テラーノベル
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自主的に私の『兄(仮)』となってくれたアルサの後をついて行く。腕には私の代わりにマーモット化してもらっている叶糸を抱き、本邸内の和風造りの廊下を進むと、ハイカラな古き良き時代を感じさせる洋風な印象の混じった建築物に足を踏み入れる事になった。『地球』の歴史に倣い、この国にも西洋の文化が入って来た頃合いに建造された箇所だろう。手入れがしっかりされているからか、足袋で歩いても木製の床は軋む事なく静かに進んでいける。壁のオイルランプと共にずらりと並ぶ硝子窓の向こうに見える庭の景色も建物の雰囲気に合わせて洋風な造りになっていて、設計者のこだわりを垣間見た気がした。
途中で、アルサの嫁であり、私の義姉となったサリアも合流した。流石は『猫の獣人』だ、隣を歩いていても足音がまるでしない。
「剣家の面々と会話をした経験はあるの?」
隣を歩くサリアに訊かれ、「星澤家での夜会の時に叶糸をダンスに誘っても?と養父に訊いたくらいかな。他の奴らとは、どっちの姿でも面識は無い」と返した。
「かっさらうみたいにアレらから叶糸を引き離す事が出来るのなら、何も考えずに姿を晒して、文句の一つでも言ったかもな。だけど、今みたいな情報化された社会じゃ、単純に『逃す・逃げる』だけを選ぶと『普通』に生きていくのも困難になるから厄介だ」
「オレ的には、それでも」と言った叶糸の意見は笑顔で流す。この子はあまりに不遇に慣れすぎだ……。
「何処で誰が見ていて、彼らの元に情報が届くかわからないものね。今はもどかしくても、正攻法で引き離すのが一番と考えたのは、長い目で見ると正しいと私も思うわ」
サリアの言葉に『だよね』と頷きながら、ギュッと叶糸を抱き締める腕に力が入った。
「婚約さえ成立してしまえば、『花婿修行だ』なんだと言って南風家に連れて来られるだろうから、もうちょっと耐えてくれな」
「わかってるよ」と言い、叶糸が顔を上げて私の頬に擦り寄ってくる。新品のぬいぐるみみたいにほわほわの毛が肌に擦れて気持ちいい。お互いにふわふわとした気持ちになりながら歩みを進めると、対戦の場となる部屋の前に到着した。
「さて、叶糸君を同行させなかった理由を訊いてあげますか」
どうせくっだらない理由なのだろうなと覚悟しつつ、アルサが扉を開け、私達は西洋風にあしらわれた応接室に足を踏み入れた。私が初めて来た時に案内された和風の応接間ではなく、西洋風の部屋にしたのはきっと、剣家のタウンハウスが西洋風の建造物だからだろう。和室よりも、慣れている洋室の方がリラックス出来るに違いないという気遣いなんじゃないかと思う。
(少しでも油断させて、本心をより多く引き出す算段なんだろうな)
軽い自己紹介や挨拶もそこそこに、皆々が席に座った。
客人を迎えるための部屋だからか、ソファーや椅子はどれも大きめの物ばかりだ。だが今回は大きな円卓が中央にドンと設置してあり、ソファーや一人掛けの椅子などは部屋の隅に寄せてある。
剣家の四名が座る位置の丁度対面になる様に私達三名も腰掛けた。マーモットな叶糸はもちろん私の膝の上だ。
着席と同時に紅茶が並ぶ。茶菓子までは出ていないのは、最初から彼らとは長く話すつもりがないからかもしれない。
「早速本題にと思ったのですが、……四男の“叶糸”氏はお連れではないのですか?」
今まさに当人は私の膝の上に鎮座しているのだ。同行していないとわかっていながら、アルサが敢えて訊く。すると剣家の当主である惺流が悪びれもなく「えぇ。あやつは不出来でして、とてもじゃないですが御令嬢のお眼鏡に叶いませんからなぁ」と言いやがった。兄弟の中で唯一国内最高峰の“幻都魔術大学”に通う彼を『不出来』とはよく言えたものだ。
「ですが本日同行させた三人の息子達は違います!三人ともその道の才子でして、大学院などでも優秀な成績を修めているのですよ」
「あぁ、レポートの成績は、抜きん出ているとの噂はかねがね」とアルサが嫌味無い声で言った。『は』の部分を強調してはいるが、私だったら絶対に『書いているのは叶糸でしょうが』と思う気持ちが声に滲み出てしまっていただろう。
(その声色と雰囲気で人を欺くから、若年層でありながら国の宰相にまで上り詰めたのだろうな)
「ご存知でしたか!」と返す惺流はかなり嬉しそうだ。三兄弟達も満更でもない様子で、殴りたくなった。
「剣さんも企画書は素晴らしい物をお書きになるとか。三人の息子さん達は貴方に似たのかもしれませんね」
アルサが暗に『家族揃って彼に代筆させて、ホントそっくりだね』と笑顔で語るが、剣家の一同は彼の真意に全く気が付いていなさそうだ。
「才能が遺伝したのかもしれませんなぁ」と惺流が大袈裟に笑う。此処まで鈍いと人生楽しそうだなと思ってしまった。
「御三方とも“ある種の才能”をお持ちではあるのでしょうが、ウチの妹が婚約を希望しているのは、あくまでも『剣叶糸』氏です。その兄達と妹は全く面識がないのですが、彼らのみをお連れした理由をお聞かせ願えますか?」
(ただの『食う・寝る・遊ぶ』を『ある種の才能』と例えるとは。やるな、お兄ちゃん)
アルサに促され、『ふむ』とでも言うみたいに惺流が深く頷いた。
「確か、お二人は恋愛結婚だったと記憶しておりましたが……」
「えぇ、そうです。遠い親戚筋で、幼馴染でもあったので、自然と」と答えたのはサリアの方だった。
「でしたら、まだお二人にはわからんでしょうなぁ、妹さんの選択の危うさを」
物知り顔で惺流が言った言葉に興味深そうな表情をアルサとサリアが向ける。すると、惺流は『釣れた!』とでも思っていそうな顔で言葉を続けた。
「御令嬢はずっと療養の為に田舎におったのでしょう?こう言っては何だが、率直に申し上げると『世間知らずの箱入り令嬢』と例えても過言ではないでしょう。そんなお嬢さんが血縁以外の『獣人』と対面し、ただの『未経験の衝撃』を『惹かれた』と錯覚したとしても、所詮は一過性のもの。『“恋”は麻疹みたいなもんだ』と昔からよく言うじゃありませんか。そんな幼い選択を優先でもしたら、数年程度で熱が冷めて、『どうして平民なんかと結婚したのか』と後悔するのは目に見えております。そうなっては可哀想じゃありませんか。平民を相手にした事による傷物では、侯爵令嬢であっても、残念ながら貴族との再婚は難しいでしょうなぁ……。ですが今ならまだ間に合う!ここは正しい大人の意見を優先するべきです!前当主がこちらに居ない今、年長者の意見は貴重ではありませんかな?」
(……何言ってんだ?コイツは)
その瞬間、自分の顔から表情が消えたのがハッキリわかった。流石にアルサとサリアも『——は?』と思っていたみたいで、顔に出てしまっている。私の膝に座る叶糸は両手で顔を隠し、『アンタって人は』と呆れ返っているのが手に取るように伝わってきた。
#佐久早聖臣
𝚕𝚒𝚎
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コメント
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「婚約騒動」、読み終えました。アルカナの視点で剣家との対面、すごくもどかしくて腹が立ちましたね……。惺流の「箱入り令嬢」「麻疹」発言には思わず「は?」って声が出ました。でも、そんな中でもアルサとサリアの連携が絶妙で、特にアルサの“ある種の才能”という皮肉には笑わせてもらいました。叶糸をマーモット化させて膝に乗せてるのも、ぬいぐるみみたいにふわふわしてて可愛い描写でほっこり。続きが気になります!