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期限付き効果
残り時間は、
端末の隅に小さく表示されていた。
数字は静かに減っていく。
強調も、警告音もない。
ベンチに腰を下ろし、
背中を丸める。
グレーのニットは肘のあたりが薄くなり、
指先は少し冷えている。
髪は結ばれたまま緩み、
首元に短い毛が触れている。
効いている間は、
意識しなかった。
言葉が滑らかに出て、
迷いなく選べて、
立ち止まらずに済んだ。
それが、
当たり前になっていた。
残り一分。
表示を見た瞬間、
胸の奥がわずかに硬くなる。
何かをしなければ、
と思うが、
何をすればいいのか分からない。
数字が消える。
音はしない。
景色も変わらない。
人の流れも、そのまま続く。
ただ、
次の一歩が出ない。
足の裏が地面に貼り付いたように、
時間が戻ってきた。
さっきまでなかった重さ。
考える間。
ためらう余白。
息を吸って、
吐く。
効いていた時間より、
今のほうがはっきりしている。
切れた瞬間の感触だけが、
言葉の奥に残る。
ベンチを立つ。
遅れて、体が動く。
表示はもう、どこにもない。