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「あ! 兄貴?!」
「弥生?!」
火のついていない釜土から、10メートルほど西の方に妹が半透明だが生前の姿で立っている。だが、俺が何か言おうとしたら、妹は更に西の方へ逃げだしてしまった。
「あ、弥生さん? 火端さん! あれ!」
「え?!」
見ると、ここから西の方。妹が逃げた方に、湯気で見えにくかったけど、確かに火のついた釜土に挟まるようにポツンと古井戸がある。
古井戸は後回しで、なんとしても急いで妹を追わないと……。
俺は走った。
足は妹よりも速い方だ。
グングンと妹を追い掛ける。
「ま! 待ってくれ弥生!! お兄ちゃん心配してるんだぞ!!」
火のついた釜土を避け、高温の湯気を払い。俺は妹を追った。
前方を必死に逃げる妹は、何か叫んでいる。
俺には、それが……。
「なんで? どうして? こんなところに兄貴がいるんだよーーー!」
っと、あの妹のことだからそう聞こえたけど、定かではなかった。
周囲の悲鳴で、よく聞こえないんだ。
俺は必死に走る。
なんでか、ここで妹を逃すと永遠に探し当てられないと思ったからだ。息を荒くして、足に力を入れて、持てる気力全部を使って逃げていく妹を全速力で追い掛けた。
火のついた釜土の間を数多く通り過ぎ、その釜土からの熱い湯気を避けながら、身体から顔から汗を噴出しながら、ひたすら真っ赤な地面を走っていく。
足の裏や体全体が暑くて仕方がない!
いや、熱くてしょうがない!
俺は、それでも歯を食いしばり走る!
けれど、妹は何故か俺よりも足が速かった。
「ゼエ、ゼエ、ゼエ……くそっ」
俺はそれでも諦めない。
火のついた釜土からの湯気や、辺り構わず鳴り響く悲鳴を一切気にせずに走り続けた。
だが、無情にも……。
西へ西へと逃げていった半透明な妹の姿を完全に見失ってしまった……。
でも、諦めるもんか!!
俺はその場で死ぬほど大量の汗を流してから……倒れた。
もう息が持たなかった。
高熱と高温の湯気で、まるで俺の肺は炎の中を走ったかのようだった。
息が苦しいぜ。
「兄貴……?」
「や……弥生か?」
弥生の声がした。
昔の優しかった頃の弥生の声だ。
「なんで、こんなところに?」
「お前が心配だからだ……」
倒れている俺の頬に何かが触れた。
背中には、直に真っ赤な高熱の地面が当たっている。熱さで火傷をしそうだった。
俺はゆっくりと目を開ける。
自然に優しく微笑んでいた。
頬に触れているのは、弥生の手だった。
目の前には、妹の弥生がいた。