テラーノベル
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「はい、もしもし。こちら青春課です……はい、はい……承知しました。では消費課のほうへおつなぎしますね」
受話器を持ったまま、私は一呼吸おいてから声色を切り替えた。
「お電話代わりました。青春消費課担当の渡辺です。本日はどうされましたか?……はい、はい……」
なるほど、いつもの相談だ。
青春という時間を使い切ってしまった。だから、取り戻したい。そう言って電話をかけてきた少女は、泣いていた。
彼女は約七年間、吹奏楽に打ち込んできたらしい。けれど、今日のコンクールで落選。積み重ねてきた時間は、空に溶けるように消えた――そう感じているのだろう。
「それは……お辛いですね」
私は、慣れた調子で相づちを打つ。
「残念ですが、消費された時間そのものを取り戻すことはできません。ただ……この先に進むことはできます」
受話器の向こうで、「えっ」という声がした。
「青春をそのように使われた方には、新しい行き先をご案内しています。いわば、新天地ですね。その場所の名前は――」
そこまで説明したところで、私は電話を切った。
ふう、と小さく息をつき、時計を見る。ちょうど昼休みだ。
弁当を取り出して食べ始めると、同僚が席までやってきた。
「さっきの女の子、どうだった?」
「……もごもご。うん、大丈夫」
同僚は、ペットボトルを手に取りながら、少しだけ笑う。
「そうよね。この課につながれば、だいたい大丈夫だものね」
そして、声を落として付け加えた。
「……隣の課につながったら、大変だけど」
隣の課の表札には、こう書いてある。
――青春浪費課。
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