テラーノベル
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館から坂をひとつ下ってしばらく行くと、駅近の団地が立ち並び、そして駅ビルと大きなショッピングモールが見えてきた。港栄台駅、東京にも中華街にも横浜にもみなとみらいにも電車1本で行けるのは知ってたけど、それ自体も大きな駅みたい。平日昼間だと言うのに、ずいぶん人がいる。 私は2人に言った。
「秋冬用に、無印でいい感じのパジャマとあったかい靴下が買いたくてね、洗い替えも買いたくて、かさばりそうだから荷物も持ってほしいの」
そう頼むと、2人とも口々に言った。
「持ちます!」
「いくらでも持ちます!」
「ありがとう。その後パン屋さんも寄りたいの、あとは好きなところ行っていいけど、どっか寄りたいところある?」
矢車ちゃんは「カルディ行きたいです!」と即答した。薄荷ちゃんは行きたいところがないらしくて困った顔をして、それから「矢車ちゃんと同じところで」と答えた。私は言った。
「じゃ、最後にカルディで何でもひとつ買ってあげましょう。薄荷ちゃん、こういうときがチャンスなんだから、高いもの選びなさい」
「え、ええー、そんな……」
矢車ちゃんが笑った。
「私、カルディで欲しいものたくさんあるから自分のお金でも買うよ?」
「矢車ちゃんみたいになんでも積極的になれない……えー、かるでぃってどんなお店? 何売ってるの?」
「おいしいものと変わったものがたくさんあるんだって!」
「そうなんだ……じゃあ見てから決めます」
この会話からすると、矢車ちゃんもカルディ行くのは初めてで、でも憧れはすごくあるのか。
「じゃ、私は買うもの決まってるしさっさと済ませちゃおう」
ショッピングモールの1階と地下1階を丸ごと使った無印良品は、服に寝具に雑貨に台所用品に、本当になんでも売っていて、生活のすべてを無印良品で賄うことができそうだった。なかなか目移りしたし、矢車ちゃんは目移りしまくってたけど、私は頑張って真っ直ぐパジャマコーナーに行って、着る毛布パジャマとボア付き靴下をすぐ手に取った。買い物であれこれ迷ってうろつきまわる体力がないのよ、悲しいことに。
次はパン屋に行くけど、絶対買いたいパンはもう決まってる。無印を出て駅ビルに入り、お菓子屋やケーキ屋や惣菜屋やゴンチャが立ち並ぶ中パン屋に直行して、私はパン屋の奥、日持ちする系のパンが置いてあるコーナーを目指した。
「セーグルフリュイ! これ大好きなの! 2本買っちゃお!」
高校の時パン屋でバイトしてて、売れ残りが安くなってたのを一回だけ買って、ずっとその味を覚えてるんだよねえ。パン屋さんじゃないとなかなか売ってなくて、通販もあんまりなくて……来てよかった!
薄荷ちゃんはどんなパンかピンときてないようだった。
「おっきいパンですねえ」
矢車ちゃんは早速興味を示した。
「どんなパンなんですか?」
「すっごくおいしいの、ドライフルーツとクルミがいっぱい練り込んであってね、イチジクとかレーズンとかオレンジピールとか……甘くてプチプチしておいしいの、薄く切って食べるの」
「へえー、クリームチーズとか合いそうですね」
「それいい! それも買ってこう!」
「カルディにいいのがあるんじゃないですかね?」
「それだわ」
センスあるじゃないの、矢車ちゃん。
「じゃ、早速買ってカルディ行きましょう」
さっさとお会計して、同じ駅ビルのカルディへ。電動車椅子の車輪が唸るぜ。
で、カルディに来て私はちょっと困った。輸入食品やお菓子や気の利いた調味料がたくさん、高い棚にところ狭しと積んであるけど、ちょっとこれは……車椅子でブイブイ言わせるには通路が狭いわ入り組んでるわ……通れないわけじゃないけど……。
私は少し考え、別にカルディをうろつきたくて来たわけじゃないことに気づいて、2人に行った。
「私ここで待ってるから、好きに買い物しておいでよ。お会計の時だけ呼んで」
「いいんですか?」
「そんな勝手なことして大丈夫ですか?」
「いいよいいよ、お店入りな」
そういう訳で、私は店の入口から少し離れた場所で待って、カルディの店員さんが通りがかる人に配りまくる試飲コーヒーをもらって啜るなどしていた。試飲の紙コップを店員さんに返し、店の外を少し移動して外から店の品揃えを何となく見ていると、誰かに車椅子をガッと掴まれた。
「え!?」
背後には知らない男がいて、異様にニヤニヤして私を見ていた。
「いやいやいや、困ってそうだから」
「誰!? 困ってません、やめて!」
男は私をガン無視し、車椅子を無理やり動かしてどこかへ私を連れて行こうとする。何!? 何なの!? 怖い!
すると、膝に乗せていたヤカの分体が男の顔に飛びついた。
「もがっ!」
ヤカの分体は、男の顔に巻き付くレベルで男の鼻と口を塞いでいる。うわ! 窒息するじゃん!
男はヤカを引き剥がそうとして全然取れず、苦しそうにもがき始めた。ヤカはその辺でもういいと判断したらしい。いきなり男の顔から外れ、私の膝に飛んできた。
男は怯えて逃げていき、私は怖くて膝掛けヤカを抱きしめた。何が怖いって、人通りの誰も何も気に留めてないことよ、ちょっとこっちを見る人はいるけど、手を貸してくれる人誰もいないし、私が攫われそうになったことも、明らかにただの膝掛けじゃないヤカの振る舞いも気に留めてない……群衆の無関心!
ヤカの囁く声がした。
{やはり付いてきてよかった}
「あ、ありがとう……」
矢車ちゃんと薄荷ちゃんは流石に私の声を聞きつけたらしい。店から戻ってきた。
「どうかしました?」
「何かあったんですか?」
「ちょ、ちょっと怖いことが……」
何があったか話すと、2人ともビビった。
「うわー、塾の先生から聞いたことあります、車椅子乗ってるような反撃できない女の人狙って悪いことしようとしてくる男」
「離れちゃってごめんなさい、私たちいたらそんなことさせなかったのに」
口々に謝られたけど、でも2人がいたとしてもな。
「でもそんな男、中学生の女の子2人なんて意に介さないと思うなあ」
そう言うと、矢車ちゃんも薄荷ちゃんも「そこは大丈夫です」と胸を張った。
「ちょっとした妖術使えますよ私たち」
「それに、私たち本気出せばその辺の男より力強いですよ」
「あ、そう言えば2人とも化け狐だった……」
ならついてきてくれてよかったか。
「あーでも、怖かったあ……ヤカ、外に出るときは絶対ついてきてね……」
矢車ちゃんが言った。
「私たちもなるべく離れないようにします」
薄荷ちゃんも矢車ちゃんに言った。
「離れなきゃいけないときも、どっちか片方は絶対ついてようね」
私は大きく息をついた。
「じゃあ、悪いけどどっちかいてくれない?お買い物は交代で」
薄荷ちゃんが私のそばに来た。
「私、物ありすぎてもう何が何だかわかんないから、矢車ちゃん見ておいでよ」
「いいの?」
「来てみたかったんでしょ?」
「じゃ、すぐ済ますね! クリームチーズもいいの選んできます!」
矢車ちゃんはマジですぐ済ませてきて、買い物かごに色々入れて戻ってきた。
「この、北海道クリームチーズがいいと思って持ってきました! あとこの魔法辞書クッキー缶買ってほしいです!」
「はいはい、買いましょう」
とりあえずお会計をして、それから矢車ちゃんが自分のお金で他の物買ってるときに気づいた。薄荷ちゃんに何も買ってあげてない!
「薄荷ちゃんは、何か欲しいものないの? 何でもひとつ買ってあげるよ?」
薄荷ちゃんは困った顔をした。
「変わったものいろいろありますけど、いざ自分で買おうってなると知らないものすぎてよくわからなくて……」
「そっか……カルディはハズレないと思うけどねえ……」
「ここ何屋さんなんですか?」
「一応コーヒー屋さん。いろいろ売ってるけど」
「ああ、そう言えばコーヒーのいい香りしますね……」
薄荷ちゃんは考えて「おいしいコーヒーが欲しいです」と言った。私は言った。
「ここのならどれもおいしいと思うけど、でもインスタントより豆のほうがおいしいかな」
「家で飲みたいですけど、家に豆で淹れるものなくて……」
「じゃ、ドリップバッグがいいかも、カップにセットしてお湯注ぐだけで飲めるやつ」
矢車ちゃんがお会計を済ませたので、私は矢車ちゃんについてもらって薄荷ちゃんを店へと促した。
「ほら、買っといで。わかんなかったら店員さんにお勧め聞けばいいしさ」
「そうします、ありがとうございます」
薄荷ちゃんはすぐ店員さんに聞きに行き、ドリップバッグの大袋を勧められて、それを持ってレジに来た。
「これがいいです」
「はいはい、買ってあげましょう」
薄荷ちゃんにも買ってあげて、これで今日の目的は達成。疲れた、怖い思いもしたし。とっとと帰ろう。
2人に送ってもらって帰る。矢車ちゃんに聞かれた。
「セーグルフリュイ、お夕飯に召し上がるんですか?」
「そうしよっかなあ、ヤカの夕飯と相談だけど」
人通りが少ない道に差し掛かっていたので、ヤカ(膝掛け)が言った。
{私の本体は、今多分チキンのトマト煮とシーザーサラダと舞茸のソテーを作っているが、主食をセーグルフリュイにするということなら対応可能だと思う}
「じゃ、食べちゃおうかなあ」
おいしいもの食べて、怖かったこと忘れちゃいたい。幸運にも、守ってくれる人はたくさんいる。守ってくれる人がいない人だってたくさんいるんだから、守ってくれる人がいない人に比べたら私はずっと恵まれてるんだから、大丈夫だから、今日はおいしいもの食べて寝ちゃおう。
コメント
1件
もうもう、カルディでまさかの展開!?😭💦 車椅子ごと連れ去られそうになるのホント怖すぎる…でもヤカが即座に飛びついて守ってくれたの、かっこよすぎでは??「ついてきてよかった」の声にじーんときた…。矢車ちゃんと薄荷ちゃんの「私たち本気出せば男より力強い」の台詞も、化け狐設定活きてて安心感半端ない✨ 怖い経験した後、セーグルフリュイとクリームチーズで心を癒す主人公、すごくわかる…!おいしいもの食べて乗り切ろうって気持ち、共感しかないです🥺💕
ふぃる汰
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ねこさん⛄️
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ゆうき あきや
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