あと少しで西国分寺駅に到着する、という時だった。
スマホのバイブが震えている。
それも、けっこう長い時間。
あいにく電車の中だったし、降りてかけ直そうと、豪はスマホを取り出す。
——着信:080-××××-××××
取り出した直後に電話が切れたようだ。
ここ最近、三度着信履歴が残っていた、携帯番号。
きっと奈美に違いない。
電車が西国分寺駅に滑り込み、ゆっくりと停車する。
豪は電車を降り、すぐに折り返すと、数回コールの後、恐る恐る電話に出る女性の声が聞こえてきた。
『…………もしもし』
「…………すみません、こちらは高村奈美さんの携帯番号でよろしいでしょうか?」
『……はい、そうです』
「…………本橋豪です」
ああ……奈美の声だ。
画面の向こうに、奈美がいる。
久々に聞いた彼女の声は、電話越しだと落ち着いた雰囲気に聞こえた。
彼が名乗ると、奈美は少しの沈黙の後、
『お久しぶりです……豪さん』
と言ってくれる。
画面の向こう側の彼女は、微笑んでいるだろうか? それとも、表情を強張らせているだろうか?
久々に奈美から『豪さん』と呼ばれ、柄にもなく、想いが込み上げてくるのを感じた。
「奈美……元気だったか?」
『……何とか』
豪は、改札に向かい、定期を自動改札にタッチさせて通過する。
駅のコンコースを抜け、ロータリー前のベンチに腰掛けて、奈美との電話を続けた。
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