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「……ックシュン!!! あーもう! 完全に風邪だこりゃ」
朝の起き抜けにどうも体がダルいと思い、熱を測ってみた。37.5度。それくらいなんともない、と思うかもしれないけど、しかし、元々の平熱が低い僕にとってはなかなかに辛いのだ。
「昨夜からなんかおかしかったんだよなあ……。寒気もあったし。ああ、ダルい……」
ベッドで布団に潜り、冷却用の熱さましジェルシートをおでこに貼り付けながら、『はあー』と深く溜息をつく。
今日は念のため学校を休むようにと母親に言われたため、やむなく欠席するために。まあ、クラスメイトに風邪をうつしても申し訳ないし、当然の判断なんだけど。
「小出さん、今頃何してるのかな……」
学校を休むということは、つまりそれは、小出さんに会えないということだ。僕にとって、それは何より辛いことなのである。風邪なんかよりも、ずっと。
「まあ、仕方がないや。今日は大人しく寝ておこう」
大人しく寝ておくというより、大人しく寝ておくしか選択肢がないんだから当たり前なんだけど。学校を休んでおいて外を出歩くわけにもいかないし。何より、ばったりと偶然に小出さんに会って風邪をうつしてしまっては大変だ。
だから今日は我慢の子。が、しかし、僕はもう『小出成分』が足りなくなり、会いたくて仕方がなくなってきてしまっていた。どうやら『小出欠乏症』まで患ってしまったらしい。
「もう十六時かあ……。とほほ。本当なら、今頃小出さんと一緒に下校していたはずなのに……幸せな放課後ライフを過ごしていたはずなのに……はあ、不幸だ」
僕の両親は共働きのため、今は母親も仕事に出ており、そのため家には僕一人しかいない。しんと静まり返る部屋の中、僕はチコチコと進む置き時計の針音を聞きながらゆっくりと目を閉じた。
夢の中で、小出さんに会うとしよう。
──僕がうとうとと、半分夢の中に体を沈めた時に、突然耳に入ったとある音で目が少しだけ覚めてしまった。
『ピンポーン』
静まり返っていた部屋に、誰かが来訪したことを伝える音が鳴ったのである。インターフォンのボタンが押されたようだ。
「ん……誰だろ……セールスかな」
眠い目を擦りながら、僕はパジャマ姿のままリビングに向かい、来訪者を映し出す小さなモニターの前にやって来た。まだ少しぼんやりとした視界で、四角い液晶画面の中の人物を確認する。
すると、そこには──
「こ、小出さん……!!?」
なんと、学校の制服姿の小出さんが、コンビニのビニール袋らしきものを持って立っているではないか。モニターカメラの前でオロオロした様子を見せている小出さん。背が小さいため、カメラを見上げるようにしてそこに映っている。
「ちょ、ちょっと待ってて……!!」
インターフォンのマイクでそう伝え、僕は早足で玄関に向かった。解錠してドアを開け、そこに立っている女の子の姿を確認すると、欠乏していた成分が僕の体と心に一気に補給される。
「小出さん! ど、どうしたの!?」
「よかった……! 園川くんだ!」
小出さんの顔を見ることができた喜びと、驚きと、少しの戸惑いが混ざり合った僕の顔を見て、小出さんは曇らせていた表情をパァーッと明るくさせた。というか小出さん、僕の家知らないはずなのに……。
「あのね、あのね! 園川くんが風邪引いたって聞いて、心配で心配で……それで先生にね、園川くんの住所教えてもらったの!」
小出さんはそう言って、鼻息荒く嬉しそうに、僕に事情を説明してくれた。に、してもだ。先生よ。個人情報に厳しい昨今にも関わらず、簡単に住所を教えるとは。若干の不安を覚えるざるを得ない。だけど、今回ばかりは先生グッジョブ! そして小さくガッツポーズを決めた僕である。
それを見て、小出さんは小さくフフッと笑い、少し照れながら上目遣いで僕にこう言った。
「お、お見舞いに来ちゃったんだけど……迷惑じゃなかった……かな?」
――と。
【続く】
ねこなさま🩷🎀@ペア画中