ふと、デビューしたばかりの頃のことを思い出した。
毎日が必死で、余裕なんてどこにもなくて。
それでも、焦りや不安を埋めるように、俺はふっかに触れていた。
仕事のプレッシャー、ファンの期待、自分の未熟さ……すべてがのしかかる中で、唯一、自分を保つために縋るようにふっかを求めた。
あの頃の俺は、自分の欲ばかりを優先していた。
ただ抱きしめるだけじゃ足りなくて、キスだけじゃ満たされなくて。
いつだって強引で、自分の気持ちをぶつけることしかできなかった。
ふっかは何も言わずに受け入れてくれていたけど、本当はどう思ってたんだろう。
「……ふっか」
「ん?」
隣で雑誌をめくっていたふっかが顔を上げる。
その仕草が昔と変わらなくて、胸の奥が少し痛んだ。
「デビューしたての頃さ……俺、ふっかのこと全然考えられてなかったよな」
唐突な言葉に、ふっかは目を瞬かせる。
「余裕なかったし……自分のことでいっぱいいっぱいで。今思うと、ふっかの気持ち、ちゃんと考えられてなかったなって……ごめん」
ふっかはしばらく何かを考えるように黙ったあと、くすっと笑った。
「全然大丈夫だよ。俺で気持ち良くなってくれてるの、嬉しかったし」
「……は?」
「それに、あの頃の照も可愛かったし……むしろ、あれでも我慢してたんじゃないの?」
最後まで聞く前に、俺はふっかをベッドに押し倒していた。
「ちょ……照?」
「……ふっか、そういうこと言うなよ」
じわじわと上がっていく熱を感じながら、ふっかの手を絡め取る。
「今日、いいよね」
言葉とともに口付けを落とす。
触れた瞬間、ふっかが小さく震えたのがわかった。
「待っ……ん、照……っ」
浅く息を呑む声が耳に心地よく響く。
俺は手を滑らせ、ふっかの肌を確かめるように触れた。
昔よりも少し筋肉のついた肩、変わらず柔らかい髪、触れるたびに敏感に反応する体。
「……やっぱり、ふっか可愛い」
「今言うな……っ」
恥ずかしそうに顔を逸らすふっかの頬に口付ける。
そこから顎のラインをなぞるように唇を落とし、首筋に軽く歯を立てた。
「っ……ひかる……」
俺の名前を呼ぶ声が甘く滲む。
耳元に息を吹きかけると、ふっかがビクッと肩を揺らした。
その仕草があまりにも可愛くて、俺は耐えきれず、もう一度深く唇を重ねる。
「……ん、ひかる……っ、ん……っ」
何度も角度を変えながら、貪るようにキスをする。
唇を吸い上げるたびにふっかの息が甘く乱れていくのがたまらない。
ふっかの背中に手を回し、さらに深く抱き寄せる。
「ふっか……ずっとこうしてたい」
そう囁くと、ふっかは少し目を潤ませながら、見つめてくる。
「……じゃあ、いっぱいキスする?」
その言葉に心を撃ち抜かれた。
「……ふっかが言ったんだからな?」
そう言いながら、ふっかの唇を何度も塞いだ。
——結局、その夜もふっかを抱きつぶした。