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胸糞悪い惺流の算段を知っている身としては、此処で留守番なんかもっての外だ。高位貴族達の夜会だとはいえども、どうせ私の姿は見えない者ばかりだし、多少紛れ込んだ所で問題は無いだろう。
(叶糸相手には通じないけど、他が相手なら完全に隠す事も出来るのだし)
——そう思って私は、「私も夜会に行く、ぞよ。何かあれば、助けてやれるからな」と胸を張って伝えた。なのにどうだ。
「無理じゃないかな」と即座に否定されてしまった。
「何故⁉︎じゃっ」
初対面時の『うわあぁー!』と叫んでしまったあの時の様な声で訊くと、「あー……」と少し気不味そうに叶糸がこぼす。
「や、ほら、アルカナは小さくって可愛いから、会場内をウロウロしていたらボールみたいに蹴られちゃうんじゃないかな」
そうか、姿が見えないが故の弊害か。大学の校内は広いのでまだ未経験だが、ゴロゴロと蹴られに蹴られて会場中を転がる自分の姿を想像すると段々悲しくなっていった。永年この惑星を管理している我が身がただのボール扱いをされてしまうとか、悲惨でしかない。——と、その惨状ばかりに気を取られ、そもそも触れられない様にしたらいいだけじゃないかという単純な発想にすら至らずにいると、急に叶糸が嬉しそうな表情をした。
「あ、でもアルカナのドレス姿は見てみたいな」
手近な椅子に座り、当たり前の様に私を膝に乗せる。そして背後から優しく抱き締めながらうっとりとした声で言われたが、こんなずんぐりボディじゃ何を着ようが絶対に似合わないだろ。だが私は諦めきれない。
一度目は義家族に殺されるという惨事に見舞われた彼だが、二度目以降は全て、“婚約者”達が原因で死んでいる。
今回の夜会の会場に、その原因となった歴代の者達がいないとは限らない。相手は全て都内在住の高位貴族だったから、参加している可能性が高いとも思うんだ。
「よし。ならば私も人の姿になって参加しよう、かのう」
やや振り返りつつキリッとした顔で言ったのに、また叶糸は顔を手で覆って悶えている。こちとらすごく真剣なのだが……だがまぁ、君が癒されているのなら良しとしよう。
「でも、どうやって?」
「叶糸が、私を『変身も出来る者だ』と『認知』を書き換える必要がある、ぞな」
もう癖になりつつあるこのアホみたいな喋り方はいつもの様に流しつつ、叶糸が「……『認知』、か」と呟き、唸りながら目を瞑る。多分、早速私への認識をそう書き換えようとしてくれているのだろう。だけど一向に自分の姿を変えられる気がしない。私達の遭遇時に『何で此処にマーモットが⁉︎』と思った衝撃が余程大きかったのだろう。
こりゃ今すぐには無理そうだと少し諦めつつ、焦りも捨てて「ところで、夜会はいつなんじゃ?」と期限を訊く。
「明日の夜だと言っていたな」
「そうか。じゃあ、それまでの間に頑張っておいて欲しい、ぞよ」
「わかった」と頷き、穏やかな笑みを叶糸が浮かべた。
彼のためにも洒落たスーツを仕立ててやろう。ベースとなるスーツはエイガの物だったのだ、生地やボタンなどの質だけは間違いなく良い物だろうから、上等な物に仕上げるのも簡単そうだ。
——夜会当日。
今回の夜会の主催者は、本家が京乃府という地域の中で最も影響力のある『星澤』家だ。地元だけじゃなく、都内にもタウンハウスを持っており、そこでの開催だそうな。代々『侯爵』の爵位を持つ家で、老舗の着物問屋を営んでいる。今では、着物や反物だけじゃなく、和装向けの小物や着物柄をふんだんに活用した洋装などのブランド展開もしており、かなり裕福な一族だ。
一族には『猫』や『狸』の獣人も多いが、大人達は皆もう結婚しているし、未成年者は結婚適齢期には程遠い児童ばかりである。そのおかげで叶糸とは一度も関わりが無いから、主催者一家への警戒は必要無いだろう。
(だけど来賓者の方が安全かは、まだ未確認なんだよなぁ)
『過去』のデータに関しては既に補佐達から貰えているけど、あの者達にも日々の作業があって、こちらの補助まで常に出来る程暇じゃない。そうなると、『現在』に関しての情報は自分の足で仕入れた方が圧倒的に早いし正確なので、是非とも会場内をしっかり見て回りたい所だ。家族構成や懐具合などといった基礎となる各一族のデータはあるから、後は足で稼いで情報に肉付けをしていきたいのだけれども——
なのに私は、叶糸に『留守番をする様に』と念を押されてしまった。
結局、私がまだ変身魔法を使えるには至っていないせいで。
だけど叶糸が相当頑張って私への『認知』を書き換えようとはしてくれたからか、かなりいい所まではいけていると思う。だが後一歩が足りず、結局マーモットのままなせいで置いて行かれ、御丁寧に首輪型の拘束魔術まで掛けて行きやがったけど——
(ふっ……私を誰だと思っているんだ?)
マーモットのままながらも、私はもう既に夜会の開催宅までは侵入済みだったりする。多少は出来た『認知』の綻びのおかげもあって、強固な拘束魔術を解除するくらいはお手の物だったのだ。
(綻びが出来る前だったら、此処まで強固なモノの解除はもっと困難だったろうけども……。後継者が優秀過ぎるのも考えものだな)
そもそも私の様な『管理者』になるには膨大な量の魔力を保有していなければならず、それなりには魔法技術も求められる。彼の様に国家試験をクリアしている『魔術師』とまではいかずとも、私だってそこそこには魔法(この星では一般人が扱う魔法をそのまま『魔法』と呼び、資格保有者が使う魔法は『魔術』と呼ぶ)が使えるのだ。そのおかげで彼の、『夜会用に』と渡された衣装も、今風に改造出来たんだしな。
(仕上がったスーツを着た叶糸を見て惺流が悔しがるかと思いきや、『その格好が出来たのはワシのおかげだぞ』と誇らしげにしていた時は、アイツを殴りたくなったけども)
残念ながら殴れはしなかったが、“綻び”のおかげで相当数の魔法が解禁になったのは大きな収穫だ。変身魔法は叶糸の『認知力』に邪魔されたままだけど、それでも、素直に留守番をするよりかは私も会場に居た方がサポート出来る事があるはずだ。なので念の為、会場内に居る者全てから私の姿は見えない様に魔法を掛けつつ(今尚、『後継者』である叶糸には適用外なままだけども)、私はマーモット姿のまま、会場内の警備状況と情報の収集を始めた。
コメント
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あおいです🌷 第12話、拝読しました! 「ボールみたいに蹴られちゃう」発言には思わず笑っちゃいました。アルカナの貫禄ある内面とマーモット姿のギャップがもう…愛おしいです。それでいて、過去の婚約者たちの因縁を夜会に感じ取る切実な動機がちゃんとあるから、侵入シーンに説得力があってグッと来ました。認知の綻びで拘束魔術を解除できるようになったのも熱い展開。叶糸のスーツ姿も見てみたいです…!
月咲やまな
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