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愛犬サニー

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愛犬サニー

1 - 1.雨の日

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2023年01月13日

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1.雨の日

僕は雨の日が嫌いだ。公園に行くことができなくなるしあの日を思い出すのが嫌だったからだ。前は家で寝ている時に雨の音を聞くのが好きだった。両親が亡くなるあの日までは…


「亮〜ご飯よ〜」

僕はおばあちゃんの声でいつも目覚める。カーテンの隙間から太陽の光がよく見える。

眠い…

本当はまだ寝たいが今日は晴れているから早く1階に降りよう。部屋から出て階段を降りると机にはパンとサラダが置いてあった。

「おはよう。」

「おはよう。今日は起きれたんやね。」

晴れの日以外はずっと布団に潜っている。雨の日は雨音が聞きたくないからずっと寝ている。耳栓をして枕で耳を塞ぎ心臓の音だけが聞こえるようにする。天気予報が外れた時は最悪だ。だからいつも耳栓をして寝ている。いつもサラダは食べずにパンだけ食べてお皿を片付ける。

「ごちそうさま。公園に行ってくる。」

朝ごはんを食べ終わり部屋に戻る。クローゼットを開けて今日着る服を決める。別にどんな服でもいいんだけど今日は暖かいから薄めの服を着ていこう。「行ってきます。」おばあちゃんにそう言って家を出る。

晴れの日は気分がいい。太陽の光が冷え切った僕の体を温めてくれる。ずっとこのままでいたらいいのに、といつも思う。公園に向かっていると登校中の学生とすれ違う。本当なら僕は今頃高校3年生で将来のことを考えないといけない時期だった。中学校1年生の頃から学校に行きづらくなって休みがちになり2年生の頃からは不登校になった。高校には一応入れたけど入学式も行かず僕は学校を辞めた。

公園につくと僕はいつも座っているベンチに腰を掛ける。暖かい…太陽の光で温まったベンチはまるで後ろから抱きしめられているかのような感覚だった。空を見上げると雲1つない青天だった。僕は空にある太陽を手で掴もうとする。だけど掴めない、大きくて明るいのに。もの凄く遠い所にあるのにまるで手を伸ばしたら届くかのような感覚になる。

そろそろおばあちゃんは仕事に行ったかな…学校を辞めたのをおばあちゃんは知っているのになぜか一緒にいると気まずくなる。それは申し訳ないと思っているからなのか何もできない、しない自分を見て欲しくないからなのか…僕には分からなかった、いや考えようとしなかった。

家に帰る帰り道を下を向きながら歩く。できるだけ道の端を歩いて存在感をなくしながら歩く。

ゴン。

足が何かにぶつかった。少し顔を上げると目の前にはこっちを向いている犬がいた。俺は捨て犬を拾わずに家に帰る。

「まあ誰かが拾うだろ…」

家に帰るとおばあちゃんは仕事に行っていて机には昼ごはんとメモが置いてあった。

「仕事に行ってきます。レンジであっためて食べてね。」

わざわざ昼ごはんなんて作らなくてもいいのに。コンビニに買いに行けば済む事だしさっさと仕事に行けばいいのに。こんな事をいつも心の中で考えながらソファーに座ってテレビをつける。天気予報を見て明日は雨が降る事を確認する。

「最悪…明日雨かよ…」

テレビを消して部屋に戻る。カーテンを開けて外の景色を眺める。何で雨なんか降るのだろうか。晴れの方が絶対いいし雨の日が好きな人なんていないだろ…「雨なんて降らなければ僕の人生はこんなふうにはならなかったのに。」


ポツポツポツ。

「おかあさーん!雨だよー!」

「亮!危ないから走っちゃダメよ。」

13年前の雨が降っていた日、僕がまだ雨の日が大好きだった頃に両親が亡くなった。

その日は雨が降っていたが当時の僕はバカで雨で濡れているブランコで遊んでいた。先生がすぐに止めにくるが、「うわっ!」ブランコから落ちて怪我をしてしまった。

「大丈夫??痛くない??」

先生に心配されながら手当てを受けた。

「もうすぐお父さんとお母さん来るからね。」

僕の両親はとても心配性で僕がちょっと怪我しただけでいつも2人で来る。別にこのくらい大丈夫なのに。だいぶ時間が経って痛みが引いてきて先生の元へ行く。

「せんせーお父さんとお母さんまだー?」

先生は何も言わずに抱きしめてきた。

僕の両親は幼稚園に来る途中で事故に遭い亡くなった。雨が降っていたため視界が悪く地面が滑りやすくなっていたから事故が起きたそうだ。当時の僕は信じられず家に帰ったらお父さんとお母さんがいると思っていた。だが、家に帰って「お父さん!お母さん!どこにいるの!!」と呼んでも返事はなくそこで初めて自分の両親はもうこの世にはいないのだと分かった。その日から僕は雨の日が嫌いになった。


今でもあの日を思い出す。思い出したくなくても雨の音を聞くと思い出してしまう。忘れたいのに忘れられない、思い出しなくないのに思い出してしまう…だから僕は雨の日が嫌いだ。

気づいたら昼になっていた。おばあちゃんが作ってくれた昼ごはんをレンジで温めて食べた。「美味しい…」おばあちゃんが作ってくれたご飯はなぜか暖かい。レンジで温めたからではなくどこか太陽のような暖かさがある。

何もかもおばあちゃんに任せっきりの自分が嫌になる。だけど僕は何もしない。ただ家で寝ている事しかできない。僕には1つだけ好きなことがある。それは晴れの日に空の写真を撮る事だ。撮った写真を後で見るために撮っているのではなく晴れの日の写真で部屋の壁を埋めたいからだ。そうする事で部屋を少しでも明るくしたかったのだ。「カシャ」今日の空は今までで1番綺麗な空だ。


「亮〜ただいま。」

あれ、寝てたのか。カーテンを開けて外を見ると暗くなっていた。もうこんな時間か…と思いながら階段を降りて「お風呂入ってくる。」とおばあちゃんに言ってお風呂に入った。お風呂から出るともう夜ご飯の準備がされていた。「部屋で食べる。」一緒に食べるのが嫌なんじゃない、ただ今日は一緒に食べる気分じゃなかっただけだ。おばあちゃんが寂しくないかとか何を思いながらご飯を食べているのか、などと考えながら僕は1人で夜ご飯を食べる。

「ごちそうさまでした。」夜ご飯を食べ終わり1階に降りる。おばあちゃんはテレビを見ながら夜ご飯を食べていた。おばあちゃんの背中はなぜかとても小さく見えた。そしてとても寂しそうに見えた。僕は下を向きながら自分の部屋に戻り布団に入った。明日は雨だから公園には行けないし何をしよう…そんな事を考えながら眠りについた。


ザー。

雨の音で目が覚める。耳栓をしていても聞こえてくるほど音が大きい。カーテンを開けると外は大雨だった。

そういえばあの犬大丈夫かな…

どうせ誰かが拾っていると思い僕は再び布団に入り寝ようとした。でも寝れなかった。眠くないからなのか、それとも犬が心配なのか、僕はすぐに分かった。部屋を飛び出し1階に降りる。「行ってくる!」とおばあちゃんに言って傘を手に取り家を出た。雨の日に外に出るのはあの日以来か…捨て犬の所へ走って向かう。何でこんな事しているのか自分でも分からないまま走る。

「あれ…いない…」

昨日捨てられていた所に来たがそこにはダンボールの箱しかなく犬はいなかった。「なんだ…来なくてもよかったじゃん…」そう独り言を呟き家に帰ろうとした時

「あれ?晴れた。」

さっきまであんなに降っていたのに急に雨が止んだ。ついでにいつも行っている公園に行く事にした。地面がびちゃびちゃだ。遊具やベンチも濡れていた。誰もいないと思ったが東屋で寝ている1匹の犬がいた。目が悪いので少しずつ近づくとその犬がダンボールの箱の中に座っていた捨て犬だと分かった。犬は全身濡れていて足の裏には公園の土がついていた。太陽の光がちょうど犬に当たっていた。「誰も助けてくれなかったんだな…」そう思うと自然と涙が出てきた。とても寒そうにしていたので着ていたジャンバーを掛けてあげた。「あっ、」犬が起きてしまった。目が合うがすぐに逸らす。その目はまるで太陽のように輝いていてとても暖かかった。

「じゃ、じゃあね。そのジャンバーは好きに使っていいから。」

犬に日本語が通じないのは自分でも分かっている。だけど何も言わずに家に帰るのが嫌だった。

「わん!」

後ろを振り向くと犬はジャンバーを噛んで僕の方に歩いて来ていた。別に返さなくてもいいのに…「ありがとう」そう言ってジャンバーを受け取り公園を出た。短い時間だったけど雨の日に外に出て良かったと少しだけ思えた。

傘を振って水滴を落とし家に入る。

「ただいま。」

「亮、どこに行ってたの?心配だったのよ。」

「ちょっと公園に行ってた。」

「亮の後ろに犬がいるけど…」

え?と思い後ろを見てみるとあの捨て犬がいた。なんで付いて来たんだ…?そう思ったが僕は追い払おうとはしなかった。この犬と一緒にいたい、そう思った。

「おばあちゃん、この犬拾った…」

「……そう。じゃあ今から犬を飼うのに必要な物を買いに行こうか。」

おばあちゃんは嬉しそうな顔をしていたような気がする。

「まずはシャワー浴びて来なさい。」

「分かった。」

犬とお風呂に入るのは初めてだった。犬と入っているのになぜかお父さんとお風呂に入っていた頃の記憶を思い出した。「ポロッ」何で今涙が出るかな…僕は泣いているのを犬に気付かれない為にシャワーを顔にかけた。

別にバレても相手は犬だからいいのに…


何で犬を拾ってしまったのかは分からない。

だけど別に助けたいとかそうゆうんじゃなくてただ僕には太陽みたいな存在が必要だったんだと思う。

ずっと誰かが助けてくれるのを待つのはとてもしんどかったと思うしとても寒かったと思う。

雨の日には太陽は見えなくて空には雲ばかりある。僕はそれが嫌で雨の日は空を見ないし写真も撮らない。今日は雨の日なのに太陽を見た様な感覚になった。

それは犬が太陽みたいに輝いていたからだと心の中で思った。





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