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「俺はジントニックにするけど、あんたは?」
拓人は、メニューに視線を落としたまま素っ気なく尋ねると、女も、同じ物でいい、と返してくる。
「ツマミは適当に注文するけど、いいよな?」
「…………お任せするわ」
フロアスタッフを呼び、拓人がオーダーをした後、女に向き直り、足を組んだ。
「そういや、あんたの顔はテレビで見たけどさ……。名前、何ていうの?」
「…………優子」
一瞬、美麗な顔を歪ませたが、小声でポツリと呟いた。
「へぇ。それって本名?」
「そうよ! だから何? 今日初めて会ったばかりなのに、アンタ、随分と失礼な男だよねっ」
拓人は、優子の顔を覗き込むと、眉毛を吊り上げ、小声で捲し立てる。
「クククッ……優子ねぇ…………ククククッ……。その口調から、優子って感じではないよなぁ……」
女の名前と性格に、ギャップが大きく感じた拓人は、嘲笑が止まらない。
(どう見ても、優子ってツラじゃないだろ……)
思考を張り巡らせていると、店員がジントニックを拓人と優子の前に置き、丁寧に一礼して立ち去った。
「完全な名前負けの代表だよ、あんた…………ククククッ……」
拓人の唇から、思わず本音が零れ落ちると、優子と名乗った女は、ギロリと男を睨みつけた。
「…………口の減らない男ねぇ。私も名乗ったんだから、アンタも名乗りなさいよっ」
「俺? 俺は…………拓人」
「一瞬、間があったわね。って事は、アンタの名前は偽名?」
「いや、本名だけど」
囁くような声色で言い争っている様子が、彼には滑稽に感じる。
「さて、二人の出会いに…………乾杯しようか」
「さっきから私に失礼な事ばっかり言ってて、何が、『二人の出会いに乾杯』よっ……」
文句を零しながらも、優子は拓人とグラスを合わせてくれる。
キンッと、鋭くも澄んだ音色が、ラウンジ内に小さく響く。
(こういう気の強い女を堕とした時の反応が…………楽しみだよな……)
拓人は、グラスを傾けながら優子を流し目で見やり、妖艶な笑みを貼り付けた。