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「それにしても、まさかあいつが女を取られるとはな〜」
雪もすっかり溶けた快晴の日。俺は教室で昨日あったことを話していた。
「どう思うよ、幼なじみ的にはさ〜」
「え、俺に聞く?」
俺が話している相手は、辰哉の幼なじみである亮平。まあ、幼なじみとはいえ……
「俺、あいつと最後にちゃんと話したの小2の時なんだけど」
そう。小学2年生で引っ越しをした亮平は、7年間も辰哉とは別の学校に。偶然にもこの高校で再会したわけではあるが、辰哉はたぶん亮平がいることに気づいていないのだ。
「んー、やっぱそうだよなあ。あいつ変なところで鈍感だし……7年空いてるし……」
2年生になって初めての席替えで隣になり、それ以来ずっと仲の良い俺と亮平。亮平はずっと辰哉のことを覚えていて、いつか会えたら……とずっと思っていたよう。実際にも、俺伝いに辰哉と会った時、亮平はすぐに辰哉に気づいていた。
「おい、辰哉ー!これ、俺んとこに混じってた」
辰哉の練習着が俺のカバンに混じっていて、隣のクラスまで届けに行った時のこと。
「え、ガチ?うわ、ほんとだ。ごめんね翔太ぁ」
「お前これで何回目だよ……次は気をつけろよ?」
俺についてきた亮平は、俺と辰哉が話している間廊下の壁にもたれかかって待っていてくれた。そんな亮平に、辰哉が気づいた。
「あれ、後ろにいるのって副会長くん?」
亮平はこの高校の副会長もしているから、辰哉の認識は「幼なじみ」という遠い記憶よりも「学校の副会長」の方が強い。
「え?あ、そうそう。同じクラスで仲良くなった」
「マジかよ〜羨ましい!副会長と友達とかもう最強じゃーん。俺、深澤辰哉!よろしくね副会長くん〜」
手をひらひらとさせながらそう言う辰哉。
「え……!」
亮平は話しかけられた瞬間何かに気づいたみたいで目を見開かせたが、すぐに目を伏せて、
「……あー、うん、よろしく」
とだけ返していた。
反応が気になった俺が後から亮平に聞いてみたことで、二人が幼なじみだと言うことを知ったのだ。
「……まあ確かに、辰哉は自分の欲しいと思ったものはすぐに行動して手に入れてるイメージだけど」
亮平は窓の外を見ながらポツリと言う。その視線は何かを捉えているようで何も見ておらず、遠い記憶に思いを馳せているようだった。
続けて、亮平は小さい頃の辰哉とのエピソードを話し出した。公園で遊んでいる時、家に初めて呼んだ時、逆に家に呼ばれた時のこと……欲しいと言っていたおもちゃが、次遊ぶ時には必ず持っていたことなど、細かいことも教えてくれた。あいつの「好きなものには速攻!」という性格は昔からだったのか、と思うと同時に。
「……亮平ってさ、辰哉となんかあったの?てか、あるだろ」
「え?それはどういう……」
「だっておかしくね?そんな前の覚えてるかどうかも分からないくらいのことをはっきり覚えてるなんて。よっぽどのことがないと忘れるだろ、普通」
辰哉は鈍感だからと言ってはいたものの、俺だって小2の頃の記憶なんて無い。こんなにはっきりと覚えているなんて……
俺の言葉を聞くと、亮平は小さくため息をついた。
「……翔太って、勘が鋭いよね。大丈夫?嫌われてたりしてない?」
「えっ、そんな……!」
「ははっ、冗談冗談。大丈夫だよ、翔太なら」
亮平は目を細めて笑うと、少し寂しげな表情に戻って言った。
「……変だと思われるかもだけどさ、聞いてくれる?」
上目遣いで首をかしげ、どこかあざとい感じで言う亮平。断る理由なんて無いので俺は力強く頷く。でもタイミングの悪い事に……
キーンコーンカーンコーン……
「……マジかよ」
冷たく鳴り響くチャイムが、授業の始まりと話の終わりを知らせていた。この前の席替えで席は前後になったので、俺は亮平の話を諦めて前を向く。
「この話は、また後でね」
教科書を探す俺に、亮平は後ろから声をかけた。
睡魔に襲われて集中できないことはよくあるけど、なんだかソワソワしてしまって集中できない、という経験は初めてだった。
亮平が俺に隠していた、辰哉に関する秘密。生き別れの兄弟だとか、因縁の相手だとか……どこで培ったか分からない想像力が働いて、ありえないことまで考えてしまう。
まさかとは思うけど……俺と同じだったり、するのかな。
気がつけば授業が終わっており、お昼休みになった。俺は急いで弁当箱を取り出し、亮平を振り向く。
いつも通りここで食べようと弁当箱を広げる亮平に、俺は提案した。
「屋上で話さねえ?」
ごちゃごちゃしてうるさい教室の隅より、誰もいない屋上の方がゆっくり話せるかと思って。多分、誰にも聞かれたくないと思うから。
亮平は目を見開いて驚いたかと思えば、笑顔で頷いた。
この学校の屋上は、他の学校とは違って立入禁止というわけではない。でも、扉の建て付けが悪くて普通に開けることができないため、使えないと思っているヤツが多く滅多に人が来ない。
ガコンッ!
ヤバそうな音を立てて扉が少しだけ開き、俺と亮平はその隙間に体を滑りこませた。
誰もいない屋上は開放感に溢れていてとても気持ちよかった。
「ん〜!今日は晴れてるし、気持ちいいな!」
足元に弁当を置いて、大きく伸びをしながら亮平を見る。亮平は俺の話を聞いているのかいないのか、フェンスの方に走って街を見渡している。
「俺、あんまり屋上来たことなかったんだけど……めっちゃ気持ちいいね、ここ」
「へへん、だろ?」
屋上の常連である俺は得意げにいうと、屋上に設置されているベンチに座って弁当を広げた。
「そんじゃ、さっきの続き聞かせてよ」
「うん、わかった……あのね、変だと、思われるかもだけどさ」
亮平は俺の隣に来て座ると、小さく深呼吸をして言った。
「俺ね、小さい時からずっと、辰哉のこと、好きなの。……友達として、とかじゃなくて、恋愛的に」
亮平の言葉をゆっくり考える。亮平が、辰哉のことを好き……それって。
「……なんだ、やっぱり俺と一緒じゃん」
「え?」
亮平の言葉を聞いて、思わず声に出してしまった本音。亮平は驚いて目を見開き、固まっている。そんな亮平に、俺は告げる。
「実は俺もさ、好きなやつが男で……今、付き合ってんのよ」
「え、付き合ってるの!?」
「そうそう。なんなら一緒に住んでる」
「え?!」
驚いてばかりの亮平。まあ、無理もないか。
俺は、生まれた病院も同じで、幼・小・中と同じの幼なじみ、涼太と付き合っている。中学を卒業するときに俺が思い切って告白し、涼太は戸惑いながらも承諾してくれた。
そのあとすぐ涼太が一人暮らしすることになったのだが、その家に俺と俺の兄も住まわせてもらうことになり、今は男三人で共同生活をしている。
俺と涼太が付き合っていることは、兄には伝えてあるが親には言っていない。……何を言われるか、わかんないから。
「そう、だったんだね……!」
亮平は驚きつつも表情を輝かせている。この気持ちを理解してくれる人がいるとは思っていなかったからなのかもしれない。……俺かって、同じ考えを持つ人がいるなんて思わなかったよ。
「好きな気持ちって自由だし、嘘なんてつけないじゃん?誰を好きでもいいだろって話だよ」
俺はついカッコつけて、缶ジュースを一口飲む。
「……かっこいいね、翔太」
「恥ずいからやめろ……!」
俺たちが幼なじみに抱く特別な感情。それは、他の人には伝わりにくい愛情であり本音。
いつか、亮平のこの気持ちも素直に伝えられる日が来ますように。
俺はお弁当を食べる手を止め、晴れ渡る空にそっと祈った。
五反田.☃
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