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「どうでしょうかね」


智安《ちあん》が口火を切った。


「うちが、仕切るというのは?」


いきなりのことに、学徒は智安の言っていることが理解できぬと、固まりつつも、腹の座った女だと、感心した。


「南原一の妓生《キーセン》が、使い物にならないようで。うちが、とって変われば、話は早い」


智安は、自分もこの近辺で置屋を開こうと考えていた、しかし、南原には、春香という、人気の妓生がいる。さてと、思案していた所、その、春香が、酒浸り。置屋も、同時に開いていた宿屋も、閉めてしまっているではないか。

と、なると、今なら、自分が取って代われる。


「そして、もっと、手広くやって行きたいと考えておりまして……」


つまりは、これは足掛かり。智安の真の目的は、都に店を出すことなのだ。そして、その頃には、学徒は都へ戻り、更に、上位の役職をこなしているだろう。


と、前に控える女は言いたいのかと、学徒は読み取った。


裏の話には、二人とも強いのか、言葉を深く交わさなくとも、言いたいことは、わかってしまうようで、学徒と智安は、旧知の仲かと思えるほど、したり顔で見合った。


「なるほど。あの春香が、その様な具合とは……」


「ええ、最後には、官女だと、お上の名を持ち出して、やり込めていたそうじゃ、ございませんか。それが……」


「おお、やや、融通の効かない女でのお、正直、手を焼いておったのよ。そして、この地には、暗行御史《アメンオサ》様が出頭なされた。我が、政《まつりごと》の失態ではあるが、そこは、ご機嫌伺いを行えば……」


王の密使といえども、結局は、男。甘いもてなしで、振かかるであろう沙汰を最小限に食い止めたいと、学徒は智安へ言った。


「おそらく、これを機に、私は都へ戻るだろう。暫くは、都にて、針のむしろよ。だが、その後は……」


「ええ、ええ、きっと、長様のお力が、正当に知れ渡り、都でもご活躍なされるはずでしょう」


ふん、と、学徒は鼻で笑った。しかし、頬は緩んでいた。


「で、さっそくですが」


智安は、学徒が物欲しげに眺めている包みを差し出した。


「今回の、暗行御史《アメンオサ》様へのおもてなし、私、金智安の仕切りということで……」


女は、南原の者と自身の街の女と両方用意すればよし。そうすれば、集まった客へ御披露目も、出来る。


これからの事を知らしめる事が出来る……が、と、智安は言葉を切った。


「長様、残念ながら、この土地での、置屋の許可を私は持っておりません」


「あー、つまり、公の女を使えない、はたまた、交の場で、女を使えないと。なに、春香の置屋を買いとれば良いだけの話よ。春香ごとな?」


ふふふ、なるほど。と、智安は、含み笑う。


すなわち、この男は、春香を連れてこいと、言いたいのだ。やはり、この機に、春香を自分のモノにしようとしているのだと、やっと、智安の知りたかったことが、歴然とした。


まあ、始めから、魂胆は分かっていたけれど。


はいはい、なるほど、その様に……と、二人は、互いの腹をさぐりつつ、悪巧みに勤しんだ。


そして──。


「黄良!差し入れだぞー!」


牢では、童子の声が響いていた。


「おー、遅かったなぁ」


もぞもぞと、体を動かし、横になっていた黄良が起き上がった。


「なんでぇー、昼は過ぎてんだろ?飯も、ねぇのか?この牢は」


差し入れを頼んでいて、助かったと、黄良は大きな声で笑っている。


何か、いつもと違う芝居がかった二人に、夢龍は不信に思う。そして、差し入れ、とは、一体なんなんだと、思わず童子をじっと見た。


「あー、そうか、夢龍にゃー、わかんねー世界だろうな。牢何てもんは、看守、諸々に、鼻薬かがせりゃー、どうにでも、できるんだよ。で、何、持って来た?」


童子は、じゃらじゃらと、鍵束を鳴らした。


「お、おい!童子!お前、その鍵、どうやって!」


夢龍は、慌てた。


「差し入れ手渡すって言ったら、渡してくれた」


「い、いや、それだと、そう、なんの為の、看守に牢なんだ……」


夢龍が、驚いている間に、童子は、鍵を開け牢の中へ入って来ていた。


「まあ、鍵なんて、黄良の手にかかったら、すぐ、なんだけど」


ははは、童子、人聞きの悪い事言ってんじゃねーよ!と、黄良は、相変わらず、芝居がかった態度を崩さない。そして、やはり、視線の先には……、あの男。


男は、こちらの騒ぎなど何のその。背を向けたきりだった。


「とりあえず、握り飯持ってきた」


「おー、そうか、そうか、さあ、夢龍、俺達も、昼にしようぜ!」


黄良は、守衛達の昼飯時だから、童子に、鍵束を渡して、自分達は食事にありついているんだと、夢龍に言う。


「つまり、隙のある時に、子供を使って、さらに油断させたと」


まあ、そうゆうことだ、と、黄良は言いながら、童子が持って来た包みを空けている。


「それに、表側は、来客中、だからな、余計、気が逸らされる」


よーしご苦労!明日も頼むぜ!


と、黄良は何かを誤魔化すように、ご機嫌な調子で、童子に言った。

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