テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
普段、娼館で見せるあの下衆な笑いを唇に浮かべた侑が、瑠衣の腰にさり気なく回してきた。
「今日はこのホテルに部屋を取ってある。ダブルルームだが」
まさか、こういうホテルの部屋まで取ってあった事に、瑠衣はビクっと身体を震わせる。
「……何で震えている?」
「いえ、まさか部屋まで取ってあるとは思わなかったので……」
「今日、お前をここに連れ出したのは、俺の同伴だろ? 部屋を取らないでどうする」
「いや、私、泊まるのはラブホかと思ってたので……」
瑠衣が答えると、侑は長い前髪を大雑把に掻き上げながら『お前なぁ……』と呟き、ハァっとため息を吐くと、瑠衣の耳朶に小声で嗜めた。
「…………お前、高級娼館の娼婦だよな? ならば、同伴は高級ホテルで過ごすものではないのか?」
高級ホテルといえば四年前、瑠衣が『処女喪失の儀式』で娼館のすぐ近くにある老舗高級ホテルで、女風のオーナーである中崎拓人に抱かれて以降、行っていない事に気付く。
「そうなんですかね? 私、同伴は響野先生が初めてなので……」
瑠衣の言葉に、侑は静かに瞠目すると、彼女は人差し指で口元のホクロに触れた後、小首を傾げた。
「あれ、私……何かおかしな事を言いました?」
「いや……何でもない。とりあえず部屋へ行くぞ」
侑の腕が瑠衣の腰を引き寄せた瞬間、彼女の鼓動が大きく打ち鳴らされ、忙しなくトクトクと刻まれていく。
(何で私…………こんなにドキドキしてるんだろう……? 同伴なのに……)
瑠衣の気持ちが昂り、心の奥がギュッと鷲掴みされ、苦しくてどこか切ない。
侑のエスコートで、瑠衣は黙ったまま彼とエレベーターへ乗り込んだ。
高層階にある侑が取った部屋のドアを開くと、突き当たりの大きな窓から様々な色彩の光の粒子が二人を出迎えた。
都心のナイトスケープを一望できるダブルルームに、瑠衣は感嘆の声を上げる。
「わぁ……すごく綺麗で……素敵なお部屋……」
温かみのあるシルキーベージュとダークグレーを基調とした部屋の内装に、瑠衣はどことなく安堵感すら覚える。
宝石が至る所に散りばめられたような東京の夜景に、瑠衣はため息が漏れてしまう。
窓際に向かい、黙ったまま極上の夜景を見つめる瑠衣。
ガラス越しに微かに映し出されている自身の顔を見やると、背後から侑が近付いてくるのが見えた。