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#恋愛
ばたっちゅ
4,346
成瀬りん
95
『 雪 』@夏休み期間毎日投稿
39,135
エイラside
風が吹くたび、朽ちた家々の扉が軋む。
人の気配など何年も途絶えたような廃村は、昼間だというのに薄暗く、不気味な静けさに包まれていた。
私は、小さく辺りを見回す。
エイラ「確かこの辺りだったはずですが……」
今日ここへ来たのは、魔法研究のための素材を回収するためだった。
古い魔力の残滓が残る場所には、珍しい魔法触媒が見つかることがある。
その噂を聞きつけて来たのだけれど──
?「やっほー!!エイちゃん♡」
エイラ「……。」
聞き慣れた、いや、できれば聞きたくなかった声が響いた。
廃屋の屋根の上で、大きく手を振る青年。
黒い外套を羽織り、いたずらが成功した子どものような笑みを浮かべている。
エイラ「…お久しぶりです。ヴァスリックさん。」
ヴァスリック「えぇ~、もっと喜んでよぉ~! せっかく会いに来たのにさぁ♪」
エイラ「会いに来たというより、待ち伏せですよね?」
ヴァスリック「バレた♡」
悪びれる様子は一切ない。
……相変わらずだ。
私は思わず苦笑する。
ヴァスリック・ソル。
底知れない力を持つ霊魔族。
そして──とにかく自由人。
エイラ「今日はどのようなご用件ですか?」
そう尋ねると、ヴァスリックは屋根から飛び降りる。
ふわり、と羽が舞うように軽やかに着地すると、そのまま私のすぐ目の前まで距離を詰めてきた。
ヴァスリック「ゲームしようと思って♡」
エイラ「……ゲーム、ですか?」
ヴァスリック「そうそう♪」
両手を広げる。
ヴァスリック「最近さぁ、退屈で退屈で仕方ないんだよねぇ⭐︎だから思いついたの!人狼ゲーム!!」
エイラ「…はぁ………。」
ヴァスリック「ただの人狼じゃないよ?本当に命を懸けてるように感じる、特別仕様♡」
嬉しそうに両手を叩く。
私は思わず額に手を当てた。
エイラ「また気まぐれですか……。」
ヴァスリック「もちろん♡」
即答だった。
ヴァスリック「でもねぇ、エイちゃん。」
さっきまでの軽い笑みが、ほんの一瞬だけ静かになる。
ヴァスリック「勇者ちゃん達ってさ。力は強いじゃん?でも、疑う強さってあるのかな?」
その一言に、私は少しだけ目を見開いた。
疑う強さ。
仲間を信じることではなく。
疑うこと。
確かに、それは今まで試したことがない。
ヴァスリックはまた笑う。
ヴァスリック「戦いだけじゃ人って分かんないじゃん♡追い詰められた時。大切な人を疑わなきゃいけない時。その時どうするのか見てみたいんだよねぇ♪」
私は少し考え込む。
エイラ(……精神面の試練。勇者として、きっと避けては通れないものです。もし安全が保証されるのであれば……。)
私は顔を上げた。
エイラ「命に危険はありませんよね?」
ヴァスリック「もちろん♡」
ヴァスリックは笑顔で親指を立てる。
ヴァスリック「ルールはちゃんと守るよ♪ゲームが終われば全部元通り⭐︎」
その言葉を聞き、私は静かに頷いた。
エイラ「……分かりました。協力いたします。」
ヴァスリック「やったぁぁぁ!!」
ヴァスリックは飛び跳ねる。
ヴァスリック「エイちゃん大好き♡」
エイラ「そういうのは結構ですので。」
ヴァスリック「冷たっ!でもそこも好き♡」
エイラ「………。」
軽くため息をつきながらも、私は笑ってしまった。
本当に、この人は調子が狂う。
エイラ「では、準備を始めましょう。」
ヴァスリック「おっけー♪」
ヴァスリックは指を鳴らす。
ヴァスリック「ゲーム開始まで、あと少し♡」
夕方。
私は勇者たちが暮らす寮へ戻った。
玄関を開けると、談笑する声が聞こえる。
北実「お、エイラ。おかえり。」
北実がこちらへ手を振った。
リビングには、
北実、南実、日向、日和、陸斗、廉蘇、嗣行、宮雷、紅葉、米太、加奈登、叶英、愛蘭、国雲、湾海、利亜、零王、太希、那知。
そして、たまたま遊びに来ていたであろうラン、リン、レイヴンも集まっていた。
自由行動の日のため何人かはいないが、それなりの人数が戻ってきている。
エイラ「皆さん、お揃いでしたか。」
利亜「エイラ、お帰りなんね!」
利亜が柔らかく微笑む。
エイラ「ふふ、賑やかですね。」
陸斗「ランたちも遊びに来てたからな。」
陸斗が笑いながら答える。
私は小さく息を吸った。
エイラ「………皆さん。少しだけ、眠っていただけますか?」
不思議そうに全員がこちらを見る。
私は杖をそっと握る。
エイラ(皆さん、ごめんなさい。ですがこれはきっと皆さんのためになります。)
柔らかな光が部屋いっぱいに広がる。
南実「……あれ?」
愛蘭「なんか……眠……。」
利亜「ふぁ……。」
一人、また一人と力が抜け、
ソファや椅子にもたれかかるように眠っていく。
最後に立っていた北実も、
北実「エイ……ラ……?」
そう呟くと、そのまま静かに目を閉じた。
部屋は静寂に包まれる。
その時。
ヴァスリック「…お疲れさま~♡」
背後から、聞き慣れた声。
振り返ると、いつの間にかヴァスリックが壁にもたれかかっていた。
ヴァスリック「全員眠ったねぇ♪」
私は静かに頷く。
エイラ「はい。」
ヴァスリックは眠る二十二人を見渡し、どこか楽しげに笑った。
ヴァスリック「じゃあ…始めようか♡」
彼がゆっくりと右手を掲げる。
空間が震えた。
透明な鎖のような光が、一人ひとりの身体へ静かに溶け込んでいく。
それは、眠る者にしか作用しない絶対の契約。
ヴァスリックの固有スキル。
一度刻まれたルールは、
彼が解除するまで、誰にも破ることはできない。
ヴァスリック「これで準備完了♪」
ヴァスリックは満足そうに手を叩いた。
ヴァスリック「さてさて♡この子たちはどんなドラマを見せてくれるのかな?」
その笑みの先には、
これから始まる誰も知らない『ゲーム』が待っていた。
北実side
重たい瞼をゆっくりと開ける。
北実「……ここは…どこだ……。」
俺は見慣れない天井をぼんやり見上げた。
さっきまで寮にいたはずだ。
確か、エイラが帰ってきて……。
北実「……エイラ?」
そこから先の記憶がない。
慌てて身体を起こし、辺りを見回す。
北実「……!」
広い部屋だった。
木造ではあるが、どこか洋館のような内装。
そして床には、俺だけじゃない。
零王「うぅ……。」
ラン「ふぁぁ……。」
仲間たちが次々と目を覚ましていた。
南実「ん〜……よく寝たぁ。」
南実が大きく伸びをする。
北実「……南。」
南実「おっ、北じゃん! おはよ!」
北実「……おはよう、じゃない。」
俺はため息をつく。
北実「ここどこだよ。」
南実「知らない!」
即答だった。
北実「…だろうな。」
南実「…えへへ。」
北実「笑って誤魔化すな。」
その横では日向が静かに周囲を見渡している。
日向「見覚えのない建物ですね……。」
日和「お兄ちゃん、夢じゃないよね!?」
日和は窓へ駆け寄る。
日向「わぁ……!写真映えしそう…!」
その声につられて俺も窓へ近付いた。
北実「……これは。」
窓の外には街が広がっていた。
石畳の道、時計塔、住宅、噴水………
まるで一つの町だった。
だけど──
北実「なんだ、あれ……。」
街全体を囲むように、薄く光る壁。
いや、壁じゃない。
半透明の巨大な結界だった。
しかも、その中心は……
南実「…この建物?」
南実が首を傾げる。
建物を中心に、ドーム状の結界が街を覆っている。
外へは出られそうにない。
陸斗「閉じ込められている……ということか。」
陸斗が腕を組む。
廉蘇「チッ…誰がこんなことを…。」
廉蘇の目が鋭くなる。
宮雷「父さん……。」
宮雷が少し不安そうに廉蘇を見る。
その横では紅葉が、
紅葉「嗣行兄さん、大丈夫?」
嗣行「……。」
紅葉「嗣行兄さんが無事なら私はそれで……。」
嗣行「…離れろ。」
紅葉「はいっ♡」
嗣行「嬉しそうにするな。」
嗣行は露骨に嫌そうな顔をしたが、紅葉は気にする素振りもない。
一方。
米太「What’s happen!?Where am I!?」
加奈登「兄さん、落ち着いて…。」
米太「Calm down!?No!!」
加奈登「もう………。」
米太と加奈登はいつも通りだった。
叶英「ふむ。これはなかなか…興味深い状況ですね。」
愛蘭「興味深いで済ませるのかい?」
愛蘭が呆れたように笑う。
愛蘭「君はこういう時まで余裕そうで羨ましいよ。」
叶英「私は紳士ですので。」
愛蘭「…その自称、まだ続いてたんだ。」
叶英「もちろんです。」
愛蘭「……。」
愛蘭は静かにため息をついた。
国雲「我、嫌な予感しかしないアル……。」
国雲は震えていた。
湾海「…国雲、大丈夫だよ。」
湾海が優しく肩を叩く。
国雲「哥哥ぅ……。」
利亜「うぇ~ん!」
利亜が勢いよく立ち上がる。
利亜「ここどこなんね!?」
零王「わかんないんね。」
零王も笑いながら答える。
利亜「ゲームっぽくて楽しそうなんね!」
太希「そういう問題じゃないだろ…。」
太希が頭を抱えた。
太希「なんで毎回こうなるんだよ……。」
那知「騒ぎすぎだ。」
那知は腕を組んだまま窓の外を眺める。
那知「状況を把握するのが先だろう。」
ランは静かに頷く。
ラン「皆さん、怪我はなさそうですね。」
リン「……。」
リンは部屋をぐるりと見渡す。
リン「出口、全部閉まってる………。」
最後に。
窓際で一人、本を読んでいる男。
レイヴン「……。」
レイヴンだけは、まるで最初からここにいたかのように落ち着いていた。
北実「おい。」
俺が声を掛ける。
北実「何か知ってるのか。」
れ「……いや。」
短く返事をする。
本当かどうかは分からない。
その時だった。
パンッ。
軽快な拍手が部屋に響く。
ヴァスリック「はいはいはいはい!! 皆さ〜ん、お目覚めかなぁ?」
北実「……?」
全員が一斉に振り向く。
いつの間にか部屋の奥に一人の青年が立っていた。
にこにこと笑いながら、大きく手を振っている。
ヴァスリック「初めましてぇ♪ヴァスリック・ソルでーす⭐︎」
廉蘇「……誰だコイツ。」
廉蘇が低く呟く。
利亜「知らない人なんね。」
零王「ボクも知らないんね。」
国雲「我も初めて見るアル……。」
みんな警戒している。
ただ一人を除いて。
レイヴン「……。」
レイヴンだけが小さく息を吐いた。
レイヴン「……ああ。お前か。」
ヴァスリックは目を輝かせる。
ヴァスリック「おっ♪読書家くんわかってくれたんだ♡嬉しいなぁ〜!」
レイヴン「名前は知らん。」
レイヴンは本を閉じた。
レイヴン「…だが、その性格は忘れようがない。」
ヴァスリック「えへへ♡」
レイヴン「褒めてない。」
ヴァスリック「分かってる♪」
レイヴンはそれ以上何も言わなかった。
北実(……知り合いなのか。)
俺がそう考えていると。
ヴァスリック「じゃじゃーん♡」
ヴァスリックが横へ一歩ずれる。
その後ろには──
エイラ「皆さん……。」
申し訳なさそうに視線を逸らすエイラ。
そして。
?「やっほ〜!」
両手をぶんぶん振る白髪の青年。
?「久しぶりじゃん〜!いやぁ〜、こんな人数いるとやっぱテンション上がるね〜!」
北実「……ノアエル。」
エイラが苦笑する。
ノアエルは満面の笑みでこちらを見る。
ノアエル「改めてよろしく〜!」
その横でエイラは深く頭を下げた。
エイラ「皆さん、本当に申し訳ありません。ですが……どうか最後まで聞いてください。」
部屋の空気が少し静かになる。
ヴァスリックは満足そうに笑い、
どこからともなく大量の紙束を取り出した。
ヴァスリック「説明長いからねぇ〜♡読む方式にしたよ♪はいっ!」
バサァッ!!
紙が紙吹雪のように宙へ舞う。
日和「うわっ!」
愛蘭「ちょ、紙!?」
利亜「取れないんねぇ!?」
それぞれが慌てて紙を掴む。
俺も一枚拾い上げた。
表紙には大きく。
『*人狼ゲーム ルール説明*』
と書かれていた。
そして、その下にはびっしりとゲームのルールが記されていた。
■基本ルール
・このゲームは北実、南実、日向、日和、陸斗、廉蘇、嗣行、宮雷、紅葉、米太、加奈登、叶英、愛蘭、国雲、湾海、利亜、零王、太希、那知、ラン、リン、レイヴンの計22人で行う。
・役職はゲーム開始前にゲームマスターがランダムに振り分ける。
*・ゲーム開始後、役職の変更は基本的にはできない。ただし、昼の特別ゲーム「*トレジャーハント*」で獲得した*追加役職はそのまま所持できる。
・魔法及び固有スキルの使用は禁止。ただし、ゲームマスターが許可したもの、または役職能力として認められた能力のみ使用できる。
・投票や襲撃、役職能力以外の方法で参加者を退場させてはいけない。
・役職能力の発動及び情報公開は任意とする。
*・ゲーム中、各参加者は一日に一回だけ*ゲームマスターへ自由に質問することができる。ゲームマスターは「はい」「いいえ」のいずれかで回答する。ただし、役職や陣営が直接判明する質問などには答えない。
*・退場した参加者は朝の発表時に一言だけ*遺言を残すことができる。内容は自由であり、真実でも嘘でも構わない。
■陣営
村人陣営
17人
(村人14人+背信者3人)
※背信者は村人陣営として扱われるが、人狼陣営の勝利を目指す。
人狼陣営
5人
■勝利条件
村人陣営
人狼陣営5人を全滅させる。
人狼陣営
人狼陣営と村人陣営(背信者を除く)が同数になった時点で勝利。
背信者
人狼陣営が勝利した場合のみ勝利となる。
■ゲームの流れ
ゲームは
朝 → 昼 → 夕 → 夜の四段階で進行する。
【朝】
・夜に退場した参加者の発表
・退場者の遺言発表
・霊媒師などによる能力発動・情報公開(任意)
・簡易会議
・自由行動
【昼】
基本的には自由行動。
ゲームマスターの判断で特別ゲームが開催される場合がある。
特別ゲーム『トレジャーハント』
・フィールド内に隠された宝箱を探すゲーム。
・制限時間内なら自由に探索できる。
・宝箱は一人一個まで開けられる。
・宝箱の中身を公開する義務はない。
・中身について嘘をついてもよい。
・宝箱にはゲームマスターから簡単な謎やヒントが与えられる。
*・追加役職は村人、人狼、背信者を問わず*誰でも獲得可能。占い師などの役職と重複しての獲得も可能。
宝箱の種類
役職箱
追加役職を獲得できる。
空箱
何も入っていない。
罠箱
ランダムで様々なデメリットが発生する。
【夕】
・役職能力の発動(任意)
・投票
※投票はゲームマスターが指定した場所で行う。
*・集合は任意だが、*投票への参加は必須。(遠隔投票も可能。)
・最多得票者が複数いた場合は最終投票を行う。
・既に退場した者へ投票することはできない。
【夜】
・人狼による襲撃が行われ、一回の夜で襲撃できるのは一回のみ。
・人狼陣営以外は朝まで部屋を出ることはできない。
■村人陣営役職
村人(7人)
能力は持たない。
昼の特別ゲームで追加役職を獲得する場合がある。
騎士(2人)
夜、自分以外の参加者一人を守る。
守られた人はその夜襲撃が無効化される。
二日連続で同じ人は守れない。
占い師(2人)
自分以外の参加者一人を占い、対象の陣営を知ることができる。
霊媒師(1人)
退場した参加者の陣営を知ることができる。
達人(1人)
自分または他の参加者一人を指定する。
その夜、その人物が襲撃された場合、人狼は返り討ちとなる。
能力はゲーム中4回までしか発動できない。
収集家(1人)
その日だけ
・占い師
・騎士
・霊媒師
のいずれか一つの能力、または自分の固有スキルを使用できる。
使用できる役職は毎回変更可能。
背信者(3人)
人狼陣営全員の正体を知っている。
能力は持たない。
占い・霊媒結果では村人陣営と表示される。
人狼陣営が勝利した場合のみ勝利。
■人狼陣営役職
欺朧狼(1人)
占い師・霊媒師の結果を書き換えられる。
能力は占い、霊媒のそれぞれ2回の計4回まで使用可能。
術操狼(1人)
自分または人狼陣営の誰か一人の固有スキルを使用できる。
スキルの使用は一日に一回まで。
騙説狼(1人)
*一日に一回、*昼時間のみ相手へ嘘を信じ込みやすくさせる。
覗狙狼(1人)
占い師と騎士それぞれ全員の正体を知ることができる。
その代わりその日の夜は襲撃ができず、能力が使えるのは四日目の夜のみ。
鎖喰狼(1人)
ゲーム中に一度だけルールを一つ喰べることができる。
発動タイミングは自由。
ただし、一部のルールは喰べることができない。
■追加役職
詐取者
自分または参加者一人を選び、その日の投票のみ票数を最大2票まで操作できる。
開票者
その日の投票終了後、誰が誰へ投票したかを確認できる。
能力の使用はゲーム中3回まで。
爆弾魔
参加者一人を退場させることができるが、その代わり自分も退場する。
三日目以降のみ使用可能。
*五日目夜終了まで使用しなかった場合、*自分が退場となる。
改革者
ゲーム中一度だけルールを変更または追加できる。
既存のルールを削除することはできない。
効果はその日の夜から翌日の投票終了時まで。
看護師
参加者の起床時刻、就寝時間、行動範囲をおおまかにだけ把握できる。
*また、「*ナースコール」により参加者一人と個別に接触できる。
部屋には紙をめくる音だけが響いていた。
誰も軽口を叩かない。
二十二人全員が、手元のルール説明書を真剣な表情で読み進めている。
ページをめくるたびに、表情が少しずつ変わっていった。
驚き、困惑、呆れ。
そして──理解が追いつかないという顔。
数分後。
最後の一枚を読み終えた俺は、ゆっくり紙から顔を上げた。
沈黙。
重苦しい沈黙。
その静寂を最初に破ったのは――
南実「いやいやいやいや!!」
南実だった。
南実「待って待って待って!! 情報量多すぎない!?僕まだ頭追いついてないんだけど!?」
零王「それは同感なんね!」
零王が勢いよく手を挙げる。
零王「ボクも三回くらい読み直したなんね!」
那知「三回で済んだのか。」
那知は淡々と言う。
那知「私は五回読んだ。」
湾海「そこまで読んだんですか……。」
湾海が苦笑した。
陸斗「……要するに。」
陸斗が紙を机へ置く。
陸斗「我々はこの人狼ゲームとやらをやらされる、という認識でいいのだな。」
日向「そういうことになりますね。」
日向は冷静に頷いた。
日向「ですが、普通の人狼とはかなり違います。オリジナルの役職に追加役職……昼には宝探しまであります。」
日和「めちゃくちゃじゃん!」
ノアエル「そこが面白いんじゃん!」
ノアエルだけは満面の笑みだった。
ノアエル「ボクなら絶対参加したい!」
太希「お前は運営側だろ。」
太希が即座にツッコむ。
ノアエル「そうだった!」
ノアエルは悪びれもなく笑う。
ノアエル「てへっ!」
廉蘇「可愛く誤魔化せると思うな。」
廉蘇が冷たく言い放つ。
ノアエル「そういうとこ好きだよ!」
廉蘇「知らん。」
一刀両断だった。
その横では──
米太「加奈登……。」
米太が青ざめた顔で紙を見つめる。
米太「人狼に襲われるとか書いてあるんだけど!?」
加奈登「兄さん。」
加奈登が落ち着いた声で答える。
加奈登「ちゃんと最後まで読んでね。」
米太「読んだよ!?だから怖いんだけど!?」
加奈登「兄さんなら大丈夫だから。」
米太「根拠は!?」
加奈登「ん〜、ない。」
米太「ないの!?」
加奈登「でも、兄さんがどっちの陣営だろうと僕は兄さんの味方だからね…♡」
米太「Oh……。」
そのやり取りを見て、愛蘭が肩を震わせる。
愛蘭「ふふっ……。」
米太「笑わないでくれる!?」
愛蘭「ご、ごめんごめん…っ。」
愛蘭は笑いを堪えながら答えた。
愛蘭「でもまあ、米太らしいなって。」
米太「らしくない方がよかった!」
一方。
叶英「……。」
叶英は顎に手を当てていた。
叶英「面白いですね。」
愛蘭「何が?」
愛蘭が聞く。
叶英「追加役職です。」
叶英は紙の一部を指差した。
叶英「人狼でも村人でも取得できる。つまり、昼の行動すら推理材料になるんですよ。誰がどの宝箱へ向かったか、どんな役職を欲しがったか。それだけで心理戦が始まります。」
日向「……確かに。」
日向が頷く。
日向「非常によく考えられていますね。」
ヴァスリック「褒められちゃった♡」
ヴァスリックが嬉しそうに手を振る。
ヴァスリック「ありがとひぃくーん♪」
日向「…あだ名ですか。」
ヴァスリック「距離感大事だから♡」
日向「初対面ですよ。」
ヴァスリック「今もう知り合ったじゃん♪」
日向「理屈になっていません。」
ヴァスリック「えへへ。」
俺は思わずため息をついた。
その時。
国雲「…ちょっといいアルか?」
国雲が珍しくおずおずと手を挙げた。
国雲「もし人狼になったら、我、本当に仲間を騙さなきゃいけないアル?」
部屋が静かになる。
ヴァスリックは少しだけ笑みを深めた。
ヴァスリック「うん♡役職に従ってね。じゃないとゲームにならないし♪」
国雲「……。」
国雲は黙り込んだ。
湾海がそっと弟の肩に手を置く。
湾海「大丈夫。なった時に考えよう。」
国雲「哥哥……。珍しく頼れるアル…。」
湾海「珍しいは余計なんだけど…。」
その様子を見ていた宮雷も、不安そうに呟く。
宮雷「疑い合うなんて……嫌だな。」
嗣行は何も言わない。
紅葉だけはそんな兄の袖をぎゅっと掴んでいた。
紅葉「嗣行兄さん……私は絶対、嗣行兄さんを疑わないからね。」
嗣行「……そういう発言が一番疑われる。」
嗣行は小さくぼそりと言った。
紅葉「えっ。」
嗣行「ゲームではな。」
紅葉「なるほど!さすが嗣行兄さん♡」
嗣行「…納得するのか。」
宮雷が苦笑する。
すると、それまで黙っていたレイヴンが静かに口を開いた。
レイヴン「一つ聞く。」
全員の視線が集まる。
レイヴンはヴァスリックを真っ直ぐ見据えた。
レイヴン「お前は、このゲームを何のために開く。」
部屋の空気が一変する。
ヴァスリックは数秒だけ黙り──
にっと笑った。
ヴァスリック「楽しいからに決まってるじゃん♡」
レイヴン「……。」
ヴァスリック「あと。」
その笑顔のまま、続ける。
ヴァスリック「人って、追い詰められた時に一番”素”が出るでしょ?それを見るのが好きなんだよね♪」
その言葉に、誰もすぐには返事ができなかった。
遊び半分にも聞こえる。
けれど、その瞳だけは、冗談を言っているようには見えなかった。
ヴァスリックがパン、と一度手を叩く。
ヴァスリック「んじゃ、説明は以上〜♡じゃあ皆、それぞれのお部屋へどうぞ♪部屋は入口に名前が書いてあるからね⭐︎お部屋の中にそれぞれの役職カード置いといたから確認してね〜♡」
俺たちは互いに顔を見合わせる。
まだ状況を飲み込めていない者も多い。
それでも、このまま立ち止まっていても何も始まらない。
陸斗「行くしかない、か。」
陸斗の一言をきっかけに、それぞれが廊下へ歩き出した。
南実「北。」
南実が隣に並ぶ。
南実「……お互い、変な役職じゃないといいね。」
北実「役職は選べないだろ。」
南実「そうだけどさ…その、もし僕が人狼だったらどうする?」
北実「その時は吊る。」
南実「即答!?」
北実「ゲームなんだから当然だ。」
南実「冷たっ!」
北実「お前限定でな。」
南実「ひどい!」
北実「……。」
思わず口元が少しだけ緩む。
こういうやり取りをしていると、少しだけ緊張が和らぐ。
北実「…それじゃ。」
北実・南実「「またあとで。」」
廊下で別れ、それぞれ自分の部屋へ向かっていく。
俺も扉を見上げた。
《Room 7 北実》
北実「…ここか。」
ゆっくり扉を開ける。
ギィ……
部屋の中は意外なほど普通だった。
ベッドが一つと本棚にクローゼット。
そして小さな窓。
最低限の家具は揃っている。
決して豪華ではない。
それでも清潔感があり、不自由は感じない。
北実「……思ったよりちゃんとしてるな。」
ふと視線を中央へ向ける。
部屋の真ん中の小さな丸テーブル。
その上に、一枚だけカードが置かれていた。
黒い縁取り。
中央には、美しく描かれた二つの紋章。
一つは鋭い牙を剥く狼。
もう一つは堅牢な盾。
北実「これが……。」
役職カード。
ヴァスリックが言っていたものだ。
俺は小さく息を吸う。
北実(ここで役職が決まる。いや……正確には、もう決まっているのか。)
カードへ手を伸ばす。
ほんの少しだけ指先が震えた。
ゆっくりと裏返す。
そこに書かれていた文字は
『村人』
北実「……村人か。」
能力はない。
だからこそ、推理だけが武器になる役職。
北実「…まあ、俺らしいと言えば俺らしいのかもな。」
そう呟いた瞬間だった。
ふわっ……
役職カードが淡い光を放つ。
光の粒となって、
カードは静かに空気へ溶けていった。
跡形もなく。
これで証拠は残らない。
誰にも、自分の役職を証明することはできない。
信じてもらうには、言葉しかない。
あるいは、行動だけ。
俺はゆっくりと窓の外を見る。
結界に包まれた、不思議な街。
そのどこかで他の二十一人も今、自分の役職を知っている。
仲間になる者。
敵になる者。
そして──それを隠し続ける者。
静かな部屋に、どこからともなくヴァスリックの声が響いた。
ヴァスリック『役職の確認は終わったかなぁ〜♡それじゃあ、いよいよ始めよう♪君たちだけの──』
『人狼ゲームを。』
その瞬間、胸の奥で、小さく鼓動が跳ねた。
疑う。
信じる。
騙す。
見抜く。
そのすべてが交差する、『ゲーム』の幕が、静かに上がった。
to be continue
コメント
3件
お読みおわりました!第1話、もうすごく引き込まれましたね。廃村の雰囲気から始まって、ヴァスリックさんの「疑う強さ」っていう一言がめちゃくちゃ刺さりました。ただの遊びじゃなくて、ちゃんと心理戦の奥深さを見透かしてる感じがして。22人もいるのに全員のキャラが一瞬で立ってるのがすごいです。特にレイヴンさんがヴァスリックを知ってるっぽいのが気になる…!これからどう動くのか、続きが楽しみで仕方ないです♪