テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「る、ノチェ」
「ステラ様」
「お、怒ってる?」
助けに来てくれた相手に対し、一言目がこれはどうなのかといわれれば、何も言い返せない。けれど、彼女の目を見ていると、怒っているようにしか見えなくて、私は小さくなってしまう。怒られるのは好きじゃない。確かに、いきなりいなくなっちゃったのは悪かったかも知れないけれど、それは私のせいじゃなくて……という言い訳は、ノチェには通用しないだろう。ファウダーのこともいえないし、だから、私が勝手にいなくなって、勝手にヘウンデウン教に巻き込まれた、そういう風にノチェの瞳には映っているのだろう。
アルベドにチクられたら嫌だなあ、なんて思いながら、私は再びノチェを見る。
「怒っていません」
「それ、怒っている人が使う台詞なんだってば」
「怒る理由がないので」
「いきなりいなくなったのに?」
「……、それはそうですけれど。ステラ様のことですから、何となく。貴方は、ちゃらんぽらんに見えて、しっかりしているところはあるので」
「今、ディスった?」
ふいっと顔を背けられてしまう。どさくさに紛れて、主のことを馬鹿にした! なんて思いながらも、私のことを短い時間の中で理解してくれたことが何よりも嬉しかった。私という人間は理解するのに時間がかかるものだと思っていたのだから。
(いや、私が人と関わろうとしなかったというか……関わる事を避けていて、見て貰おうとしなかったからか)
昔の私は、そもそも、自分を出すことが怖かった。虐められた経験とか、親に認められなかった経験とか。内に引きこもっていたのは事実だ。今は、そんなこと気にしなくなったというか、私を受け入れてくれる人がいるんだと気づいたから、自分をさらけ出せている。そうじゃなかったらきっと私は成長できなかった。
「しかし、まあ、面倒くさいことになっていますね」
「ご、ごめんって」
「ステラ様のせいではありません……が、本当にどうして」
「何だ、貴様は!」
「その魔力……貴族のか!?」
魔力があれば貴族なのか、その問題については議論が起こるので何も言わないが、ノチェが魔法を使っているところを初めて見た気がした。変装魔法は私がノチェにかけたものだし、ノチェが魔法を使えないわけじゃないとは思っていたのだけれど。
(ノチェ、大きい斧使うの!?)
可愛らしい顔をして、持っている武器がごつかった。魔法で、大きさも、重さも調節できるのだろうが、彼女が斧を振り回しているというその姿を想像するだけで、目が飛び出てしまう。華麗な少女が思い武器を使うというシチュエーションが何より大好きだから。
(――って、今は、オタクになっている場合じゃないの!)
ノチェが荷担してくれたことで少しは有利になりそうだと、黒衣の男たちを見る。今のところ魔力を感じるのはこの二人だけなので、加勢してくることはないだろうけれど、まだ何か隠し球を持っているかも知れない。だとしたら、私達二人だけでどうにかなるのかと。
「の、ノチェ」
「何でしょうか、ステラ様」
「このまま、此奴らとやり合う気?」
「ステラ様が望むのなら、此奴らを始末します」
「え、ええ……」
始末、といっていることから、ノチェにとってはただの害虫区チョというか、掃除なのかも知れない。怖いなあ……タンタンというものだから、さらに恐怖を感じて強い舞う。彼女は慣れているのだろう。
「こ、殺すの?」
「ステラ様の存在は、まだ隠しておくべきだとアルベド様から聞きました」
「アルベドが……」
「ですから、ステラ様がいくら変装魔法をしているとはいえ、変にヘウンデウン教と繋がってしまったので、ここでその繋がりを立たなければ。こやつらが何をしでかすか分からないですしね」
「た、確かにそうだけど……」
ノチェに、此奴らを殺させるのか。自分の手は汚さず。ノチェも汚させないために、そういってくれているのだろう。そうだったとしたら申し訳ない。でも、言い訳に、私はなれているから、とか言われそうで、怖かった。こんなこと慣れるものじゃないのに。
握った拳は爪が食い込んでいたかった。目の前で人が死ぬのが嫌っていう理由も少なからずあったんだろう。そんなことせず、拘束して……でもいいのだけれど、此奴らから情報を吐き出させようと思うと、必然的に拷問になるし。悪いコとした人達の末路って、やっぱりろくなものじゃないと。
「……」
「ステラ様?」
「此奴らの記憶を消す魔法とか」
「禁忌に近いのでやりたくはありません。ですが、ステラ様が望むのなら……」
「ああ!じゃあ、いい。大丈夫!うん!」
また、ノチェの手を煩わせようとした。そうだ、記憶を消す魔法はそもそもダメなんだと思い出す。禁忌の魔法ではないけれど、限り無く禁忌に近い。それを思い出して、私はノチェを引っ張った。ノチェは、私に反応しつつも、黒衣の男たちから目線を逸らさない。ノチェは本当になれているんだろう。どれだけの修羅場を乗り越えてきたのか、私には想像がつかなかった。でも、彼女の日常がそうなのだとしたら、私はそれを否定することも、肯定することも出来ない。
生きる世界が違う、その言葉で締めくくるのはいけない事かも知れないけれど、そういうこと。
「では、どうしますか?」
「戦って、ノチェが傷つくのは嫌」
「私は、負けませんが」
「それでも、傷つくかも知れないじゃん。相手は手練れっぽいし、ノチェ一人で相手するのは……」
「アルベド様にたたき込まれているので大丈夫です。そうでなければ、アルベド様の大切な人である貴方の護衛など任せられません」
「い、言われればそうかも知れないけれど」
では、何故止めるのか。そう言った目でノチェは見つめてきた。それは、何か自分は可笑しいこと言ったかといわんばかりの目だった。ああ、やっぱり、と私は納得しかける。けれど、それは違うといいたい。
「ノチェ。こんなこと慣れなくていい」
「こんなこととは?」
「人殺しとか……手を汚すこととか。私は守られている立場でこんなこと言っちゃっているけれど、私はノチェにそう言うのを強いたくない。アルベドがとかいうけど、アルベドだって、別にそれを心から望んでいるわけじゃないと思う」
「アルベド様は、私を助けてくださいました」
「それは、ノチェが傷ついていたから。だから、これ以上傷付けたくなくて、助けたんだと思う。アルベドならそうすると思うから」
「……」
きれい事かも知れない。私の勝手な想像。アルベドっていう人間を美化しすぎているのかも知れない。彼がやった事、悪人は殺すって言うことも決して肯定されるわけじゃない。人殺しは人殺し。でも、彼の理念を、信念を聞いてからは、全てを否定できなくなった。全てを肯定できるわけじゃないけれど。少なくとも彼は、彼なりに生きているのだと。
ノチェもそうあって欲しい。
アルベドなら、きっと――
「分かりました。ステラ様」
「わ、分かってくれた!?」
「はい、ですので――」
と、ノチェはいうと、斧を後ろに背負い、私をお姫様抱っこする。あまりにもひょいと持ち上げられ、そこまで身長差ないよね!? 私重いはずなんだけど!? と心の中で抗議の声を上げながら暴れてしまう。けれど、ノチェの目を見ていると怖くなって彼女の腕の中で大人しく足を揃える。風魔法とか、色んな魔法がかけられているのだろう。
「舌、噛むので閉じておいてください」
そういうと、ノチェは私を抱きかかえたまま、地面を蹴って高く舞い上がった。