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【ワトソンの回想】
羊飼いと別れたあと、私たちはしばらく川のそばに立っていた。
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水は変わらず流れている。
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石は濡れている。
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「十分だ」
ホームズが言う。
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それだけだった。
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来た道を戻る。
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村に入ると、音が消える。
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人はいる。
だが、声はない。
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教会の扉は閉じられていた。
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ノックをする。
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少しして、内側から足音がする。
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扉が開く。
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「お戻りでしたか」
フレイザー神父が言う。
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「現場を見てきた」
私は答える。
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神父はうなずく。
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それ以上は尋ねない。
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「少し、お時間を」
ホームズが言う。
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神父は、わずかに間を置く。
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「ええ」
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書斎に通される。
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机の上には、紙がいくつか置かれている。
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整っているが、手は入っている。
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ホームズが立ったまま言う。
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「フレイザー神父」
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「あなたがこの村に来られたのは、いつでしたか」
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「……十八年前です」
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少し遅れて、答える。
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「急な異動だったと聞いています」
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ホームズは続ける。
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神父の視線が動く。
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「前任の方は」
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そこで止める。
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神父は、しばらく何も言わない。
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やがて、口を開く。
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「亡くなりました」
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「川で」
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短い言葉だった。
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沈黙が続く。
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ホームズは、わずかにうなずく。
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「この村では」
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ゆっくりと言う。
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「同じことが、起きるようだ」
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神父は、答えない。
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「あなたは」
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ホームズが視線を上げる。
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「それを、どう見ている」
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神父の手が、机の上で止まる。
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「……私が来たときには」
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言葉を選ぶ。
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「すでに、終わっていたことです」
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それだけだった。
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外で、子供の声がする。
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遠くから、聞こえてくる。
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歌っている。
橘靖竜