テラーノベル
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侵入者処理班に入っていて、いい事と悪い事を比べてみよう。
まずはいい事。
給料が高くてうっはうは。
更に実力さえあれば、みんなが付き従ってくれる。
その上、弱い侵入者をボコボコにできて、いいストレス発散になる。
そして悪いこと。
…それは今みたいな状況だ。
「みんな…俺は、今から一族の秘術を使う…。だが、これを使ったら最後。…俺は死んでしまうだろう」
「そんなっ! 勇者様!」
「だから…だから聞いてくれ」
…。
………これである。
毎度毎度、自分を勇者だと豪語する奴らが、昔話を始めるのだ。
それも敵前で。
しかも、これだけ溜めるのであれば相当強い技なのだろうと期待しても、せいぜい擦り傷程度の威力でしかない。
本来であれば、この話が終わるのを待ち、「はっはっは。面白い話を聞かせて貰った礼だー」とか言って必殺技を使い、そして打倒されるべきなんだろう。
でも、ひとつ言わせてほしい。
私は侵入者処理班だ。私がするべきことは、ただ淡々と侵入者を処理すること。
だから、謙虚に技の打ち合いだってしない。
卑怯な手だって普通に使う。
なのに、それを極悪非道だのなんだのと言われるのは、本当にストレスなのだ。
その理論が適用されるのなら、お前らが食っている肉を出荷している者は、どこまで悪人なのだ。
「……悪いけど、長話に付き合えるほど私は暇じゃない。まだ終わってない書類が山の様にある。だから、さっさと退いて?」
私は言いながら、片手で炎の魔法を発動し、勇者の肩を掠めるように放った。
それだけで勇者の防具の半分ほどが吹き飛び、その体も木の葉の様に後方に飛んでいく。
「くっ…!」
「勇者様…!! 貴様! なんてことを!」
…御託はいいから、さっさといなくなってほしい。
だから、今度は風の魔法を手に纏わせながら言った。
「……退かないんだったら、無理矢理退かす。着地は自分たちでどうにかして。…ああ、それと――二度と戻ってこないで」
左手を勇者たちにかざす。
「…ザラ・アサファ」
「………え、ちょ、待っ――」
呪文を短く唱えた瞬間、勇者たちはレンガ製の壁をぶち破って王都の方に飛んで行った。
……あれ。お城の壁を…壊して…?
「…あ…あわ。あわわ………まずい。またお城壊しちゃった…。お父様になんて言い訳しよう…。反省文もかなあ…やだあ……」
私は肩を沈ませながら、迎撃用の大広間にある扉を開けて自室へと向かった。
ふと視線を上げると、廊下には何人かの同僚の姿があった。別の班に所属のはずの魔族も数人確認できる。
「す、すげえ…流石はイブリース様だ…」
「あれで、今月8回目だろ?」
「俺達にはできない芸当だよなあ…」
「戦闘面だけじゃない。罠の使い方だって一級品だ!」
「本当にすごいよな…」
…小声で言ってるつもりなのだろうか?
こうまで露骨に褒められるとすごく照れくさい。
でも、反応したら負けな気がしたので、私は彼らを無視して歩き続け、自室のベッドに倒れこんだ。
「明日にはお父様から謁見の連絡が来るんだろうなあ…。やだなあ…」
ぶちぶちと文句を言っている間に、瞼が少しずつ降りてきた。
幸い、書類は一日徹夜すれば終わる量だ。
私は安心(?)して眠りについた。
…そして翌日。
私はドアを叩く音で目を覚ました。
「イブリース様! イブリース様はいらっしゃいますか!」
…朝っぱらから大声を出さないでほしい。すごくうるさいから。
でも、多分これはお父様の迎えだ。返事をしなければ、部屋に押し入ってきかねない。
「はい…はいはい」
机の上に放置しっぱなしだった櫛で髪を解きながら、私はドアを開けた。
そこには、いつも迎えに来るガーゴイルがいた。
「イブリース様、起きていらっしゃいましたか。寝起きのところ申し訳ないのですが、陛下から今すぐ謁見せよと伝言を預かっております」
「…分かったよ。ちょっと待ってて」
「はっ!」
ドアを閉めると、私はすぐに服を着替え、簡単に身支度をしてからドアを開けた。
「準備ができたようで。それでは向かわせていただきます!」
ガーゴイルは私の姿を見ながら言うと、床に敷かれている赤いカーペットに沿って歩き始めた。
ここ――魔王城は広大だ。ここで生まれ育った私だって、時々道に迷ってしまう。
それゆえに、身分の高い人の部屋へ続く廊下を、色分けされたカーペットで表しているのだ。
「うう…絶対怒られる…なんて言おう…」
「イブリース様。そのお話をされるのは、これで今月8回目ですよ」
「そう言う貴方も、そのセリフを言うのは7回目じゃない?」
ガーゴイルは気まずそうに視線を逸らし、ぴしっと前を向いた。
うーんうーんと唸っているうちに、謁見室までたどり着いてしまった。
私がため息をつき終えたタイミングで、ガーゴイルは大扉を両手で開く。
「…息災であったか。我が娘よ」
大扉の奥には、3メートルくらいの巨体の人物が玉座に座っていた。
まるで、筋骨隆々を言葉にしたような人だ。
玉座の横に飾ってある黄金の鎧と、2m近い薙刀は、彼の勇猛さの表れでもあった。
「…これで8回目です。お父様」
「そうだな。……皆外せ。2人で話をする」
お父様はそう言いながら、片手を横に振った。
それだけで、大扉の横にいたエリートスケルトンナイトや、奥に引っ込んでいたメイド全員が体を揺らし、部屋から出て行った。
全員が退出したことを確認すると、お父様は玉座から立ち上がった。
「…イブリースよ」
「はい。お父様」
「お前は恐らく、壁の修理費を懸念しているのだろうが、あれは別に構わん。常日頃から暇している修理班への、よい教訓になるだろうからな」
「…怒らないんですか?」
「……我が今までお前を叱ったことがあったか? 我が覚えている限り、厳重注意までだったはずだ。それに、我を命がけで守ってくれている娘を、どうして叱れようか」
「…でも前回は反省文書かせたじゃないですか」
「あれは大臣たちが勝手にやったことだ。私は介入していない」
よかった。今回はお咎め無しらしい。
私がほっと息を吐くと、お父様は私の目の前でしゃがんだ。
そして、私と目線を合わせながら続きを話した。
「して、イブリース。お前を呼んだのは、ただお前の働きぶりに感謝し、称賛するためではない。分かっているな」
「はい。お父様」
「…よい。では聞くが、お前の考えは変わらぬままなのか?」
「考え、と申しますと?」
「無駄な殺生はせぬというお前の生き方の事だ。大臣たちは、お前を将軍にしたくて仕方がないらしいが…」
「お父様。その話であれば、意思表示は既に済ませたはずです」
「…分かっているさ。しかし、ここはかつての掃きだめの様な場所ではない。国なのだ。国には、民意を言うものが必ずしも存在する。この国の者のほとんどが、お前を将軍にしようとしている。それでもお前の意志は揺るがぬのか?」
「はい。生き方はもう決めましたので」
私がそう言うと、お父様はくつくつと笑った。
「…何かおかしなことでも?」
「いやなに。昔の我の姿が重なっただけだ。先の返答。身が震えるほど嬉しかったぞ。…分かった。大臣たちにはきつく言っておく。お前はいつも通り仕事に励むといい」
「寛大なお言葉に感謝いたします」
「うむ。であれば出ていくがよい。まだ仕事が残っていると聞いたが?」
「…嫌なこと言いますね」
「魔王が嫌なことをしないはずないだろう。もう行きなさい」
お父様は言いながら、私の背中を叩いた。
…結界が間に合わなかった。痛い…。
「…ああそれと」
謁見室から出ようとすると、お父様から声がかかった。
振り返ると、そこには悪い笑みを浮かべているお父様がいた。
…なんだろう。とっっっっても嫌な予感がする。
「昨日お前と戦った、勇者らしい男がいただろう? 実のところ、本当に勇者だったらしくてな。自分の体裁を守るため、お前を魔王に仕立て上げたらしい」
「…は?」
………いや本当になんで?
弱い自分たちが悪いんじゃん……しかも私、立ち位置的には門番Aみたいなものなのに…。
…ん? っていうか、魔王という存在が明るみに出たら、討伐隊が来るのでは? 人間側からしたら私は魔王なわけで…。………それって…まさか……。
「しばらくの間、我の代わりをしてくれ」
「…ぶっ殺しますよお父様。なんで私なんです。お姉様の方が強いんだから、適当にすり替えればいいでしょう?」
「いや、あれはダメだ。戦闘のことにかかりきりで、そのほかの事を何も考えられないからな。その点、お前はあれよりも遥かに秀でている」
「……じゃあお兄様はどうです? それがだめでも、弟だっているじゃないですか」
「お前の人相書きが既に出回っているんだ。人類の進歩は目覚ましくてな。他者の記憶を念写する魔法があるらしい」
「…前言、撤回していいですか? あの勇者気取りども、殺しとくんでした」
私が言うと、お父様は笑いながら風魔法を片手で発動し、少しの隙さえ見せずに私を謁見室から押し出した。
…くそう。これが血筋か…。
静かに舌打ちをすると、部屋の外にいたガーゴイルたちが驚いたように肩を揺らした。
「私は…私はただの…門番Aなのに…なんで…」
そのまま、とぼとぼと部屋まで帰ると、ベッドの上にダイブした。
すると、机の上の書類がこんにちわしているのが見えた。
「書類なんていいや…どうせ、お父様が色々手をまわして雑務なくしてくれるだろうし…このままふて寝してやる…」
そんなこんなで、私は魔王の代理をすることになってしまったのだった。
…正直、今すぐにでも降りたい。影武者の魔法でも開発して、全部任せたい。
でも。やるしかないのだ。…本当に不本意だけど。
その頃、王城では。
「魔王城へ先遣隊を送り込め」
太った王は、玉座でふんぞり返りながら、その膨れ上がった手を前に突き出した。
跪いていた騎士たちは、一言だけ短く言葉を発すると、駆け足で玉座の前を後にした。
「…魔王がこんな少女だったとは…」
王は、一枚の紙を懐から取り出すと、それを見つめながら言った。
コメント
1件
「門番Aが魔王代理にされるって、設定からして面白すぎますね。勇者を吹っ飛ばして壁壊して『またやっちゃった』って落ち込むイブリース様、めっちゃ可愛いです。『ぶっ♡♡♡ますよお父様』のノリとかお父様との関係性も好き。もう少しで書類終わるはずが魔王代理って……続きが気になりすぎます!」
羽海汐遠
14,367
( ᐛ )
168
#主人公最強
杯雪乃
1,135
他力本願
117