コインパーキングには黒の国産SUV車が停まっていた。
華子は今までこういった車には乗った事がない。
重森も他のボーイフレンドも、ほとんど皆スポーツカータイプの外車に乗っていた。
陸はキーを解除すると、
「乗って!」
と顎で助手席の方を示す。
華子は渋々とドアに手を掛ける。
その車のドアはかなり重みがあり、華子の華奢な腕だとかなりの力が必要だった。
華子はしかめっ面をしながらやっとの思いでドアを開ける。
しかし思った以上に車高が高く乗り込むのに少し手間取った。
(重いし高いし、なんなのよっ、もうっ!)
心の中で文句を言いながら、なんとか助手席へと収まる。
すると、駐車場の料金精算を終えた陸が運転席へ乗り込んだ。
「じゃあ行くぞ」
陸は車をスタートさせた。
そこで、ふと華子は思った。
社宅として貸してくれるマンションは、確か歩いてすぐのはずでは?
「ねぇ、社宅のマンションってすぐ近くにあるんじゃなかったの?」
「ああ、店から歩いて5分くらいだ。でも今はまだリフォーム中で住める状態じゃないんだよ」
「えっ? じゃあ私はどこに行けばいいの?」
「大丈夫だ。それまでは別の場所を用意してやる」
陸はそう言うと、ウィンカーを出して左折した。
(こいつナニモノ? すぐに手配出来るようなマンションをいくつも所有してるの?)
華子はいぶかし気な顔をしながらそう思う。
車は繁華街を抜けると、閑静な住宅街を走り始めた。
この辺りは高級住宅街だ。
道路沿いに植えられた街路樹がなんともオシャレだ。
その道の両側には瀟洒な豪邸が建ち並んでいる。
高級住宅街を通り抜けると、今度は片側二車線の大通りへ突き当たる。
陸はそこを左折し、そのまま大通りを進み始めた。
しばらくすると、左手に大型ショッピングセンターが見えてきた。
華子がその看板気づいた時、陸はウィンカーを出してそのショッピングセンターへ入って行った。
「ちょっと! 寄り道?」
「君は着替えも何も持っていないんだろう? だから必要な物をここで買うといい」
陸はそう言って、地下駐車場の空きスペースへ車を停めた。
(ふーん、意外と気が利くのね)
華子はまんざらでもないといった表情をした。
それから二人は車を降りると、ショッピングセンターの売り場へ向かった。
華子は歩きながら、とりあえず何を揃えたらいいかを考え始める。
(下着、化粧品、仕事に着て行く服、まだ肌寒いのでコート、それにタオル等の生活雑貨も買わなくちゃかしら?)
そう思いながら陸に質問をした。
「カフェのバイトは私服でいいの?」
「ああ。エプロンは店から支給するから、清潔感がある服装ならジーンズでもOKだ」
「ふーん、意外と自由なのね」
その時目の前に女性用ランジェリーショップが現れた。
店には、色とりどりの華やかなランジェリーが所狭しと並んでいる。
その店に気づいた陸が言った。
「下着も必要だろう?」
「言われなくても分かってるわよ」
華子はそう言って店内へと入って行く。
華子は今まで、下着はデパートの高級ランジェリーを買っていた。
一つ何万円もする品だ。
しかし、今はそんな高級な下着なんてとても買えない。
華子は小さくため息をつくと、
諦めたようにその安い店で下着を探し始める。
(もう愛人業は廃業だし、特に付き合っている男もいないから極力シンプルで長持ちしそうな物がいいわ)
華子はそう思いながら店内を歩き始める。
買い物に集中していた華子はふと立ち止まると、
常に後ろをついて来る陸に言った。
「ちょっとぉ…ついて来ないでよっ!」
「なんでだ? 別にいいじゃないか」
「良くないわよ! 恥ずかしいじゃない!」
「ハッ? 今さら恥ずかしがる事なんてないだろう? あんな醜態を晒しておいて」
陸はニヤッと笑う。
その挑発するような笑いにイラっとした華子が言った。
「とにかく気が散るからついて来ないで! 外で待ってて!」
華子が声を荒げて言うと陸が落ち着いた声で言った。
「君は今日金を持っているのか?」
その言葉に華子の顔が青ざめる。
そう言えば、財布の中には数千円しかなかった。
クレジットカードは以前使い過ぎて酷い目にあったので、
今はあえて持ち歩かないようにしているので家に置いたままだ。
代わりにデビッドカードを使えばいいのかもしれないが、
口座の残高は、50万ちょっとしか入っていない。
その金は、明日野崎に返す金だから手をつける訳にはいかない。
(好きに買い物をする余裕もないなんて……)
その現実に気づいた華子は途端に暗い表情になる。
陸はそんな悲壮感漂う華子を見つめながら優しく言った。
「とりあえず金は俺が払うから必要な物を揃えろ。着るものがないと仕事にも行けないだろう?」
陸の諭すような言葉を聞き、華子は涙が滲んできた。
悔し涙だ。
しかし今は陸の言う通りにするしかない。
華子は仕方なくその申し出を有難く受ける事にした。
「ありがとう……」
華子が素直に礼を言ったので、陸は一瞬驚いていたが、
「ん、いくつか選んで!」
そう言い残し、華子を置いて店を出た。
(フンッ! 何よ偉そうにっ!)
華子は、先程のしんみりした様子とは一転して、
急に鼻息を荒くして下着を選び始める。
その時華子が選んだ下着は、今まで見向きもしなかった
何の飾り気もないシンプルで安価な品だった。
買う下着が決まった華子は、店の外で待っていた陸を呼びつけると支払いをお願いする。
そして購入した商品の紙袋を当然のように陸に持たせると、
今度は洋服を買いに行く事にした。
コメント
2件
陸さん、優しいね✨ 気が強く プライドの高い華子さんも 彼の優しさに触れ、少しずつ変わっていけると良いね....🍀
華子ぉ〜仮にも雇い主に対してコイツって…さすがプライドの高さはそのままだね😅 それにしても陸さんがこんなに華子に良くする意味合いが見えない🫥