テラーノベル
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海に行くために電車に揺られること数十分…。
スマホゲームをしていた俺の左腕が重くなり、左を向く。
左腕には白いっぽいものがのっかていた。
パイセンの頭だと認識するのに時間はかからなかった。
どうやら眠ってしまったみたいだ。
まぁ、こんな気温なんで眠くなるのも仕方がないっすね。
ゲームを辞め、スマホを鞄にしまう。
そのまま右手でパイセンの髪に触れる。
白っぽくサラサラとした綺麗な髪、 俺より背の低いパイセン…。
一定のリズムで聞こえてくる寝息は、健康で生きていると証明してくれる。
「…なんで春とか冬は眠くなるんすかね」
おれとパイセンしかいない車両で、ひとり呟く。
返事は返ってこない。
静かな空間でひとり窓の外を眺める。
寂しいとは感じなかった。
きっとパイセンがいるからだ。
こんなおれの我儘にも付き合ってくれる、そんなパイセンが今隣にいるから寂しくないんすねきっと。
『次は𓏸𓏸駅〜𓏸𓏸駅〜』
目的の駅がアナウンスされる。
寝ているパイセンの肩を軽く叩く。
でも、起きそうな気配はなく、そうこうしているうちに目的の駅へついてしまった。
しょうがないから背中にパイセンを背負い、電車を降りた。
降りると無人駅で、潮の匂いが俺の前を通った。
海なんていつぶりなんすかね。
多分、家族旅行以来っす。
「……さぶいっすね」
寝ているパイセンに声をかける。
まだ寝ているようで返事は返ってこない。
寝ているパイセンは相変わらず寝息をたてていた。
海の近くまで歩くと背中から小さな声が聞こえた。
パイセンが起きたみたいだ。
「あ、パイセンおはようっす!」
「ん………は?」
起きたパイセンはいつもの無表情とは違い、驚いた表情をしていた……と思う。
背中にまだ背負っているから表情は見えないっすから、それだけが残念。
「おい、十二村。早く下ろせ」
「ん〜…。いやっす」
「は?」
「だってパイセンあったかいんすよー」
そう、パイセンは暖かい。
こんな季節、気温でも暖かい。
パイセンはまだ下ろせと言っているが、聞こえないふりをし、砂浜へ歩いていった。
砂浜へ着き、パイセンを下ろす。
しばらくパイセンと並んで砂浜を歩く。
会話はなく、ただ歩く音だけが2人を包んだ。
この静けさを最初に壊したのはパイセンだった。
「……なんで冬なんだ?」
「へ?」
「海と言えば夏だろ?なんでこんな寒い時に…。」
パイセンが言いたいこともわかるっす。
冬は寒いし、泳げない、ビーチバレーをしようにも人数は足りない……というかほんとに寒いっす!!
そんな中おれがパイセンを誘って海へきた理由は……。
「そんなの………パイセンと一緒に行きたかっただけっすよ」
パイセンと遠出をしてみたかった。
たったそれだけ。
深い理由なんていらない、というかない。
それに場所は別にどこでもよかった。
遠出ができるなら、どこでも。
だって、先輩と後輩ではなく、シェアハウスの同居人としてでもなく、ただの………友達として一緒に行きたかっただけなんすから。
どこか遠くへ。
こんなおれに手を差し伸べてくれたパイセンと一緒に。
「にしても寒いっすね〜」
「当たり前だ」
おれがそういうとパイセンは少し呆れたように言う。
そんな会話がおれには心地よかった。
「パイセン…水の掛け合いっこ、やるっすか笑?」
「バカか。凍え死ぬだろ。」
「それもそうっすね笑ならなんか食べに行こうっす!せっかく遠出したんすから美味しいもん食べて帰りたいっす!!」
おれがそう提案すると、パイセンはいいなといいながら、近くの店をスマホで検索し始めた。
パイセンってこーゆうときに頼れて安心できるっすね。
脳内でそんな言葉を言った。
もしかしたら呟いたのかもしれない。
分からないぐらいにこの空間に居心地の良さを感じちゃってるかもっすね。
「こことかどうだ」
そう言ってパイセンはスマホの画面を見せる。
おれはその画面を覗き込んだ。
いかにもパイセンが好きそうな店って感じだったっす。
パイセンが選んだ店なら安心できそう。
「いいっすね。今から行けるっすか?」
「多分大丈夫だ。んじゃ、走るぞ」
「へ?なんでっすか?」
「次の電車がちょうどこの店の方向だ。次その方向に行くのは二時間後だ。」
電車の時間まで確認してることに驚く。
だが、そんなことを思っている暇はなく、海を背にしておれとパイセンは走り出した。
寒いからと厚着をしたのに、こんなに走ったら茹でタコみたいになっちゃっうっすね。
なんてそんなことを思う。
意外とあるパイセンの体力に驚きつつ、置いていかれないようその背中を追いかける。
駅に着く頃には、電車はすぎてしまっていた。
「……二時間後っすね。」
「嗚呼…。」
「もっかい海の方行くっすか?」
「そうだな。……城でも作るか?」
「作るっす!!」
乗れなくても案外、大丈夫だったっすね。
パイセンがいたらどこまでも楽しくなる。
……来年もこの海に来たいと願う。
パイセンとふたりで。
海は太陽の光を反射して、ふたりを照らした。
コメント
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初コメントです。 あの…「驚いた表情してた」のところ、「を」を入れたらどうでしょうか?あと、「手を差し伸ばしてくれた」のところも「手を差し伸べてくれた」の方がいいかと思いコメントしました。長くてすみません(_ _;)