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先週体調を崩して寝込んだ日、娘は学校で夫は仕事だったので、家には1人だった。
14時30分過ぎに、突然電話が鳴った。
しかし画面には非通知と出ている。基本的に私は非通知は出ない。
放置していたらそのうち切れるだろうと思い、そのまま放置する。
留守電には繋がったようだが、内容を吹き込む前に切ったようだ。
随分長くコールを流す非通知だなと思いつつ、再度寝ようとした。
するとまた非通知から電話がかかってきた。
時折非通知からの着信はあるが、数コールで切る上に2度も連続ではかかってこない。
不思議に思いつつも出ないで放置すると、またしばらくして電話は切れた。
一瞬、祖父母が携帯の表示か何かを変に弄ってしまって困っているのかとも思ったが、夫は携帯ショップで勤務しているので困り事なら直接ショップに向かうよなぁと頭を傾げてしまった。
すると、3度目のコールが鳴った。また非通知だった。
流石に本当に知り合いなのではないかと思い、恐る恐る画面をスライドして電話に出た。
「……はい」
警戒心からかなり低めの声で一言だけ発する。
「…………」
電話の向こうはしばらく沈黙している。
悪戯なら切ろうと携帯を耳から離そうとした瞬間。
「……遊べますか?」
携帯から、娘の声に似た女の子らしき声が聞こえた。
は?と思って耳に当て直す。
「……遊べますか?」
「なっちゃん?」
思わず娘の友達の名前を口に出すと、向こうから「え?」と小さく聞き返す声が聞こえ、そのまま電話は切れた。
時々私のLINEを通して娘の友達(彼女も母の携帯を使って)から連絡が来るので、最初はそうかと思っていつも遊んでいる友達のお母さんに「先程電話しましたか?ちゃんと出れなくてすみません」とLINEを送る。
しかし返事が来たのは2時間後だった。しかも「いえ、まだその時間は娘は学校にいたので……私も仕事でしたので連絡が遅れました」と返信がきた。
いやでもそれはそうだ、学校からのプリントで確認するに、その日の帰宅時間は3時過ぎだ。
実際に娘が帰宅したのも3時30分を回った頃だった。
いつもなら「なっちゃんと遊びに行っていい?」と開口一番に聞いてくるのに、その日は特に何も言わずそのまま明日の準備を始めた。
「あれ?遊ぶ約束したんじゃないの?」と一応声を掛けるが、娘はきょとんとして「だって今日はイモリのケージ掃除の日だから時間ないし遊ぶなって、お母さんが言ったじゃん昨日」と文句混じりに言った。
確かにそうだ、うちでは娘が飼ってるイモリの世話は本人がきっちりやる日を設けていて、この日はお世話dayだった。
じゃあやはり間違い電話だったのだなと思い、その日は特に誰にも非通知からの電話の話はしなかった。
その翌週の今日、料理の時にいつものように心霊系のYouTubeを聴き流していると、偶然にも「あの世に繋がる電話番号」の話が流れてきた。
よくある小学生が噂するような都市伝説の話だった。
そういうチープな都市伝説も好きなので聴き流している時、ふと今日の晩御飯は何かと覗きに来たS兄が言った。
「……そういやお前、12歳くらいの時に公衆電話から何回も誰かに掛けてたよな。1回だけ何処かに繋がってビビってたの、あれ懐かしいな」
そう言われて、急に自分の小学生の頃の記憶が蘇ってきた。
あの時も都市伝説みたいな噂を聞いて、確か「異界に繋がる電話」を試したことがあった。
本家の前に公衆電話があって、そこから番号は忘れたが実際には有り得ない番号だったので、半信半疑で掛けてみたことがあるのだ。
1回目を掛けると、確かにコール音が鳴った。深く考えていなかったので、今ならコールが鳴るということは何処かに繋がっていると分かるが、当時は何か鳴っているくらいにしか認識していなかった気がする。
本当に繋がるんだ!というような興奮もなく、ただひたすら誰かが出るまではコールは鳴るものだと思っていた。結構アホなので、受話器に誰かが対応して初めて繋がるもんだとばかり思っていたのだ。
1回目は長いコールの後「留守番電話にお繋ぎします」のようなアナウンスが流れ、私は電話を切った。
何だ繋がらないじゃんと思った記憶がある。
でもまだ手元に10円玉があったので、もう1度掛けた。
やはりコールは鳴るが、最後に留守電への案内音声が聞こえて電話を切る。
ただの噂だもんなと思いつつも3回目。
少しのコールの後、突然何処かに繋がった。
間を置いて、低めの男だか女だか分からない声で一言「はい」と応じた相手に私はかなり驚き、しばらく黙ってしまった。
どうせただの噂で誰も出ないと思い込んでダメ元で掛けていたので、いざ繋がると頭の中が真っ白になって、本来何を目的で掛けたのかすら曖昧だった。
電話の向こうからはかなり怪訝そうな空気感が伝わってきて、咄嗟に何か話さなきゃと思った私は一言「……遊べますか?」と聞いた。
結構がっつりパニックだったので、いつも電話で相手に何を言ってたっけ、そうだ、大体遊べるかの確認だ!と思いつきで聞いたのだ。
すると向こうから「は?」と小さく聞き返され、また咄嗟に「遊べますか?」と聞いてしまった。
別に遊べるか否かを聞きたかった訳ではない。
2度も同じ質問をしたせいか、相手は少し考え込むような空気感でゆっくりと「……なっちゃん?」と聞き返してきた。
私のあだ名はなっちゃんではないし、その瞬間、幽霊ではなく誰か全然知らない人に繋がってしまったのだとようやく気付いて、あろうことか「すみません間違えました」の一言もなしに慌てて受話器を戻してしまった。
やばいやばい知らない人に掛けちゃった、と内心焦りながらも目の前の自宅に飛び込んだまでは覚えている。
ほんの些細な出来心で噂の真意を確かめようとしただけだった。
「別にあの時危険な空気も波長もしなかったけど、あの公衆電話はマジモンの怪異がいるからな」
S兄は今になってそんなことを言う。
「叔父の犬が2匹死んだ時も、あの公衆電話の怪異に呼ばれて急に走り出しただろ」
確かにあの公衆電話付近に背の高い女がいるのは知っていた。叔父の犬はその女に招かれて、急に大きく吠えて道路に飛び出し、2匹共交通事故で死んでしまった。
わりと危険度の高い女だったのは間違いない。
「お前あの時あの電話で誰かに掛けてただろ、何処に繋がったんだ?」
料理していた手が思わず止まってしまった。
私と娘の声は電話口ではかなり似ているらしい。
先週のあの非通知からの電話、もしかして、あれって……。