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この『|ハコブネ《惑星》』の『管理者』である私の『後継者』たる資格を持つ叶糸を救おうと、私が彼の元に来てから一ヶ月程経過した。 その間は比較的平穏に過ごせていた方だと思う。まぁそうは言っても、義家族達から、小さいながらも保持している領地の管理や運営計画の書類作成や大学院の課題などを押し付けられてはいたけれど、理不尽な折檻が今は無いだけでも、見ていて多少はほっとした。
彼が大学の講義を受けている最中などの時間で、私は私で、自分の『お仕事』をひっそりとこなす。異空間に居る補佐達から送ってもらった惑星管理関連のデータを元に『ハコブネ』の環境の微調整をしたり、今後起こる可能性の高い災害の対策を立てたりなどなど。だけどこっちもこっちで|後継者問題《重要な用件》があるから、『|惑星の自我《ノア》』が不機嫌にならない程度にちょっとだけ手を抜いて。でもむしろ今は現地に居る分、リアルタイムで関われるから今までよりもしっかりと対応出来ている気がする。
夜になり、私が眠ると叶糸が色々と発散するお時間に突入するけれども(そのせいで起きてしまっている)、“欲”を程良く発散しているおかげでよく眠れるのか、出会った当初より彼はやや健康的になってきていると思う。友人の一人である古村にも『近頃はクマが薄くなったな』と言われていたし。嫌がらせで最低限にしか貰えていなかった食材も、庭で育てている収穫物も、私がこっそり豊穣系の魔法で増やしてあげているからきちんと食事も出来ているおかげもあろう。
——まだしばらくはこんな日々が続くかに思えていた、ある日の事。
叶糸が大きめの平たい箱を抱えて、男爵家の敷地内にある彼の家に戻って来た。
「……それは何、じゃ?」
居間のテーブルの上に箱を置き、中身を出して状態の確認をしている叶糸を見上げながら声を掛ける。「んしょ、っと」と無自覚にこぼしながら椅子の上に上がってみると、いつの間にか叶糸が両手で顔を覆い悶絶していた。どうも自力で登る際に晒したプリケツがツボだった様だが、私の心はレディなのでめちゃくちゃ恥ずかしかった。
気を取り直してその様子をじっと見ていると、叶糸が「……|義父《あの人》から、夜会に行く用意をしろって言われたんだ」と教えてくれた。成る程、だからスーツのサイズ確認の為に広げてみているのか。
「そうなのか。……だけど、その服は君には小さいんじゃ?」
「亡くなった義祖父の物だからね。体格はオレとが一番近かったけど、これを着るとなると、ちょっと無理があるな。……型も古いし」
「確かにそう、じゃな」
義祖父と叶糸では世代も違い過ぎる。このまま無理にでも着れば、裾が短いし、何よりも胸元がパッツンパッツンで却ってセクシー過ぎてしまうので、此処は私が一肌脱いでやろうか。
「しかし、急に夜会になど、どうしたのじゃ?(今回は)初めてなのではないか?」
「この間やっとメンバーが確定して、始動し始めた企画の噂を聞いた貴族に招待されたらしいんだ。『貴方の新規事業に興味がある』ってね。だけど……まだ社外秘の段階のはずなのに、何処から聞きつけたんだろうな」
「なぁ、あのオッサンはその事を気にもしていないんじゃ?」と訝しげな顔で訊くと、嬉しそうに口元を綻ばせながら「その通りだ」とちゃんと答えてくれた。だが余程私の顔付きが面白かったのか、そのままの流れで抱き上げ、腹の肉に顔を埋めてきた。
「今回招待されたのは高位貴族が定期的に開催している情報交換目的の夜会らしく、普段は、男爵程度じゃほぼ声なんか掛からないんだ。余程、利がある時じゃないとね。なんで失敗は出来ないからと、もしものためにオレを同行相手に選んだんだろうな」
(それなら余計に同行者の服装にも気を使えぇぇ!)
とは思ったが、その結果がコレ、なのだろうな。高位貴族からの招待だぞと有頂天であろうが、ケチ臭い奴だ。
「……肝心の企画の発案者が君では、突っ込んだ質問なんかされようものなら、あの男では咄嗟に返せぬものな」
「それもあるし、会った事もない相手ばかりで上手い返しも出来ないから、正直不安なんだろ」
「納得しか出来んな」と呆れたが、義父である|惺流《さとる》に対してよりも、今はひたすら人の腹の匂いを吸っている叶糸の行動に対しての呆れの方が大きかった。
(それにしても、こんな時期に“夜会”の誘い、だと?)
死に戻ってきた過去のパターンを思い返しても、この時期にそんな指示を受けた事は一度も無かったはずだ。しかも高位貴族側からの誘いとなると余計に思い付かない。以前までは、高位貴族と悪縁が繋がってしまうのは叶糸の卒業が徐々に迫ってきた時期になってからだったのに、何故だ?と不思議でならない。だけど惺流が叶糸に同行を指示した理由には見当が付く。叶糸の推察通りの部分も確かにあるが、一番の目的は——
叶糸の『結婚相手』探しである。
散々叶糸を利用しまくっている義家族が、彼の『婿入り先』を探すのにはちゃんと理由がある。叶糸の義祖父であり、前当主でもあったエイガの『遺言』が原因だ。
エイガは叶糸の扱いはぞんざいな方だったが、それでも能力そのものは相当高く評価していた。だから彼は死に際に自身の全ての権利を叶糸に譲ると遺言を残した。前当主が亡くなったのち、遺言の開封作業の時に初めてそうと聞かされた一同は阿鼻叫喚状態だったそうだ。もちろん叶糸はその場には呼ばれていない。彼はただの便利な『道具』でしかなく、『家族』とはカウントされていないからだ。
此処『ハコブネ』では、公証人の立ち合いの元に書かれた『遺言』の効力は絶対だ。
無視でもすれば関わった者全てが呪われるというオマケ付でもある。
遺言書を開いた時点で書かれた内容が自動執行され、既にもう土地や建物などの権利は全て叶糸に譲渡されている。この様に強制力が大変強いので、『公証人』の資格を持つ者は倫理観がしっかり身に付いた者のみに限られているのは救いかもしれない。
なのに、現状実権は義父である現当主・惺流が持ったままだ。
その理由は叶糸が未成年だからである。惺流は自分が(役目はほぼ果たしていないが)『法定代理人』である事を理由に、実権を欲しいままにしている。だがこのままでは叶糸にバレて全てを持っていかれてしまうかもしれない。誤魔化せるのは、せいぜい叶糸が学生のうちが限界だろう。
(ならば、アイツを婿養子として家から出してしまえ)
エイガは叶糸を次の当主にするつもりでいたので、他家に出た場合を想定した遺書までは残していなかった。『剣叶糸』としか指定していないので、『叶糸の苗字が変わってしまえば遺言の強制力は消えて自分達の自由に出来る』と惺流は考えた。ならば高値で、出来れば高位貴族に売り付けて、縁を繋いでおきたいと目論んでもいる。
今現在。辛うじて剣家がまだ体面を保てているのは叶糸が縁の下で支えているおかげなのに、それでも彼を売る気なのか?と『報告書』を読んでいる途中までは思っていたが、腹の立つ事に惺流の企みには続きがあった。
希少種である『獣人』ではあっても、叶糸の血筋はどう足掻いても『平民』出のままだ。たとえ高位貴族に婿入りし、自分達よりも地位は上になろうが、どうせ婿入りした先でも冷遇される事が目に見えている。
(そうなった時、頼れるのは自分達だ。だって我らは“家族”なのだからな)
その時に手を差し伸べてやれば、今まで通りに叶糸を『使える』。我らに感謝し、喜んで自分達に対してその力を遺憾なく発揮する!と本気で思い込んでいる。『叶糸から全ての権利を取り上げ、金も縁も手に入り、奴の分の生活費が浮き、そのうえ今まで通り自由に使えるぞ』と皮算用をしているのだ。
(……発想がもう狂ってる。一度たりとも優しくなんかした事がないのに、バカじゃないのか?——あ、いや、本当にバカなんだったな)
惺流の算段を全て知っているからか、今回の『夜会』が気になってしょうがない。『まさか、今回は、こんなにも早く結婚相手を探す気でいるのか?』と考えるだけで頭が痛くなってきた。
コメント
1件
読み終わりました〜〜!今回も重い裏事情がぎっしりで、頭がクラクラしそうです…… でもアルカナが叶糸を陰ながら支えてるのが本当に尊くて。豊穣魔法で食材増やしてるのとか、スーツ直そうとしてるのとか、愛おしさが滲んでるなって思いました。 義父の「一度も優しくしたことないのに使えると思ってる」皮算用、ほんと胸糞悪いけど、アルカナが全部お見通しなのがせめてもの救いですね。 それにしても「プリケツで悶絶」の件、夜のアレの描写も含めて、このシリアスの中にふと挟まるアルカナ弄りがもう癖になります笑 早く叶糸が幸せになってほしいけど、このもどかしい距離感もまたいいんですよね……続きが気になります!🥀
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