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#エッチなの書けないから
m k .(nrkr
10
瑠璃マリコ
19,375
南風家での一件から一ヶ月が経過した頃。巷では『とあるシンデレラストーリー』が話題となっていた。
『平民血筋の男爵令息』と『病弱な侯爵令嬢』との恋物語である。
内容はこうだ。
とある有名大学の構内で二人は出逢った。病弱ゆえに学校へ通えなかった遅れを取り戻すため、優秀な家庭教師を紹介してもらいに来ていた深窓の令嬢と、かたや現役の大学生。お互いの名前もわからず、声を交わす機会もない中、構内で互いの視線だけが一瞬ぶつかった。
そんな出会いに二度目はないかに思えたが、兄の付き添いで参加した星澤家主催の夜会で『侯爵令嬢』と『男爵令息』は再会。この偶然に感謝しつつ、勇気を出して令嬢側からダンスに誘い、一曲分という短い時間の中で二人は互いの“想い”を確信。侯爵令嬢側から男爵令息へ婚約を申し出て、まずは家庭教師と生徒という関係から愛を育む事に……。
——とまぁ、かなり要約するとそんな感じの、『嘘』と『事実』と『これからの予定』を織り交ぜ、恋愛的要素を盛りに盛ったこの物語性の強い『噂話』は南風家側がそっと流したものだ。
こんな『噂話』をわざわざ流す羽目になったのは、全て、剣家の当主とその三人の実子達のせいである。
南風家当主の妹である『南風アルカナ』と『剣叶糸』が結婚する事が剣家側の義家族の意見をガン無視したまま決まり、善は急げと南風家の当主であるアルサから婚約の申し込みを打診したのだが……何を勘違いしたのか、剣家側からは『喜んで三人の息子を連れて近々挨拶に行く。きちんと話し合いましょう』と返事が来たからだ。
こちらからは確かに『剣叶糸を』とハッキリしっかり名指しして申し込んだのだが、どうも話が通じていない気がする。悪い予感がするからと、下手な事をされる前に外堀を埋めておこうという考えで流した噂らしい。『そこまでするか?』とも思うが、情報を流す手間も全てアルサ達が引き受けてくれているのでまぁいいか。念には念を入れておいた方がいいのは間違いないから。
(実態はどうであれ、叶糸に相思相愛との噂がある相手がいるとなれば、流石に北尾スリエの射程外にもなれるだろうしな)
ちなみに、私が不用意に夜会を騒がせてしまった星澤家とは、婚約者のいない令嬢であれば、御縁を探す為にデビュタント前であっても保護者同伴であれば夜会に参加可能である事を利用し、話を合わせてもらったそうだ。『私』も参加すると大々的に公表していなかったのは『デビュー前の御令嬢であるから』と言えば皆が納得もしてくれるらしく、かなり穏便に済んだのだとか。
その代わりに、星澤家が本格的にブライダルビジネスに参戦する予定があるので、私達の結婚関係は全て星澤家に任せて欲しいと頼まれたそうな。広告塔として大々的に使わせてもらう代わりに費用は折半で。
(最初は全て向こうが持つと言っていたらしいが、借りを作りたくないからと折半に決まったそうな)
そして今後一年間のブライダル部門の収益の三割が南風家に入るという……私と叶糸の『結婚』は、何ともドロドロの利権まみれのものとなる様だ。……まぁ、ガチ恋愛の末の結婚じゃないんで、私は、それでもいいんだけどね。でも——
(……叶糸の方は、心配だなぁ)
消え去った『過去』では、碌な婚約期間を送れなかった叶糸の、初めての『結婚』が『コレ』で本当に良いのか?と心配になりながら、雪見障子を開けて外を見る。今日は剣家の当主御一行が南風家に来る日なので、私も『龍の獣人』化した上で待機中だ。逆に今日は、叶糸がマーモットに変身しているんだが……
(か、可愛いが過ぎないか?君は!)
マーモット体である時の私よりもシュッとした体格、標準よりも高めの身長。そしてかなり目付きが悪いのが見事にツボに入る。当初、今日はどちらも着物姿だった。私はさておき、彼の素晴らしい体躯にはよく似合っていた。そんな姿を先程まで見せつけ、今はこれとか。
初めて見るこのバージョンの叶糸を抱き上げて、ギュッと抱き締めてしまいたくなる。『どっちの姿でも良い感じだなんて。狡いな、君は!』と思いつつ、そしてジリジリと手を伸ばして距離を詰めようとすると、意外にも叶糸の方から私の胸に飛び込んで来た。
欲望の赴くままに抱き締めると、ふわりと良い匂いがする。『そうか、叶糸はいつもこんな気分なのか!』と一人で浸っていると、襖向こうから「——アルカナ、叶糸君。入ってもいいかな?」とアルサの声が。
「どうぞ」と返すと、スッと襖が開いてアルサがニコリと微笑んだ。いつもの様に鼻血は出してはいないが、まるで尊いモノでも見るような表情なままなのは何故だ。
「……用があって来たんじゃないのか?」
抱き締める角度が悪かったのか、叶糸の顔が見事に私の胸に埋まっていて彼は話せそうにないので、私だけがそう返す。
「あぁ、うん。剣家の当主達が到着したから、応接室に二人とも来てもらえるかい?」
「わかった。……ちなみに、到着したのは当主と三兄弟だけか?」
此処に叶糸が居るのだから当然なのだけど、念の為に確認する。
「あぁ、本当に、叶糸君を置いて来やがったよ」とアルサはやや不機嫌さの混じる笑顔で教えてくれた。その言葉に私は呆れ顔しか返せなかった。
コメント
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第31話、読み終えました〜!アルカナ視点の語り、すごく好きです。表向きは恋愛噂で外堀埋めてるけど、実態は利権まみれの政略結婚っていうギャップがもう…。でも「私はそれでもいい」って言うアルカナが、叶糸のことは本気で心配してるのがじんわりきました。マーモット叶糸にデレる姿も可愛くてニヤニヤしちゃいました!剣家の当主達、本当に話通じてなさそうで笑った…次が気になります!