「……。」
刻々と時間は流れていくばかりで、誰も何も一言も喋らない。しにがみくんの飲んでいたタピオカのカップには水滴がついているどころか、全てが滴り落ちて机の上には小さな水たまりができていて、俺のコーヒーも湯気は消えてぬるいコーヒーになっていた。
気まずい時間が、流れては過ぎ去っていき、また目の前で流れていく。
ふと、みんなのスマホから振動音。みんなでスマホを見てみれば、それはトラゾーからの連絡だった。
『おとぎ話とかを元にしたネタとかどう?例えば白雪姫とかね!キスシーンとかおもろいことになりそうだし…。あぁ、あとは俺らのリアル悲劇の運命をマイクラで変えよう!とか!!』
トラゾーは、歌が採用されなかったと勘付いたのか数個のネタがグループチャットに送られていた。みんなはそれを見て口を結ぶ。
とても、虚しく見えたのだ。
「……っざけんな…。」
ふと、奥から聞こえるぺいんとの怒りの含んだ声。でも、少し悲しい声にも聞こえた。
「絶対俺は歌を歌いたい!!誰が否定しようが俺は歌う!絶対に! 」
そう言ってぺいんとは、カフェから飛び出した。残されたしにがみくんと俺は、悩んだ顔をした。いや、それよりもぺいんとの熱量にびっくりしたのだ。
いつものぺいんとなら面白そうなネタにはたくさん笑うし、真剣な時は真剣だけど…ここまでの熱量は見たことがなかった。
「…クロノアさんは、どう思いますか?」
しにがみくんの質問に、俺は首筋に汗が伝うのがわかった。だって、その質問は俺が1番知りたい質問だから。でも、俺はみんなの正答用紙みたいな存在。だからその質問に答えないわけにはいかないのに。
「______どれが、正解だと思いますか?」
なぜか、喉には言葉が詰まっていた。
………………………
俺___ぺいんとは自身の家まで走っていた。
その間にも俺は個人チャットでトラゾーにメールを送る。
『絶対に歌の案採用させるから!』
俺がそう送ったメールの返事は、『楽しみにしてるわ』という彼の素直な言葉だった。
とにかく、この案だけは採用にしたかった。
(くそっ…何でいっつもこうなるんだよ…!!)
自分達の悲惨な運命に、俺たちは逆らえない。俺たちの運命なのに、俺たちの人生なのに、俺たちの選択なのに…それに逆らえない。逆らったら、俺たちは毎回不幸になる。
(不正解だらけだ…。)
俺は泣きながら走って自宅まで地面を蹴った。その日、ふくらはぎが痛かったのを覚えている。
ふくらはぎが痛くて、胸が痛かったのをとてつもなくよく覚えている。その日、俺が久しぶりにみんなで笑い合いたいと思ったのも。
そうして玄関について息を整える。膝に手をついて。汗をダラダラと流して。
家に入って俺はすぐさまボールペンと紙を取り出して、ひたすら書き殴った。
俺たちの人生を語る歌_____日常組の歌詞を。
コメント
4件
続きが楽しみです!✨ (๑>◡<๑)ワクワク
凄い!もっと続きが見たくなりました!