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「なっ、ど、どうしたのそれ?!」
次の日の昼休憩。
いつもの日課であるプルタブとの決着はつかぬまま、今日の試合も無惨に終わった。
そんなところで、ベンチに座ってプルタブと悪戦苦闘をしていたところに、昨日来た彼が来た、のだが…
「……なんでも、ないです」
髪の毛はボサボサで、服はヨレヨレ。土汚れもひどく、頬から血も出ている。あまりの怪我具合に、転んだわけではなさそうだと周囲を見渡す。
あたりには誰もいない。転けた形跡もない。きっと、どこか違う場所で何かがあって、ここまで足を引きずりながら歩いてきたのだと思うと、ひどく胸が痛んだ。
「───プルタブに、」
自身の口から出たそれは、彼の怪我に対することではなかった。きっと、口に出してはいけなかった。そもそも、口に出せる雰囲気ではなかった、のほうが正しいのか。
「プルタブに、また負けちゃった」
あはは、と笑みをこぼせば、相手は驚いた顔のまま固まり、そのまま涙を流し始めた。
急な出来事にびっくりしたと同時に、相手も涙が怪我のところにしみたのか涙を急いで拭い始める。
それでも、涙は止まらなかったらしく。
「うっ、うう……」
抑えるように出す唸り声は、ひどく苦痛なものとしか思えなかった。
「……隣、来る?」
体を寄せ、手でベンチをぺちぺちと優しく叩いた。
相手はこちらをちらりと泣きながら覗き込み、足を引きずりながらもこちらへと歩み寄ってきた。
ああ、足を怪我してるんだった。
そう頭の中で思ったと同時に立ち上がり、彼を支えてベンチへと座らせ、自身も彼の隣へ座った。
「プルタブって、なんであんな固くしちゃったんだろう」
「うっ、うぅ……ぁ……」
誰も聞かなくていい話だった。
「もう少し開けやすくても、溢れたりしないと思うのになあ」
「うぅ………う、うっ……」
きっと誰にも興味のない話だった。
「そうしたら俺が毎回プルタブに勝ってたのにね!」
「うぅぅぅ………うあぁぁぁ……」
誰のためにもならない話だった。
「───もっと簡単だったらよかったのにね」
「…………っ、う、うぅ……」
それでもきっと、彼にだけわかる話だった。
「サボっちゃおうかな、次の授業」
あはは、とまた1人ごちのように笑った。でもきっと、彼にはわかってる。 この言葉の意味がわかってる。
きっと、単位は減らされる。
きっと、彼の単位も減る。
きっと、彼をいじめた奴らはいつか消える。
───大丈夫だよ。
だなんて言葉、簡単に言えればどれだけよかったか。大丈夫だよ、だなんて言われた相手はどう思うだろう。
何が大丈夫なのか、1人で大丈夫なのか、ここまで頑張って今更何おう。……みたいな。
「君も、サボる?」
聞けば、相手は静かに頷いた。そう。これは相手の選択なんかじゃない。自分が選択した。
彼に付き添うと。彼のそばにいると。
だから、とことん付き合わせてもらう。
「───うあぁぁぁぁ……! うっ、うぅ……あぁぁぁぁぁ……!!!」
雄叫びのような泣き声。ガラガラで、掠れていて、悲しい泣き声。きっと辛かった。きっと苦しかった。
きっと、誰かに寄り添って欲しかった。
「───偉いね」
たった一言を機械的に繰り返しながら、彼の背中を上下に何度も優しく動かした。
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