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夫と娘と、夫の親友と函館旅行に行った時の話。オチは特にない。
私達はこの4人で2回、函館に行っている。


1回目は函館はあくまでもついでに立ち寄っただけで、八雲町に用があってドライブがてらに旅行した。


ハーベスターというお店に開店から並んで美味しい物を食べるのが1回目の目的だった。


車でゆっくり6時間ほどかけて八雲町でのバイキングを堪能して、「ここからなら1時間半くらいで函館も行けちゃうね」という理由で、元より車中泊するつもりで函館にも足を運んだ。


函館でも美味しいクレープを食べたり、居酒屋で夕飯を食べて、さて何処で車中泊しようかとなったところで、正確な立地は分からないが修道院の裏手に当たるのか、夜間も使える公衆トイレのある駐車スペースに停めることになった。


他にも遠方からやって来た車中泊の人達が2台ほどいた。夜は車内で映画を観ながら過ごした。


夫の親友はかなり大きい良い車に乗っていて、車には後部座席にカーテンが付いていたので、寝る時は娘と2人で後ろに寝転がってカーテンを閉めた。


皆が寝静まった深夜、ふとカーテン越しに誰かが立っている気配があり、視線をやるとぼんやりとシルエットが見えた。


不審者だったら怖いのでカーテンの隙間から覗くと、修道女の姿をした女性が立っていた。


あまりにもはっきりくっきりしていたので、生身の修道女かと思って「ここでの車中泊はダメだったのか!?」と慌てて窓を開けると、修道女は一言も発さず、ただふっと微笑んだ。にっこり笑って、それから夜に溶け込むようにして消えた。


あれ?と思っていると夫がモゾモゾと起きて、「何してるの」と小声で聞いてきたので「ちょっとトイレ行こうかなって」と誤魔化しながら窓を閉めた。別に誤魔化す理由もないが、ただ何となく夫には修道女のことは言わなかった。


「危ないから俺も行くわ」と夫も起き上がる。ついでにトイレに行こうと思っていたし別にいいかと思って、車から降りる。


海が近い土地のせいか、内陸部よりも夜風が冷たくて心地良かった。


公衆トイレまで向かう途中、修道院の入口(裏口かもしれない)の前を通る時に、また視線を感じたので振り向くと、そこに先程の修道女が立っていた。


凄く穏やか表情で微笑んで、軽く頭を下げてきたので、私と夫も(夫にも視えているようで)一緒に頭を下げた。


「あれってさぁ……」と言いかけると同時に「生きてないね」と夫が被せる。やっぱりかぁ、と思って再度振り向くと、修道女はもう居なかった。


生前ここに居たのだろうなと思う。ごく普通にこの場所が好きで居るだけ、といった感じだった。それはそれで良いと思う。


トイレから戻り就寝して、早朝から温泉に行き、諸々堪能して1回目の旅行は終わった。




2回目は、朝食バイキング付きのホテルに1泊するのが目的で、今度は8時間ほどかけて車で函館に行った。


前回もそうだが、うちの守護や百鬼は旅行先で現地解散して各々に遊びに行ってしまうので、何か心霊現象が起きても自力で対処しなくてはならない。1番歴の長いS兄ですら普通に遊びに行ってしまう。


ホテルのチェックインから逆算して前夜から出発し、函館に着いたのは昼頃だった。


部屋は5階だったと思う。景色を堪能するよりもご飯とお風呂が目当てだった。


部屋に荷物を置いて、日中は函館の観光スポットを幾つか巡った。


娘も貯めたお年玉やお小遣いを湯水のように使って豪遊し、欲しい物をゲットして大喜びだった。


夜ご飯やお風呂を済ませて、翌日は早朝のお風呂を堪能したいからと早くにベッドに潜り込んだ。


運転手だった夫の親友も疲労で早寝し、夫も助手席で寝ないように耐えていたので早くに寝落ちていた。娘もはしゃぎ過ぎてびっくりするほど即寝してしまい、私が最後まで起きていた。


私のベッドの位置はトイレと入口側で、夫と娘が真ん中側、窓側が夫の親友だった。


私は旅行先でかなり睡眠が浅いので、些細な物音でも起きてしまう。


真っ暗な部屋の中で突然コツンと窓が鳴ったことで浅い眠りから覚めてしまい、目を開いた。


窓の方に視線をやると、開いてもいない窓から人影がにゅっと入ってくるのが見えた。


しかしここは5階でベランダもない。人が窓から出入りする訳がない。しかもそのシルエットは着物姿だった。


人影は窓から近い夫の親友の上をすり抜けるようにこちらに向かってきた。


そこでふと、自分の体が動かないことに気付いた。「金縛りか」と気付いたが、特に怖い気配ではない。


黙って眺めていると、人影は夫の足元を通り過ぎ、更に私の真横まで来た。


見下ろす人影の顔はぼんやりとしていてよく分からないが、凝視しているのだけは分かる。


人影の方から何か言葉を発したように思ったが、「~~~で困っている」みたいなことを言っていた気がする。


その時、ふと窓の方からもうひとつ人影が入ってきた。こちらはぼんやりとだが、何だか赤い容姿に見える。


最初に入ってきた方の着物姿の霊体が慌てたように入口に向かって行き、スライド式のドアを律儀に手で開けてから逃げるように去っていった。


後から来た赤い人影も、後を追うように去っていく。


終始ぼんやりしているのは、私が眼鏡をかけていないせいだろう。


結局あの2人の人影がなんだったのか分からない。追いかけてきた赤い人影は、うちの百鬼ではなさそうだった。


人影が部屋から居なくなった途端に金縛りは解けて、少しの間戻ってこないかと待ってみたが特に何もなく、この後すぐ眠りについた。


そして早朝4時頃に目覚めると、寝る前は閉めていたはずのスライド式の内ドアが全開になっていた。


娘を叩き起してお風呂の露天風呂に行き、2人でほぼ貸切状態を満喫して目的の朝食バイキングを堪能した。


帰りは道中の山道では何か妖怪的なものや神様の類に呼ばれはしたが、寄る暇もないので無視して帰路についた。


満足のいく旅行だったが、結局あの修道女も人影2人組も何だったのかはよく分からない。


凄くナチュラルな心霊体験をしたな、とだけ思った。




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