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拾われた男と、出会ったその日にまぐわった、なんて言ったら、元上司は呆れるだろうな、と優子は思う。
(だけど、今の私は……金もプライドも何もない、前科持ちの女だし……)
ひとしきり黙り込んだ後、彼女は開き直った表情を廉に向け、眼差しをかち合わせた。
「ええ。拓人という男と、出会ったその日に……セックスしました」
優子は、寝ました、とは言わず、敢えてセックスした、と答える。
「…………そうか」
彼女が廉から視線を逸らさず、じっと見つめていると、彼は合点が言ったような表情でポツリと呟く。
それきり、二人は無言になり、優子は、フイッと廉から視線を外し、高級なホテルの部屋には、重苦しい沈黙の空気に包まれた。
「岡崎」
廉が優子を呼びつつ、逡巡している表情を映し出している。
やがて決心をしたように、彼は薄く唇を開いた。
「また…………君と……会えないか?」
「…………」
まさか廉から、また会いたいなんて言われるとは思いもしなかった優子は、瞠目させた。
彼は、元部下が犯罪者だった事、忘れているのではないか、と思うほど。
「専務。私は前科一犯ですよ? 昨日、刑務所から出所したばかりなんですよ? 分かってますか?」
「…………ああ、もちろん。分かってて言っている。当然の事だが、金は払う。今日の分よりも上乗せするつもりだ」
けれど、会えないか、と聞かれても、優子はスマートフォンを持っていない。
逮捕前に使っていた自身の物は、捜査で押収されたきりだった。
「私、スマホ、持ってないですよ」
「って事は…………拓人に連絡を取って、俺が『この前抱いた女、すごく良かったから、またお願いしたい』って言えば……岡崎に会えるって事だよな?」
「まぁ……そういう事でしょうね」
廉の言い方に、ちょっとムッとしたけど、優子は、『売女』として廉と会っているんだ、と思い直す。
「俺は…………君が良ければ……また会いたい」
眼差しを絡ませながら、廉は、優子の頬にそっと触れた。