男の顔は端正な顔立ちで、醤油顔のイケメンだ。
重森のようなスラッとしたシティ派のイケメンとは異なり、
ワイルドで野性的などちらかというとマッチョなタイプのイケメンだ。
とにかく、今までの華子の周りにはいないタイプだ。
華子があまりにもジロジロと見るので、陸は鋭い目で華子を見返す。
その時、二人の視線がぶつかった。
その瞬間、華子の方が目を逸らす。
すると陸がフッと笑みを浮かべて言った。
「うちで働くか働かないか、今すぐ決めろ」
陸の強引な物言いに、少しイライラした様子で華子が言う。
「雇用形態はアルバイト?」
「最初はアルバイトだが、真面目に働けば社員にしてやってもいい」
「カフェの社員か……」
華子は不満気に呟く。
しかし頭の中では、
(仕事をえり好みする余裕なんて今のアンタにはないのよ)
という声が聞こえてくる。
20秒ほど押し黙った後、華子は陸に聞いた。
「時給はいくら?」
「通常は1300円からスタートだが、困っているようだから1500円にしてやる」
(カフェ店員で1500円? 結構いいんじゃないの?)
華子は心の中で呟くと、うんと頷いてから言った。
「わかったわ! 交渉成立ね!」
「おいおい、君は雇われる側だぞ。もっとマシな言い方があるだろう?」
陸が苦笑いをしながら言ったので、仕方なく華子は、
「わかったわよ。雇ってくれてありがとうございますぅー」
と、少し口を尖らせながら言った。
その顔があまりにも可愛らしかったので、陸は思わず微笑む。
「じゃあ契約成立だな。後日雇用契約書にサインしてもらうから。それと、これ」
陸は華子の肩に掛けていた上着のポケットに手を突っ込んで名刺入れを出すと、
名刺を一枚引き抜いて華子に渡した。
名刺には、
『Land Co. Ltd. 代表 日比野陸』
と書かいてあった。
(社長だったんだ…)
「で、君の名前は?」
「三船華子よ」
「三つの船に、『ハナコ』は『お花』の『花』?」
「違うわ、『華やか』の『華』よ」
「フッ、そっちの方がぴったりだな」
陸は再び可笑しそうに笑う。
いつもしかめっ面をしている陸の笑顔を見て、華子は一瞬ドキッとする。
なぜなら、笑うと途端に優しい顔になったからだ。
「じゃあそろそろ行くか」
「えっ?」
「俺について来い」
陸は華子にかけていた上着とバッグを手にすると、出口へ向かったので、
華子も慌てて立ち上がる。
そして陸の後をついて行った。
二人が店のフロア内のカウンターへ行くと、卓也が驚いた顔をしている。
そんな卓也に陸が言った。
「明日から彼女にカフェで働いてもらうから」
「えっ? そうなんですか?」
卓也は驚きの声を上げて華子の方をチラリと見た。
その時目が合ったので、華子はペコリと頭を下げる。
「タウン誌への求人は出さなくていいよ」
「わかりました」
「じゃあ今日は先に帰るわ」
「お疲れ様です」
陸は頷くと、店の出口へと向かった。
途中、バーの常連客が陸に話しかける。
「陸ちゃん! 今日は例のDVDの上映ないの?」
「ああ、あれは作田さんが今家に持って帰っちゃったから、戻って来たらやりますよ」
「そうかい? 俺、楽しみにしてたんだけどなぁ」
「来週には上映できると思いますから、もうちょっとお待ち下さい」
陸が申し訳なさそうに言うと、
「いいよいいよ、俺はどうせ毎週来るからさぁ」
男性はそう言ってガハガハと笑いながら陸に手を挙げた。
ドアまで行くと陸は先に華子を外に出した。
それから華子に言った。
「車は裏に停めてあるから」
華子は黙ってついていく。
歩きながら、陸の後ろ姿を観察する。
長い足でゆったり歩くその動きは、まるで大地をしなやかに歩くピューマのようだ。
華子はその魅力的な脚の動きに思わず見とれていた。
(ハァ? 私ったら何見とれてんのよっ!)
華子は陸から慌てて目を逸らすと、
どんどん距離が離れていく陸に追いつこうと、早足で歩き始めた。
コメント
2件
雇用契約成立‼️ とりあえず住むところと仕事が決まり 良かったね😌 今まで出会ったことのないワイルドで大人の魅力いっぱいの陸さんに見惚れている様子の華子さん....💓 今後の二人の関係も気になります✨
これまでの男性はプライドの高い同年代かあのショボい成金オヤジしか知らなかった華子。 真の大人のイケオジ陸さんを目の当たりにして、"華子"という名前に恥じないステキなプリティウーマンのように身も心も変わって欲しいわ〜😊✨👍