開けちゃったし💦💦 まさかと思うけど自宅に不法侵入なんてことはないよね⁉️ そうなると警察👮沙汰になるし、そうならないように壮ちゃん、花純ンをしっかり守ってあげてーーっっ‼️