辺りが薄暗くなる中、栞はゆっくりと正門に向かって歩いていた。
ちらほらと同じ方向へ向かう学生たちの姿が見える。
正門近くでは、数名の男女が待ち合わせをしていた。おそらくサークル活動を終えた学生たちだろう。
栞は特に気にせず、その前を通り過ぎようとした。
その時、突然誰かが栞を呼び止めた。
「あら~、栞ちゃんじゃない?」
聞き覚えのあるその声に、栞の心がざわつく。それは、最も会いたくない人物の声だった。
栞がおそるおそる声の方へ視線を向けると、そこには元義理の姉・華子の姿があった。
胸元が大きく開いたワンピースを着た華子は、派手な化粧を施した顔で冷ややかな笑みを浮かべていた。
「お久しぶりです」
栞は、平静を装いながら華子に挨拶をした。それと同時に、心の中で直也の著書のページを開く。
「ずいぶんそっけないじゃない? 『元い・も・う・と』ちゃん!」
「妹?」
隣にいた重森が、華子の言葉に反応した。
「そうよ! 昔、うちの母と栞ちゃんのお父さんが再婚していた時期があって、私たちは一瞬だけ義理の姉妹だったの。でも、もう離婚しちゃったから、今はただの他人だけどね」
「そうだったんだ」
重森は、かなり驚いている様子だった。
「それにね、うちの妹ちゃんはすっごく思いやりがあって優しい子だから、私が入りたかった大学をこっそり受けて、ちゃっかりここの学生になったの! 本当に姉思いのいい妹でしょう?」
その言葉には、明らかに嫌味が込められていた。
華子の言葉に興味を示した仲間たちが、一斉に栞の方を見た。その瞬間、栞の心臓が大きく高鳴り、全身に緊張感が走る。
久々に蘇るこの感覚に、嫌な予感がした。
栞の額にはじんわりと汗が浮かび、手は震えていた。そして、呼吸も徐々に乱れていった。
(どうしよう……)
追い詰められ、パニック寸前の栞だったが、なんとか気持ちを落ち着けようと、直也の本に書かれていた言葉を思い出そうとした。
その時、頭の中に浮かんできたのは、こんな一文だった。
『時には相手にマウントを取りましょう! あなたが毅然とした態度を取れば、相手はきっとひるむはずです』
栞は手のひらをギュッと握りしめ、一度深呼吸をしてから毅然とした態度で言った。
「ごめんなさい、お姉さん! あなたが行きたがっていた大学に、あっさり合格してしまって……本当にごめんなさい!」
栞は勇気を振り絞り、笑顔で華子に挑発的な言葉を返した。それは栞にとっての初めての反撃だった。
気の弱い妹から反撃されるとは思っていなかった華子は、恥ずかしさのあまりみるみる顔が赤くなった。
その時、華子の仲間の一人が冗談めいて言った。
「ハハッ、なんだよ、妹の方が優秀だったんじゃん!」
その言葉に、他のメンバーたちは声を上げて笑った。
恥をかかされた華子は、怒りをあらわにしながら栞を睨みつけている。
しかし、栞はそんな華子を無視して背筋を伸ばし堂々と歩き始めた。その姿には、これまでの彼女にはなかった強さが感じられた。
その様子を目の当たりにした重森は、驚きを隠せないまま、栞の後ろ姿をじっと見つめていた。
(彼女があんな態度を見せるなんて……驚いたな……)
毅然とした栞の姿に驚きながらも、重森はますます彼女への興味を深めている様子だった。
その一連の騒動を、少し離れた場所から直也が目撃していた。
(彼女が栞の元義理の姉か……)
直也は、重森の隣にいる派手な女性を見つめながらそう思った。
そして、彼女が栞に向けた冷酷な態度を目の当たりにし、強い衝撃を受けていた。
(あんな女と一緒に暮らしていたら、そりゃおかしくなるよな。可哀想に……)
真面目で純粋な栞が、あんな冷酷な女性と一つ屋根の下で暮らしていた時間は、恐怖でしかなかっただろう。
さらに、唯一血の繋がった父親も傍にいなかったのだから、きっと相当な苦労をしたに違いない。
そんな過酷な状況を耐え抜いてきた栞のことを思うと、直也の胸に激しい痛みが走った。
しかし一方で、毅然とした態度を取った栞を目の当たりにし、嬉しさも感じていた。
彼女の反撃は見事だった。
栞は直也の本をしっかりと読み込み、その教えを行動に移したのだ。
そう思うと、直也の胸には感慨深い思いがじんわりと広がった。
精一杯の勇気を振り絞り相手を打ち負かした栞は、今頃きっと震えているに違いない。
華子の毒気に当てられたのだ。正気でいられるはずがない。
そう考えた直也は、栞の後を追い足早に正門へ向かった。
目の前を通り過ぎる直也に気づいた華子は、すぐに悟った。
(また栞の傍にあの男がいる…….)
華子は二人の関係を疑いつつ、今は傷ついた心を重森に癒してもらおうと、彼にしなだれかかり甘えるように腕を絡める。
そして、そのままの姿勢で、直也が正門を出て行く様子をじっと見つめていた。
コメント
15件
発作が起こりそうなのに良く頑張った🥹また一つ克服できましたね‼️ 早く先生に褒めてもらいましょう🥲
栞ちゃんは毅然と言い返せたね👏👏努力して入学したんだから華子が嫌味言うのは恥晒し以外無いんだが😮💨 直也さんの教えが栞ちゃんに勇気を与え守ってくれた。直也さんも堂々たる栞ちゃんに益々惚れちゃうね(´,,•ω•,,`)💕 華子〜いちいち栞ちゃんに絡まないでね。。貴方達は栞ちゃん親子に迷惑しか掛けてないって😨😨
華子は残念だけど成長してないわね…栞ちゃんの方が色んな気持ち通過して直也先生との出逢い,直也先生の本との出逢いです華子より一歩前成長してるね。直也先生栞ちゃんのフォローよろしくね。