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穏霞 乃矢
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第一章
第三話 青い光 後編
「お前さ、この辺詳しい?」
「……まぁ」
「じゃあ秘密基地作れる場所知ってる!?」
「秘密基地……?」
「勉強サボって来たんだ!」
さらっと言う。
ジオは思わず目を瞬いた。
「……怒られないの?」
「めっちゃ怒られる!」
サフィアンは元気よく笑う。
「でも今日めっちゃ天気いいし!」
意味が分からない。
なのに少しだけ面白かった。
その日、二人は昼過ぎまで一緒に過ごした。
一緒に薬草を採って。
森を歩いて。
綺麗な石や木の実を探して。
川へ石を投げて。
サフィアンはずっと喋っていた。
街の話。
馬の話。
貴族の家の話。
退屈な勉強の話。
「自由になりたいなぁ……」
草の上へ寝転がりながら、サフィアンは空を見上げる。
青い瞳に、同じ青が映る。
「自由?」
「好きなとこ行って」
流れる雲を指差す。
「好きな人と笑って」
風が吹き抜ける。
「好きなことしたいんだ」
ジオは黙って聞いていた。
「誰かに決められるのって、なんか苦手なんだ」
その言葉が少し羨ましかった。
自分は、そんなことを考えたこともなかったから。
帰る頃には、サフィアンの腕は擦り傷だらけになっていた。
「また怪我してる」
「えへへ」
「笑うとこじゃない」
ジオは慣れた手つきで薬草を擦り潰す。
サフィアンは大人しく座りながら、その様子を見つめていた。
「ジオって優しいな」
「……別に」
「あと綺麗だし」
「え?」
ジオの手が止まる。
そんなことを言われたことはなかった。
サフィアンは不思議そうに首を傾げた。
「目だ」
「目……?」
「黒いのに、なんかキラキラしてる」
ジオは言葉を失った。
黒い瞳は不吉だと言われ続けてきた。
怖いと言われた。
気味が悪いと言われた。
けれど、綺麗だと言われたのは初めてだった。
サフィアンは何気なく笑う。
「オレ、好きだ」
悪気も打算もない。
ただ思ったことを口にしただけなのだろう。
それなのに胸の奥が少し熱くなった。
それから二人は何度も森で会うようになった。
薬草採取の帰り。
川辺。
夕暮れの草原。
そしていつしか、サフィアンは薬屋へ遊びに来るようになる。
マーサは最初こそ驚いていた。
「ソルトの坊ちゃんが、こんなところへ来て大丈夫なのかい!?」
「大丈夫だって!」
サフィアンは笑う。
どうやら街の西側に屋敷を構えるソルト家は、代々この薬屋の世話になっていたらしい。
サフィアンの母も。
祖父母も。
皆、マーサの薬を頼りにしてきた。
「おばあちゃんの薬、世界一効くんだって!」
「大げさだよ」
マーサは呆れたように笑う。
けれど、その顔はどこか嬉しそうった。
ジオが年相応に笑うようになったから。
穏やかな日々だった。
森へ行って。
薬を作って。
夕焼けを眺めて。
他愛のない話をして笑う。
そんな日々が、ずっと続くのだと思っていた。
この時の二人はまだ知らない。
運命が静かに動き始めていることを。
そして、満月の夜が近付いていることを。
第一章 完
コメント
1件
うわあ…なんだろうこの優しい空気。「黒い瞳、綺麗だね」ってサフィアンが何気なく言った一言が、ジオにとってどれだけ重かったかと思うと胸がじんわりしました。自由を語るサフィアンと、自由すら考えたことのなかったジオ。この対比がすごく効いてる。それでいて「薬の効能」とか「代々の繋がり」みたいな世界観の厚みも感じられて、読み応えありましたー。満月の夜が気になる…!