その後陸はしばらく従業員控室で事務作業をした後、昼前に他店へ向かった。
華子が勤務を終える5時までには戻って来るので一緒に帰ろうと言い残していった。
華子はそんな陸の心遣いが嬉しかったが、美咲と一緒だったので心は憂鬱だ。
美咲は先ほどからずっと静かでまるでお通夜のような雰囲気だ。
華子が陸の婚約者だとわかればいびる訳にはいかない。かといって仲良くお喋りを楽しむ気分でもないのだろう。
あまりにも静かな美咲に華子は気味が悪くなる。
しかし静かなふりをしつつ、美咲はさり気なく華子の婚約指輪をチェックしていた。
華子は何度も指に刺さるような視線を感じたが、あえて気付かないふりをしていた。
その値踏みするような視線は、硬度の強いダイヤモンドを破壊してしまうほどの威力を持っている。
そんな状況下で午前中の勤務を終えた華子はフラフラしながら休憩へ向かった。
変に気を遣い過ぎてどっと疲れた。
華子は崩れ落ちるように椅子に座ると、カフェオレとサンドイッチの昼食を取り始める。
温かいカフェオレを一口飲むと少しだけホッとした。
(それにしても今日は本当に疲れたわ…肉体的疲労よりも精神的疲労の方が結構きついのね…)
ため息をつきながら華子はスマホをいじり始める。
すると祖母からメッセージが届いている事に気づいた。
祖母からのメッセージにはこう書かれていた。
【華子、元気にしていますか? 最近連絡がないので心配しています。大丈夫なの? おじいちゃんも華子に会いたがっているから一度顔を見せに帰っておいで】
メッセージを読み華子は一瞬胸が痛む。
祖父は一昨年大病を患い手術をした。幸い術後の経過は良く今はまた仕事に復帰している。
華子の祖父母はいくつもの料亭を運営する会社を親族でやっている。
跡継ぎは華子の伯父に決まっているので心配はなかったが祖父ももう高齢だ。
いつ何があってもおかしくない。だから華子はずっと会っていない祖父の事も心配していた。
小さい頃は祖母からは厳しく躾けられた。それは大人になって華子が困らないようにあえて厳しく躾けてくれたのだとこの歳になって気づいた。
母・弘子が母親としての役目を果たしていなかった為、祖母は弘子に代わり生きていく上で必要な知識を華子に教えてくれていたのだ。
そのお陰で華子は一人暮らしをした時も特に問題はなく生活出来た。また人前へ出ても恥ずかしくない程度の振る舞いは出来るようになっていた。華子は今になって祖母への感謝の気持ちでいっぱいだった。
(今度帰ってみようかな…)
きちんと働いてまともに生きている今、華子はそう思えるようになっていた。
午後からは美咲もだいぶ普通に戻っていた。
二人の間にぎこちない部分はまだあったが業務を行なう上で特に支障はない。
昼の混雑が過ぎると店内には再びまったりした時間が訪れる。
華子はカフェのこの時間帯が好きだった。
その時ドアが開き新しい客が入って来た。
「いらっしゃいませ」
レジにいた華子が声をかける。
すると入口からは背の高い男性二人が入って来た。その片方の人物を見た華子は一瞬にして凍り付く。
その男性は重森だった。
重森もレジに立っている華子を見てかなり驚いている様子だった。
しかしそんな事には全く気付いていない重森の連れがメニューを見ながら言った。
「お前何にする? 俺はブレンドのMと…あ、あとサンドイッチ」
男性は商品が並ぶショーケースからサンドイッチを一つ手に取るとカウンターへ置いた。
そこで漸く重森が口を開いた。
「久しぶりだね。まさかこんな所で会うなんて、驚いたよ」
その言葉を聞いた連れの男性は、そこで初めて二人が顔見知りだと気付いたようだ。
「なんだよ、お前の知り合いか?」
連れの男性はそう言うとチャーミングな笑みを浮かべて言った。
「どーも! こいつの同僚です!」
華子は慌てて会釈を返す。そして重森に言った。
「本当ね、びっくりしたわ!」
「5年…ぶりくらいか?」
「うん、大学卒業以来よね」
「ああ。でも元気そうで安心したよ」
重森はそう言って以前より少しふっくらとした華子の身体を舐め回すように見た。
5年ぶりに会った華子はすっかり大人の女性に成長していた。
付き合っていた頃の華子は常に体型を気にしていた。
重森がもう少しふっくらとした方が色気があっていいじゃないかと言うと、華子は聞く耳を持たずに常に食事制限をし体型維持に努めていた。
しかし今の華子はあの頃の痩せ過ぎな華子とは違い少し丸みを帯びた女性らしい身体つきになっている。妙に女らしくて艶めかしい。
抱き心地の良さそうな身体のラインに思わず重森はそそられる。
今の華子の体型は、まさに重森の理想の身体だった。
昔は派手なワンピースやミニスカートばかりを着て女性らしさばかりをアピールしていた華子だが、今の華子はジーンズにセーターというカジュアルな服装だ。それが妙に新鮮に感じる。
化粧も昔のけばけばしい感じはなく、ナチュラルメイクでとても好感度が高い。薄化粧は華子をとても若く見せていた。もしかしたら学生時代よりも若く見えるかもしれない。
重森は複雑な気持ちで華子をじっと見つめていた。
コメント
4件
ここでまさかの重森登場😰 華ちゃんビビッちゃダメよ、もう昔の華ちゃんじゃないもの陸さんがいるんだから!陸さ〜ん助けて!
祖父への心配の気持ちや 祖母への感謝の気持ちが芽生え、人としても成長が感じられる華子チャン....✨ そのうち陸さんと一緒に逢いに行けたら良いね....🍀 重森来店....😱 昔よりも女らしく 大人の魅力を増した華子チャンにくぎ付けになっていますが😅💦 つきまとわれたり、何かされたりしないか心配ですね~😰 陸さんに報告しておいた方が良いのでは....⁉️
驚き桃の木💦重森が出た…🤮