翌日華子は仕事だった。
この日も陸が店まで乗せてくれると言うので、二人は一緒にマンションを出た。
いつものように華子だけを降ろして陸は他へ向かうのかと思っていたが、この日は陸も店に用事があると言って一緒に車を降りた。
先ほど車の中でシフト表を確認した華子は、今日加瀬美咲が出勤日だと知り憂鬱な気分になっている。
(また小姑みたいにいびってくるのかしら?)
華子は心なしか胃が痛くなってくる。精神的なストレスはいつもこうして胃にくる。
どうやったって加瀬とは定期的に顔を合わすのだからなんとか慣れなければ……華子はそう自分に言い聞かせた。
陸がカフェのドアを開けて中に入った後を華子がついていく。
既に出勤していた店長の中澤に挨拶をしてから、華子は一人ロッカーへ向かった。
華子がエプロンを着けてフロアへ戻ると、ちょうど美咲が化粧室から出て来たところだった。
そして華子には目もくれずにフロアにいる陸を目指して歩き出す。ものすごいスピードだった。
美咲は満面の笑みを浮かべて陸をうっとりと見つめている。
(やっぱり)
華子の予想は当たっていた。やはり美咲は陸の事が好きなのだ。
しかしその美咲の笑顔を華子はどこかで見た気がした。どこでだったろうか?
するとその答えはすぐに見つかった。
美咲はレジを担当している時にハイスペックなイケメン男性が客として訪れると、必ずといっていいほど今の笑顔を浮かべていた。華子に対しては常にしかめっ面なのに、パァッと表情を変える。そのあからさまない違いに華子は辟易としたものだ。
(笑っちゃうわ…まるで昔の誰かさんみたいじゃないの)
華子は過去の自分を思い出し吹き出しそうになる。今の美咲は昔の華子とそっくりだった。
ハイスペックな結婚相手を探している女は、皆同じ行動を取る。つまり華子も以前は美咲と同じ行動をしていたのだ。
だから華子は今の美咲を見てどうこう言える立場にはないのだと気付く。
しかし美咲が笑顔で陸と会話を交わしているのを見ると、なんだか胸がもやもやする。
(なんか面白くないわ)
無性にイライラしながらも、なるべく二人の方を見ないようにオープン作業に集中した。
その時陸がスタッフ達を呼び寄せた。
「ちょっとみんな集まってくれないか」
スタッフ達は不思議そうな顔で陸の傍に集まる。
そこで陸が言った。
「えーちょっと報告があるのですが、今ここにいる三船華子さんと私は先日婚約しました。一応この店のスタッフには報告しておきます。で、今日休みの野村さんと大木君と睦子さんには店長から伝えてもらってもいいかな? 多分しばらく会えないだろうから」
びっくりしていた中澤はハッと我に返ると、
「わ、わかりました。陸さん三船さんおめでとうございます。それにしてもいきなりでびっくりしたなぁ。やっぱり二人はそういう関係だったんですねぇ」
中澤はそう言いながらニコニコしている。
中澤は毎朝華子が陸に送ってもらっている事になんとなく気づいていたようだ。
「中澤店長には隠し事は出来ないな。さすがこの店を取り仕切っているだけあって観察力が鋭いね。まあそんなしっかり者の店長だから俺も安心して任せられるんだけれどな」
中澤は陸に褒められたので頭を掻いて照れている。
そこで陸が続けた。
「まぁ俺の婚約者だからと言って特別扱いはしなで下さい。ただ他のスタッフと同じように『節度をわきまえて』接してくれればいいですから。お願いしますよ加瀬さん!」
陸は加瀬の顔をじっと見つめて意味深に言った。
実は陸はバータイムの本間から華子が美咲にいびられていると聞いていた。
華子はかなり耐えているようだがあのままでは可哀想だと本間が陸に助言をしたのだ。
だから今日陸はあえてこういった行動に出た。
華子が陸の正式な婚約者だとわかれば、ただのアルバイトでしかない美咲は華子に手を出す事は出来ない。
もし華子に手を出せば、逐一陸に漏れてしまうからだ。
華子がチラッと美咲を見ると、美咲は少し青ざめた表情で頷きながら放心状態で「はい」と返事をした。
その様子からはかなりショックを受けているようだ。
華子はホッとしていた。
そして今日陸がこの場で華子の事を婚約者だと紹介してくれた事に心から感謝した。
コメント
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さすが陸さん❗️仕事が早っ‼️😎👍️ 本間さんも心配してくれていたのですね....💓 そして、加瀬さんの様子を観察しながら 過去の自分をふり返り 反省できるようになった華子チャンも 良き....👍️♥️
陸さん‼️さすがです👍😊‼️美咲だけが華子に嫌がらせをしてるのを本間さんが陸さんに伝えてくれてたのもNICE👍🤗 皆に報告してるようで、オーナーである陸さんから美咲に対しての牽制する一言は適当にあしらう事もできないし🤭🤭👊 これでまた華子は陸さんに惚れちゃうんじゃないかなぁ〜〜🥰🥰💓💓🌹🌷