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魔女と魔法使いの少女たち

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魔女と魔法使いの少女たち

50 - 第10章 魔女と魔法使いの少女たち 第3話

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2024年12月24日

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真帆と並んで、いつもの坂道をゆっくり登る。


不思議なことに、周囲には他に登校する生徒たちの姿が見えない。


空はどんよりと陰り始め、紫色の雲が立ち込めてきた。


道中に立ち並ぶ民家の窓に視線を向ければ、そこにあるのはただの虚空。


人の気配などどこにもなく、生活感というものをまるで感じさせない、ハリボテのような印象が僕を不安にさせた。


僕は、こんな世界を知っている。


昨年、真帆の中の夢魔が夢の中で見せた偽りの世界。


どういうわけか、僕たちはそんな虚空の世界に迷い込んでしまったようだった。


まさか昨日の一件で、真帆の中の夢魔が再び目覚めてしまったのだろうか。


僕は一抹の不安――もとい恐怖と共に、真帆を見やった。


けれど、真帆はいつもと変わらない様子だった。


まるで全てを理解しているかのように、しっかりとした足取りで、坂道を歩み続ける。


「真帆、これ、どういうこと? 真帆の魔法?」


すると真帆は「いいえ」と言いつつ首を横に振るようなこともなく否定して、

「たぶん、乙守先生の魔法ではないですかね? きっと私たちに気を遣って、学校の始まる時間を遅らせるように、時と空間を歪ませたんだと思いますよ」


「……そんなことができるの?」


もちろん、と真帆は一つ頷く。

「私の家の中庭に、たくさんのバラが一年中咲き続けているのも、その魔法をかけているからですよ。あの家のある一角だけ、もともと時間と空間が歪んでいるんです。これもその応用だと思います。ちょっと見た目があちらの世界っぽくて怖いですけど」


「あちらって、去年、夢魔の見せた夢の中?」


「そうですね、ほとんど変わらないと思います。夢の中というより、夢の中そのもの……と言って良いかも知れません。或いはもう、私たちはあちら側に足を踏み入れているのかも知れない」


「あちら側って、夢の中の世界とは違うの?」


「夢はこちらとあちらを繋ぐ道中に存在するもの、と言われています。昨年、私の中の夢魔が暴れた時はみんなの意識だけを夢を介してあちら側に連れて行った、と解釈していますけれど、今回はたぶん――これは夢なんかではなくて、私たちの肉体ごとあちら側に連れてきたんだと思いますよ」


「それってつまり、ここはもう、去年、馬屋原さんに連れてこられた夢魔の世界ってこと?」


「夢魔の世界というよりは明確にあちら側――今はもうこちら側と言ったほうが良いかも知れませんが、いわゆる俗にいう魔界にあたる世界だと思います」


「ま、魔界……?」


またとんでもない名前の世界に誘い込まれてしまったものである。


真帆の説明をちゃんと理解しているという自信はないのだけれど、乙守先生がとんでもないことをしてくれたのはなんとなく解ったような気がした。


「もしかして、ここで乙守先生は真帆から夢魔を引き剥がして、自身の中に移動させるつもりなのかな」


「でしょうね」

真帆はふんすと鼻息荒く、

「全く、あれだけ長生きしておいて、私から魔力を奪ってまで、まだまだ長生きしようとしているんですから、とんでもないクソババァですよ、あの人は! うちのおばあちゃん以上のクソババァです!」


信じられません! とプリプリしながら頬を膨らませる真帆の姿は、どこか心に余裕があるらしく、いつもと何も変わらないテンションだ。


そんな真帆に安心した僕は、これもまたいつものようにため息を吐いて、

「……真帆、クソババァなんて汚い言葉、使っちゃダメだよ?」


「あら、ごめんなさい」

真帆はわざとらしくお上品に口元を手で覆って、

「私、正直者なせいで、ついつい本心がお口から出てしまいました。ごめんなさいね、ユウくん。お耳を汚してしまいました」


「いいよ、気にしないで」


僕も似たようなことを考えていたのだから、真帆の気持ちはよくわかるよ。


僕と真帆は視線を交わらせ、互いにニヤリと口元を歪ませてみせた。


なんとなく、なんとかなりそうな気がしてならなかった。


昨日はあれだけ動揺して不安に駆られていたのに、今の真帆を見ていると、自然と僕までなんとかなるんじゃないかって気がして元気になってくる。


そんな僕らに、

「お〜い! 真帆〜! シモハライく〜ん!」

後ろから声がして振り向けば、黒いニットに黒のミニスカート、そして黒の厚底ブーツを履いた姿の榎先輩が手を振りながら、僕らを追いかけてくるところだった。


僕らは立ち止まり、榎先輩が登ってくるのをしばし待つ。


「よかった、ふたりともやっぱりここに居たんだ」


「なっちゃんも、どうしてここに?」


真帆が訊ねれば、榎先輩は「それがね」と眉間にしわを寄せてから、

「大学に向かってたんだけど、突然辺りが夢の世界みたくなってってさ。まさか、また真帆の中の夢魔が暴れ始めてんじゃないかって不安になって、とりあえずこっちに来てみたんだよね。でも、見る限り真帆は……いつもと変わんないみたいだね」


「もう、元気元気。元気百倍ですよ! 今日は乙守会長をぶっ倒すつもりで登校してきたんですから!」


「ぶっ倒すって……」と榎先輩は苦笑しながら、「まぁ、真帆が元気そうでよかったよ。あたしはまた、昨日の乙守会長の言葉で真帆が夢魔を暴れさせてるんじゃないかって思っちゃったからさ。でも、ってことは、これはどういうことなワケ? なんであたしたち、また夢の中に?」


「これは夢の世界じゃないですよ、なっちゃん。現実です。私たち、乙守会長の魔法であちら側の世界に連れて来られちゃったんですよ、たぶんですけど」


「あ、あちら側? 何それ」


「あちら側はあちら側です。こちら側ではない、別の世界のことです」


「べ、別の世界? 何よそれ!」


「さぁ? あちら側……と言うより今はもうこちら側ですけど、こちら側の世界のことは、解らないことの方が圧倒的に多いので、私もそこまでは」


「乙守会長、そんなところに私たちを連れてきてどうするつもり?」


「それは、本人に聞いてみれば判ることなんじゃないですか?」


そう口を挟んできたのは、なんといつの間にやってきたのか、鐘撞さんだった。


鐘撞さんもまたホウキに乗って登校していた途中だったらしく、真帆と同じように制服を着て、とんがり帽子に黒いローブを纏っていた。


「あら、葵ちゃんも? ってことは、もしかして……」


真帆が口にするが早いか、坂道の下の方から、

「せ、先輩がた〜!」

なんだか泣きそうな声が聞こえてきた。


言うまでもない。肥田木さんである。


肥田木さんは息も切れ切れにヨロヨロしながら涙目で僕らのところまで駆けてくると、

「よ、よかった〜! わ、わたし、ひとりぼっちになっちゃったのかと怖くて怖くて……!」


「そうだね、怖かったよね、よしよし」


そんな肥田木さんの頭を、鐘撞さんが優しく撫でてあげる。まるで妹をあやすお姉ちゃんの如くだ。


肥田木さんは辺りを指差しながら、

「こ、これはいったい何なんですか? なんで辺り真っ暗なんですか? 何で誰もどこにもいないんですか? 一緒に歩いてた子たちはいきなり消えちゃうし、怖くなって家に帰ろうとしたら、いつの間にか同じところをグルグル回らされちゃうし! 仕方ながないから学校まで行ってみようって思って、ようやく先輩たちと出会えましたけど、ここ、いったい何なんですか! どこなんですか!」


肥田木さんの質問が堂々巡りを始めようとしていたので、鐘撞さんは「落ち着いて、落ち着いて、つむぎちゃん」とその背中をさすってあげる。


と、そこに、


「――全員揃ったみたいね」


坂道の上の方……数十メートル先に見える校門の辺りに視線を向ければ、そこにはホウキに乗った乙守先生――乙守会長の姿があって、僕らを見下ろすように視線をくれていた。


乙守会長は真帆たちとは対照的な真っ白なとんがり帽子(とんがりの根本部分には、月や星を模った綺麗な飾りがついていた)をかぶっており、その身にはやはり真っ白なローブ(襟元には五芒星のブローチがキラキラと輝いて見える)を羽織っていた。足元にはこれもまた真っ白なハイヒールを履いており、何だか神々しい雰囲気を纏っている。


「……乙守先生」


呟くように口にした僕と、


「出ましたね、諸悪の根源! 不老長寿のクソババァ!」


あからさまに、喧嘩をふっかけるようなことを真帆は口にしたのだった。

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