テラーノベル
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圭は、隣の社長室の前に立つと、数秒ほど瞳をギュッと閉じ、握り拳を作ってドアを三度ノックする。
『どうぞ』
「失礼します」
扉の向こうから応答を確認した彼は、入室すると、デスクに座っている社長であり、父でもある葉山 武に向かって一礼した。
「ひとまず、ソファーに座れ」
「はい」
圭は、デスクの手前にあるソファーに腰を下ろすと、彼の真正面に社長が座った。
武は、そろそろ六十代半ばに差し掛かる年齢だが、白髪混じりの髪を後ろに撫で付け、背筋もピンと伸びている。
濃紺のスーツをキッチリと着こなし、涼しげでハンサムな顔立ちは、皺があるとはいえ、圭と怜に受け継がれていた。
「今は二人きりだし、父親と息子として話をさせてもらう」
社長である武は、威厳のある仮面を取り外すと、父親として、角の取れた表情を映し出した。
「先日、園田真理子さんから、『圭が婚約していながら、他の女性と二股を掛けている。婚約は破棄した』と報告を受けたのだが…………本当か?」
「…………」
さっそく痛い所を直撃された圭は、口元を引き結び、言葉を呑み込ませている。
焼き付けるほどの張り詰めた空気が社長室を包み、父は圭に視線を射抜くが、圭は膝の上に手を組みながら、顔を俯かせた。
「圭。本当なのか?」
痺れを切らした父が、堪らず口火を切る。
数分くらいの沈黙が、圭にとって、数十分くらいの長さに感じてしまい、追い詰められた彼は、唇を緩ませ、言葉を発しようとした。
目の前の父が、ソファーの背もたれに寄り掛かりながら腕を組んで、息子を見据えている。
(意外に早く親父の耳に入ってしまったな。真理子のハッタリかと思ったが……すぐに親父に伝えるとは……)
父親の耳に届いているのならば、事実を言うしかない。
圭は、徐に顔を上げると、眼光鋭い眼差しを向けている父に、視線をぶつけた。
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