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第2話 期限付きの生活
鍵は、
まだ同じ重さで回った。
誰もいないはずの部屋は、
空気だけが残っている。
床の感触、
靴を脱ぐ位置、
すべてが、
そのまま。
結城は、
肩の力を抜いたまま、
中に入る。
上着は薄く、
襟元が少しよれている。
奥で、
小さな音がした。
振り向く。
彼女が、
立っている。
髪は肩に触れる長さ。
寝癖もなく、
整えすぎてもいない。
部屋着の袖は少し長く、
指先が隠れている。
目が合う。
それだけ。
結城は、
声を出さない。
事故のことは、
喉の奥で止まる。
言葉にすると、
今ある輪郭が
崩れそうで。
彼女は、
何も聞かない。
台所へ行き、
棚を開ける。
慣れた動きで、
カップを二つ出す。
水を注ぐ音。
結城は、
椅子に腰を下ろす。
背中が少し丸い。
湯気が立つ。
時計を見る。
針は動いている。
テレビをつける。
音量は低い。
隣に座る距離は、
以前と同じ。
触れない。
洗濯物を干す。
布が揺れる。
夕方になる。
彼女は窓を閉め、
結城は灯りをつける。
名前を呼びそうになり、
飲み込む。
彼女は気づかないふりをして、
カーテンを引く。
夜になる。
期限は、
まだ口にされていない。
それだけが、
この部屋に残る。