次の日、省吾は午前中の会議を終えるとすぐに会社を出て車で横浜へ向かった。
省吾が向かった先は、姉夫婦が経営する『bijou MATSUKURA(ビジュー マツクラ)』だ。
横浜に到着すると、省吾は車を停めてすぐに姉の店へ向かった。
「あら省吾、どうしたの? こんな時間に珍しいわね」
省吾が店に入ると、売り場にちょうどいた姉の美樹が声をかける。
美樹の声を聞き、義兄の賢一もバックヤードから出て来た。
「省吾君いらっしゃい! 今日は一人?」
「はい。突然すみません。実は至急奈緒に似合いそうな婚約指輪が欲しくて……」
その言葉に姉夫婦はびっくりして顔を見合わせる。
そして美樹が興奮しながら言った。
「なんなのぉー、そういう事ー? うわーっ、なんか嬉し過ぎてお姉ちゃん泣きそう……」
美樹はそう言って目を潤ませる。
「省吾君もいよいよ独身貴族とはおさらばかぁ……なんか感慨深いなあ」
賢一も嬉しそうだ。
「と言ってもプロポーズはこれからなんですよ。指輪がないと格好つかないから、今日いいのがあれば買いたいんですが」
「でも省吾、一生に一度の事なのよ? 婚約指輪は奈緒ちゃんが好きな物を一緒に選んだ方がいいんじゃない? 無理してうちのにしなくても、奈緒ちゃんが欲しいブランドがあるかもしれないし」
「そうだよ省吾君。婚約指輪は一生物なんだから、奈緒ちゃんと相談して買った方がいいかもしれないよ」
「いや、奈緒はこの店のジュエリーにずっと憧れていたみたいだから大丈夫ですよ。それに急いでるんです」
そこで省吾はこれから奈緒の実家へ挨拶に行く事を二人に伝えた。
「そういう事なら選ぶけど、もし奈緒ちゃんが気に入らないようだったら返品しなさいよ」
「そうそう、返品はいつでも受け付けるからね」
「ありがとう。じゃあ早く奈緒が好きそうなやつを選んでよ」
「わかったわ。で、予算は?」
「上限なしで」
「フフッ、そう来ると思ったわ」
美樹は嬉しそうに店内をぐるりと見回した後、ふと思い出したように言った。
「そういえばちょうどピッタリなのがあったわね。まだ入荷したばかりなんだけど、土台は奈緒ちゃんが好きな18金で、とても上質なダイヤモンドがセッティングされているの。持って来るわね」
美樹はいそいそとバックヤードへ向かった。そしてすぐにリングが載ったトレーを手にして戻って来る。
「これはダイヤの中でもかなりグレードが高い石だから輝きが全然違うでしょう? でもデザインは高さがそんなにないから普段身に着けても邪魔にならないの。どう?」
美樹はトレーを省吾の前に置く。
省吾はすぐにその指輪を手に取ってみる。
リングの土台のアームはしっかりしているし、ダイヤのサイズはかなり大きい。
2カラットは優に超えているだろう。
その大きなダイヤモンドは、店の照明の灯りを受けて虹色にキラキラと輝いている。
ダイヤは素人の省吾が見てもかなり上質なものだとわかった。
その時省吾の脳裏には、この指輪をはめて微笑む奈緒の姿が思い浮かんだ。
「サイズはこのままでも大丈夫?」
「うん。前にここで買った指輪と同じサイズよ」
「じゃあこれをもらうよ」
「お買い上げありがとうございまーす」
美樹はニコニコと嬉しそうだ。
それは高価な指輪が売れた事に対してではなく、弟が大切な人に贈る指輪を自分の店で買ってくれた事、
そして何よりも大切な弟が結婚したいと思える女性に出逢えたことが、嬉しかったのだ。
省吾と奈緒が結婚すれば、奈緒は美樹の義理の妹になる。
可愛い妹が出来る喜びで、美樹の笑顔は一層輝きを増す。
会計に向かう前、美樹は隣にいた夫の賢一にヒソヒソと囁いた。
「実はこの指輪は奈緒ちゃんがはめてくれたらいいなーって祈りながら仕入れたのよ。でもまさかこんなに早く願いが叶うなんてね、フフッ」
「君は本当に先見の明があるよ」
「でしょ?」
そこで夫婦は目くばせをする。
美樹はルンルンしながら会計へ向かった。
コメント
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「上限なしで」😎キリッ✨ カッコ良い~シビレル👍️💕💕 一度でいいから言ってみたい....✨💎💍✨🥺💓 ずっと独身だった弟を想う姉夫妻と 、愛する人への大切な指輪だからこそ 姉の店で購入したいと思う省吾さん....✨💍✨ 姉弟愛も素敵ですね🍀
美樹さんが奈緒ちゃんを想って仕入れた奈緒ちゃんの為の指輪💍✨素敵🫶💗
全てが素敵✨