翌朝壮馬と花純が出勤する際、母親二人も車に乗せて駅まで送った。
別れ際、壮馬の母・百合子が言った。
「花純ちゃん、今度は是非うちにも遊びにいらしてね」
「はい、ありがとうございます」
花純は笑顔で返事をする。
そして車は会社へ向かった。
ハンドルを握りながら壮馬が言った。
「なんだか一気に台風が去ったみたいだな」
「すみません、うちの母まですっかりお世話になってしまって…」
「いや、それは全然構わないよ。うちのおふくろは君のお母さんと友達になれて凄く嬉しかったみたいだし。それにしても人の縁って不思議なもんだな…」
壮馬は指で顎を撫でながらしみじみと言う。
その時花純も同じ事を思っていた。
会社に着くと、二人はいつものようにエレベーターの中で別れた。
壮馬はそのまま最上階へ上がり副社長室へ向かう。
部屋に入ると秘書の麗子が満面の笑みで壮馬を迎える。
「おはようございます。副社長、先ほど社長からお電話が入り出社したらすぐに社長室へ来るようにとの事です」
「ん、わかった。朝一番でなんて珍しいな…」
その時麗子はこう思っていた。
(もしかしたら私の事についてかも! 「早く交際を申し込みなさい」とかなんとか息子に助言するのでは?)
麗子は勝手な想像を膨らませながら思わず顔がにやける。
しかし壮馬はそんな麗子には目もくれずに、
「ちょっと行ってくるよ」
と副社長室を後にした。
社長室は壮馬の部屋の隣だった。
壮馬がドアをノックすると社長秘書が出迎えた。
そして壮馬はすぐに奥の社長室へ入った。
「社長、何かご用でしょうか?」
壮馬の父、そしてこの会社の社長である高城雄馬は、椅子に座ったまま窓の外を眺めていた。
壮馬の声を聞くと、くるりと椅子を回して向き直り満面の笑みで言った。
「ママから聞いたぞ。随分と可愛らしい女性と一緒に住んでいるんだって?」
(もう伝わってるのか……)
壮馬は小さくため息をつく。
「はい」
「いやぁ、とってもいいお嬢さんだそうじゃないか。で、そのお嬢さんの親御さんとも偶然一緒になったってママが凄く喜んでたぞ。これは素敵なご縁かもしれないな」
「はい、私もそう思います」
「うん、こういう良い流れはしっかり掴まないとな。で、どうなんだ? お前はそのお嬢さんと結婚したいと思っているのか?」
「はい。ただ交際はこれからですが。でもいずれは彼女と結婚したいと思っています」
壮馬の言葉に父の雄馬は満足そうに頷いた。
「わかった。じゃあせいぜい逃げられないようにしっかりと掴まえておけよ」
「わかりました」
「そうと決まったらお前の秘書はチェンジだ。今いる秘書は異動させて、後任は経営企画部にいる田代君を起用する事にしよう」
「田代ですか?」
経営企画部にいる田代は、将来有望視されている若手社員だ。
聡明なのに性格は謙虚で、誠実な態度は同僚達からの信頼も厚い。
「ああ、彼はまだ若いが今から育てれば将来お前が社長になった時にきっと立派な右腕になってくれるだろう」
「わかりました」
壮馬は以前から、自分の秘書は男性がいいと思っていたので快く承諾する。
「現秘書の稲取君は志村専務の秘書がちょうど育休に入るので来週からそこへ異動してもらおう。異動については人事課長から伝えてもらうから」
「わかりました。それにしても父さん…いや社長…動きが早いですね」
「当たり前だろう! 40近い息子がやっと結婚したいと言い出したんだ、そうと決まったら善は急げだ。私はこのチャンスを棒に振るつもりはないからな。それにママがその花純ちゃん? だったかな? を相当気に入ってるんだよ。あの子は絶対に壮馬の良い嫁になるって言い切るんだからな。ママの人を見る目は間違いないからなんとしてでも我が高城家の嫁に迎えないと! ところで私だけその花純ちゃんとやらに会っていないんだ…早く会わせてくれないか…」
父の雄馬は目尻をデレッと下げながら言う。
「それはもうちょっと待って下さい。あまり急かして彼女が逃げ腰になっても困りますから」
「それはそうだな、くれぐれも慎重にな」
「それと先日話していた『青山花壇』についてなのですが…」
そこから二人は親子としてではなく会社の経営に携わる者同士として真面目に話し合いを始めた。
そして10分後に壮馬は社長室を後にした。
副社長室へ戻ると、麗子が目をキラキラと輝かせて壮馬に声をかける。
「お話はもうお済みになったのですか?」
「え? ああ…」
壮馬はすぐに自室へ入って行った。
(一体何の話だったのかしら? 副社長はなんだか上の空だし…話って私との事じゃなかったの?)
麗子は納得がいかない様子で首をかしげる。
そして浮かない顔のまま壮馬のコーヒーの準備を始めた。
コメント
2件
壮馬さん外堀は埋まってきてますよ〜🤭 パパの麗子排除も早い‼️ 麗子の話は出たけどね貴女は異動ってことだから、その勘違いが呆れを超えて笑える🤣 パパさんは花純ンに会えてなくて拗ねモード🥲あとで下のお店に行っちゃう? 花純ン高城家は完全に歓迎されてるから安心してね🥰
フフッ、麗子の思い込みの激しさに閉口しちゃうけど、あなた来週から別の担当に飛ばされますからね😆🤭 壮ちゃんのママから早速パパ社長に連絡があったのも驚きの速さ🚄✈️‼️ でも会社トップがしっかり周りから固めてって言ってくれるのは何より嬉しい😊💞✨ この勢いで壮ちゃんも花純ンの気持ちをしっかりこっち向きにして掴んでね👊🎊💓