「俺は奈美と将来の事も考えている。本気で好きな女だから、愛している女だから、この先もずっと一緒にいたいと言ったんだ」
「でも……」
「でも? まだ何か不安な事や気がかりな事があるなら、言ってくれないか?」
奈美はしばらくの間、考えを巡らせた後、意外なほどに、しっかりとした口調で答えた。
「豪さんと私、恋人として過ごしたのは、気持ちが通じ合った日の一度だけですよね? お互いの事、よく知らないのに、プロポーズのような言葉を言うのは……随分早くないですか?」
想いが通じ合ったあの日、二人が腹を割って話す事は、あまりなかった。
だが今は、長い時間を掛けて話し、豪は、奈美との距離が縮まったと感じている。
「俺は、さっき話した事で、二人の事を今まで以上に知る事ができたと思っている。それだけじゃない。奈美とまだ口淫だけの関係だった三ヶ月間、一緒にいて、俺はますます君の事を好きになっていった」
彼は、頬に張り付いている奈美の髪を指先で掬い、耳に掛けた。
「互いの事を完璧に知った状態で結婚するカップルは、滅多にいないと思うぞ? 俺が知る奈美っていう女性は、見た目が清楚で可愛いのはもちろん、真面目で表情が豊かで、恥ずかしがり屋で、芯がしっかりしている所もある。俺の事を第一に考えてくれて……何よりも笑顔が可愛くて癒される。それに……」
豪は、口角を片側だけ吊り上げ、ニヤリと笑い、耳朶に囁く。
「クンニされている時の奈美の表情と声、身体の捩らせ方が……すげぇ色香を漂わせていてエロい。これは俺だけしか知らない奈美の一面だろ?」
「もう! 真面目に話しているのに恥ずかしい事を言わないで下さい……!」
彼女がまつ毛を伏せながら、顔中真っ赤にさせている。
「身体の相性って結構大事だぞ?」
豪は、俯いたままの彼女の顔を覗き込んだ。
「なら、せっかくだから俺も奈美に聞こうか。奈美から見て、本橋豪という男はどんな男?」
唐突な豪の質問に奈美は顔を上げ、狼狽えるような、困ったような表情を交互に見せる。
くるくる表情を変える彼女も、愛おしくて可愛い。
だが彼女は、まだ思考を張り巡らしているせいか、何も言わない。
(おいおい……まさか俺に対して何もないって事はないだろうな?)
「こんな事言ったら、豪さん怒るかも……」
奈美は、斜め上に視線を向けて考えているようだった。
「女性が喜ぶ事をよく知っている人……かな」
「何だよそれ。俺が、相当女たらしみたいな言い方をされて、何気にショックだな」
そこそこの恋愛経験がある豪が、数多の女と遊んできたような言葉に、つい苦笑した。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!